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drop
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着信音が鳴り、昇良の肩がビクッと跳ねる。恐る恐る番号を確認すると、溜め息にも似た息をゆっくりと吐いた。
「……はい、もしもし。朝早くからお疲れ様です。はい……、ああ、はい、その件でしたら……」
流暢な話法には、いつも聞き入ってしまう。
会話から、着信相手は友人、または同僚、上司である事が分かる。彼らと会話をする昇良は、礼儀正しく闊達で、その変貌ぶりは、自分が夢を見ているのかと疑うほどだ。
これが、昇良の社会での顔なのだ。出会い方さえあんな形じゃなければ、彼の極めて魅力的な笑顔に惹き付けられていただろう。
通話を終了し、昇良は徐にナイトテーブルの抽斗から包装シートを取り出した。
無意識なのか、開き直ったのか、定かではないが、もう隠す気は無いようだ。
瓶から睡眠薬を、そしてシートからは抗不安薬を数十粒取り出し、昨夜から放置されている水で、錠剤を一気に流し込む。
――――父親から電話があった日から、ずっとこの調子だ。
休みの前夜に必ず繰り返される自傷行為には、正直うんざりする。
いつかに見た、荒れた机上をはたと思い出す。
恐らく、彼の中でこの行為は、自傷行為ではなく習慣に近い。
それでも、過量服薬の副作用で苦しむ昇良を見ていると、妹を思い出してしまって、気分が悪い。
「……何か、やめさせる方法……」
気が付けば、必死に考えていた。深く眠っている昇良の顔を、一瞥する。無防備な寝顔に、自身をレイプした男の面影は無い。
「……あれ、……そうだ、こいつ……」
――――忘れてはいけない事を、忘れていた。
しかし、いつものように憎悪が蘇ってこない。それが寧ろ、怖かった。自身の心境の変化についていけないまま、心は漠然とした焦燥感を帯び始めていた。
「……はい、もしもし。朝早くからお疲れ様です。はい……、ああ、はい、その件でしたら……」
流暢な話法には、いつも聞き入ってしまう。
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これが、昇良の社会での顔なのだ。出会い方さえあんな形じゃなければ、彼の極めて魅力的な笑顔に惹き付けられていただろう。
通話を終了し、昇良は徐にナイトテーブルの抽斗から包装シートを取り出した。
無意識なのか、開き直ったのか、定かではないが、もう隠す気は無いようだ。
瓶から睡眠薬を、そしてシートからは抗不安薬を数十粒取り出し、昨夜から放置されている水で、錠剤を一気に流し込む。
――――父親から電話があった日から、ずっとこの調子だ。
休みの前夜に必ず繰り返される自傷行為には、正直うんざりする。
いつかに見た、荒れた机上をはたと思い出す。
恐らく、彼の中でこの行為は、自傷行為ではなく習慣に近い。
それでも、過量服薬の副作用で苦しむ昇良を見ていると、妹を思い出してしまって、気分が悪い。
「……何か、やめさせる方法……」
気が付けば、必死に考えていた。深く眠っている昇良の顔を、一瞥する。無防備な寝顔に、自身をレイプした男の面影は無い。
「……あれ、……そうだ、こいつ……」
――――忘れてはいけない事を、忘れていた。
しかし、いつものように憎悪が蘇ってこない。それが寧ろ、怖かった。自身の心境の変化についていけないまま、心は漠然とした焦燥感を帯び始めていた。
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