さよならピクトさん

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第五話

5-4

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 ピクトさんに質問されるままに、俺は淡々と答えていく。今日の話題は『猫』だ。
 愛猫であるトットについて語ると、彼は相槌を打ちながら、靄のかかった日々を懐かしんでいた。

「でさぁ、トットがすごい勉強の邪魔してきて。何回退けても紙の上に乗ってくるから、最終的にはこっちが折れるんだよなぁ」
「あ!!!!」

 ピクトさんが声を張り上げる。よくあることなので、驚きはしない。

「……どうかした?」
「三宅くんも笑うんだーと思って!」

 思わず自分の頬に手を当てる。笑顔と言うものは、感触だけでは分からないものだ。
 敢えて口にするほどに、俺の顔は殺風景だったのだと、今更気付かされる。

「てか見えるんだね」
「だいぶ霞んでるけどねー。埃を被ってるからかもしれない!」

 改めて誘導灯を観察してみると、案の定細かな埃に覆われていた。

「今度掃除するよ」
「ほんとー!? ありがとー!」

 走っているという構図のピクトグラムだが、心なしかその姿が、喜び駆け回っているように見えてくる。

 実際、ピクトさんは大歓喜していた。彼ひとりから発せられる歓声が、頭上で何度か繰り返されてから、ごく自然に止んだ。

「ねぇ、三宅くん」
「何?」
「君のおかげで退屈な人生がとても明るくなったよ」

 不意にそう言われて、気恥ずかしくなる。こんな台詞を聞けるのは、映画やドラマの中だけだと思っていた。

「住んでいるのはこんな暗がりだけどね!」

 ピクトさんらしいジョークが付け足され、ごく自然に笑い声が零れる。しかし気恥ずかしさは、収まらない。

 それでも、顔のない彼にならいつか言う事が出来る気がした。

 俺も同じだ、と。
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