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第四話
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意思を持ったピクトグラムという不思議な存在に出会って、早ひと月が経過した。
ピクトさんと会話するのが日課になっていた俺は、単位の足りている授業が始まる前に今日も教室を抜け出して、ここ、非常口に来ていた。
「ピクトさん、俺からも質問していい?」
「どうぞ!」
何の前触れもなく問うたにも関わらず、ピクトさんはいつもの調子で快諾する。
「ピクトさんは、なんでここにいるかとかって……その、全然覚えてないの?」
躊躇いつつも訊ねてみると、誘導灯からうーん、と低い声が聞こえてきた。
「……気付いたらここにいたからなぁー」
それは、予想通りの回答だった。
この一ヶ月間、登校した際には必ず彼と会話をしたが、そのどれもが記憶に残らないような、有り触れた会話だったからだ。
やはり、ピクトさんは物質に憑依した魂などではなく、生まれた時からここに棲みついている、いわば守り神みたいなものだろうか。
とても古い校舎だ。霊ではなく、神様という可能性も捨てがたい。だが、もしそうであれば、奥さんや動物の話がどうも引っ掛かってしまう。
彼が自分の正体を突き止めたいというのなら止めやしないが、本当は正体なんていうものはどこにも無いんじゃないかとも思えてくる。
――――いや、俺はやはり心のどこかで、それを望んでいるのかもしれない。
ピクトさんと会話するのが日課になっていた俺は、単位の足りている授業が始まる前に今日も教室を抜け出して、ここ、非常口に来ていた。
「ピクトさん、俺からも質問していい?」
「どうぞ!」
何の前触れもなく問うたにも関わらず、ピクトさんはいつもの調子で快諾する。
「ピクトさんは、なんでここにいるかとかって……その、全然覚えてないの?」
躊躇いつつも訊ねてみると、誘導灯からうーん、と低い声が聞こえてきた。
「……気付いたらここにいたからなぁー」
それは、予想通りの回答だった。
この一ヶ月間、登校した際には必ず彼と会話をしたが、そのどれもが記憶に残らないような、有り触れた会話だったからだ。
やはり、ピクトさんは物質に憑依した魂などではなく、生まれた時からここに棲みついている、いわば守り神みたいなものだろうか。
とても古い校舎だ。霊ではなく、神様という可能性も捨てがたい。だが、もしそうであれば、奥さんや動物の話がどうも引っ掛かってしまう。
彼が自分の正体を突き止めたいというのなら止めやしないが、本当は正体なんていうものはどこにも無いんじゃないかとも思えてくる。
――――いや、俺はやはり心のどこかで、それを望んでいるのかもしれない。
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