Rely on

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 夜更けの車道を滑走するワゴン車の中、過敏になった聴覚が、男たちの声を捉える。
 電子音楽が大音量で流れているためか、会話の内容を聞き取ることは出来ない。

 視界は不明瞭で、横転した体も思い通りに動かず、危機的な状況だと分かっているのにくぐもった声ばかりが情けなく零れる。

 混乱する脳内で必死に突破口を探しているうちに、朔斗さくとの記憶は数分前まで遡った。



 ――――就職活動の為、行く先々で求人広告を眺めていた。不合格の通知を受け取る日々に疲弊しながらも、将来への希望だけは捨てずに、出来るだけのことはした。

 ウィークリーマンションに戻るまでの道中でも、情報収集に勤しみ、夜道に響く他人の会話や足音などは、一切気にしていなかった。

 今となっては、その無関心こそが命取りになったのだと思う。
 もっと、周囲を警戒しておくべきだったのだ。

 だが人は、変化のない日常を訝る事はない。
 事件や事故などは所詮他人事で、良くも悪くも、変わらぬ日常がずっと続いていくと言う潜在意識が、人の中にはあるのだから。


 
 その日も何時ものように通い慣れた小道を歩いていると、足元を大型車のヘッドランプが照らしている事に気が付いた。
 振り向いた先に在ったワゴン車は、徐行しながら近付いてくる。

 それでもまだ、朔斗は“日常”の中に居た。

 ワゴン車は鈍い音を発しながら、徐々に朔斗との距離を詰めてゆく。
 そして、彼の一歩先で停車した。
 そこで漸く、“日常”に疑心が芽生える。
 ワゴン車のドアが開いた瞬間、朔斗も地面を蹴り出す。

 しかし、既に遅かった。

 朔斗の華奢な体が複数の男に捕まれ、抗えない力により車内に引き摺り込まれる。
 助けを呼ぶ間も無くドアが閉まり、車は急発進した。

 そこから目と口が塞がれ、手足を縛られるまで、恐らく一分も掛からなかった。

 まさに、一瞬の出来事だった。
 こうして朔斗の日常は、非日常へと瞬間的に墜落していった。
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