蒼い春も、その先も、

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憂う春、君の視線

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 始業式の開始を告げるベルが轟き、校内が静まり返る。人の気配がなくなった渡り廊下を歩く一人の少年は、最低限の荷物を手に、保健室の扉を開けた。

「あ、朝比奈君。おはよう」

 交友的に挨拶をしたのは、養護教諭である佐々木里佳という女性だ。佐々木は入室した彼を一瞥し、手をつけていた事務作業に戻った。

 彼、――――朝比奈あさひな穂希ほまれは、高校に入学した当事から保健室に通っている、いわば別室登校の生徒だ。

 辛うじて進級した今年も、穂希は惰性的に保健室を訪れた。いつものように、間仕切りのカーテンを開けて、ベッドに腰を下ろす。

「初日からちゃんと来て偉いじゃん」
「こういう日は何かと持ち帰るものがあるから。家まで来てもらうのも申し訳ないしね」

 カーテン越しに聞こえた賞賛に、穏やかな返事をする。そこで会話は終わったのかと思いきや、そろりとカーテンが開いた。

「……今日せっかく来たしさ、教室に書類だけでも取りに行かない?」

 過敏な神経を刺激しない為、佐々木は意図的に語気を和らげているように思えた。
 配慮をまざまざと感じ取った穂希は、詫びたい気持ちを抑えて首を横に振る。

「皆帰ったら行く。……俺が教室に行ったら、皆気持ち悪がるだろうし」

 佐々木は当たり障りない返事だけをし、それ以上の発言をすることはなかった。
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