Rely on

antinomy

22-1

　今日は妹、美叶の命日だ。
　然れども、脳内は全くの他事を考えている。

　――――復讐の方法だ。

　思い立って、キッチンに赴く。洗い場のフルーツナイフを手に取り、じっと見つめた。
　意識的に初日を思い返すと、恐怖や痛み、スパークや卑猥な水音がじわりと蘇る。　

　本当に最悪な誕生日だった。
　親元を離れて上手く行くはずだった人生は、確かにあの日を境に瓦解した。

　そしてその張本人こそが、自身を拉致し、軟禁し、レイプした須貝昇良という男だ。

　黒光りする刃先を見据えたまま、朔斗は何度もここに来た日の記憶を反芻した。



「今日、妹さんの命日だったよな」

　食卓を前に、昇良が切り出す。

「覚えててくれたんだね」
「……お前の妹だからな」

　彼は、本来は優しい人間だ。
　不覚にも揺らぐ気持ちを、無理矢理抑え込んで、自分に言い聞かせる。

　人生を壊した人間を、行為を、肯定するなんて頭がおかしい。
　彼とのセックスは、全部復讐の為の土台に過ぎない。

　体が心を裏切ろうとも、その事実だけは変わらない。