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第五話
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ピクトさんに質問されるままに、俺は淡々と答えていく。今日の話題は『猫』だ。
愛猫であるトットについて語ると、彼は相槌を打ちながら、靄のかかった日々を懐かしんでいた。
「でさぁ、トットがすごい勉強の邪魔してきて。何回退けても紙の上に乗ってくるから、最終的にはこっちが折れるんだよなぁ」
「あ!!!!」
ピクトさんが声を張り上げる。よくあることなので、驚きはしない。
「……どうかした?」
「三宅くんも笑うんだーと思って!」
思わず自分の頬に手を当てる。笑顔と言うものは、感触だけでは分からないものだ。
敢えて口にするほどに、俺の顔は殺風景だったのだと、今更気付かされる。
「てか見えるんだね」
「だいぶ霞んでるけどねー。埃を被ってるからかもしれない!」
改めて誘導灯を観察してみると、案の定細かな埃に覆われていた。
「今度掃除するよ」
「ほんとー!? ありがとー!」
走っているという構図のピクトグラムだが、心なしかその姿が、喜び駆け回っているように見えてくる。
実際、ピクトさんは大歓喜していた。彼ひとりから発せられる歓声が、頭上で何度か繰り返されてから、ごく自然に止んだ。
「ねぇ、三宅くん」
「何?」
「君のおかげで退屈な人生がとても明るくなったよ」
不意にそう言われて、気恥ずかしくなる。こんな台詞を聞けるのは、映画やドラマの中だけだと思っていた。
「住んでいるのはこんな暗がりだけどね!」
ピクトさんらしいジョークが付け足され、ごく自然に笑い声が零れる。しかし気恥ずかしさは、収まらない。
それでも、顔のない彼にならいつか言う事が出来る気がした。
俺も同じだ、と。
愛猫であるトットについて語ると、彼は相槌を打ちながら、靄のかかった日々を懐かしんでいた。
「でさぁ、トットがすごい勉強の邪魔してきて。何回退けても紙の上に乗ってくるから、最終的にはこっちが折れるんだよなぁ」
「あ!!!!」
ピクトさんが声を張り上げる。よくあることなので、驚きはしない。
「……どうかした?」
「三宅くんも笑うんだーと思って!」
思わず自分の頬に手を当てる。笑顔と言うものは、感触だけでは分からないものだ。
敢えて口にするほどに、俺の顔は殺風景だったのだと、今更気付かされる。
「てか見えるんだね」
「だいぶ霞んでるけどねー。埃を被ってるからかもしれない!」
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それでも、顔のない彼にならいつか言う事が出来る気がした。
俺も同じだ、と。
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