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「ここのクッキー初めて食べたけど美味しいね」
「じゃああと食っていいよ。朔斗甘いもん好きだろ」
6枚あるうちの2枚を食べ終えて、昂良はコーヒーを口に含んだ。釈然としない心持ちのまま、3枚目を手にとる。
一般的に販売されているクッキーよりも甘さが少なく、夜に食べても重たくならない軽い食感がクセになる。
「……嬉しくないの?」
「有難いとは思うけど、嬉しくはないな」
嬉しくない、と躊躇なく言えることに疑問を抱く。懐疑心に追い討ちをかけるように、
「誕生日だから、祝われてるんだ。嬉しくねぇよ」
昂良が台詞に似合わない、寂しげな笑みを見せる。
「それ、どういう事?」
「誕生日だから何かあげなきゃ、誕生日だからおめでとうって言っとこう。……みんなそんなもんだと思ってるから」
あまりに偏屈な考えに、甘美を味わう手も止まる。
「なんでそんな捻くれてんだって思ってるだろ」
「うん、まぁ」
「はは、朔斗って変なとこで素直だよなぁ」
頬を小突かれ、思わず振り払った。昂良は小動物とでも戯れているかのように、無邪気に笑う。
「……俺が居た施設、毎月お誕生日会ってのがあって誕生月の人は強制参加させられるんだけど、普段俺を殴ったり蹴ったりしてくる奴らが誕生日会やってる間だけは善人ぶっておめでとうって言ってきたり、プレゼントくれたりすんだよ」
子供みたいな笑顔のまま、笑い話にするには重苦しい過去を突如として聞く羽目になり、心ともなく緘黙する。
「でも誕生日会が終わったらその日の夜におめでとうって言いながら、頭から水被せてきたり、誕生日パーティーの続きとか言って物隠してきたりするんだ」
彼が入所していた児童養護施設が好環境ではなかったことは、以前昂良の口から直接聞いた。
だがその環境の酷さは、どうやら想像だけでは補うことの出来ないレベルのものらしい。
「誕生日を知ったのも、“お祝い”されたのも、施設に入った15の時で初めてだったけど、もっと楽しいもんだと思ってたから知らない方が良かったって思った。……だから全然嬉しくないんだ」
誕生日に貰うプレゼントや祝福の言葉に対する喜びを知った上でそれらを失い手放した朔斗には、彼の気持ちを完全に汲み取ることは不可能だ。けれど事実を聞いてしまった以上、それなら仕方ないね、と言わざるを得ない。
「……ごめん、嫌なこと話させて」
「でもさつきと朔斗は『したい』って思ってしてくれたの分かったから、素直に喜べたんだろうな」
「ダウンベストまだ着てるもんね」
「マジであったかいぞコレ」
きっと昂良が気付いていないだけで、真心からプレゼントを送る者も存在するだろう。
彼がそこに目を向けられるようになるまでに、まだまだ時間がかかりそうだ。
それまでは、さつきのいない世の中で、昂良の誕生日に意味を見出せるのはたった一人、――――自分しかいない。
「じゃああと食っていいよ。朔斗甘いもん好きだろ」
6枚あるうちの2枚を食べ終えて、昂良はコーヒーを口に含んだ。釈然としない心持ちのまま、3枚目を手にとる。
一般的に販売されているクッキーよりも甘さが少なく、夜に食べても重たくならない軽い食感がクセになる。
「……嬉しくないの?」
「有難いとは思うけど、嬉しくはないな」
嬉しくない、と躊躇なく言えることに疑問を抱く。懐疑心に追い討ちをかけるように、
「誕生日だから、祝われてるんだ。嬉しくねぇよ」
昂良が台詞に似合わない、寂しげな笑みを見せる。
「それ、どういう事?」
「誕生日だから何かあげなきゃ、誕生日だからおめでとうって言っとこう。……みんなそんなもんだと思ってるから」
あまりに偏屈な考えに、甘美を味わう手も止まる。
「なんでそんな捻くれてんだって思ってるだろ」
「うん、まぁ」
「はは、朔斗って変なとこで素直だよなぁ」
頬を小突かれ、思わず振り払った。昂良は小動物とでも戯れているかのように、無邪気に笑う。
「……俺が居た施設、毎月お誕生日会ってのがあって誕生月の人は強制参加させられるんだけど、普段俺を殴ったり蹴ったりしてくる奴らが誕生日会やってる間だけは善人ぶっておめでとうって言ってきたり、プレゼントくれたりすんだよ」
子供みたいな笑顔のまま、笑い話にするには重苦しい過去を突如として聞く羽目になり、心ともなく緘黙する。
「でも誕生日会が終わったらその日の夜におめでとうって言いながら、頭から水被せてきたり、誕生日パーティーの続きとか言って物隠してきたりするんだ」
彼が入所していた児童養護施設が好環境ではなかったことは、以前昂良の口から直接聞いた。
だがその環境の酷さは、どうやら想像だけでは補うことの出来ないレベルのものらしい。
「誕生日を知ったのも、“お祝い”されたのも、施設に入った15の時で初めてだったけど、もっと楽しいもんだと思ってたから知らない方が良かったって思った。……だから全然嬉しくないんだ」
誕生日に貰うプレゼントや祝福の言葉に対する喜びを知った上でそれらを失い手放した朔斗には、彼の気持ちを完全に汲み取ることは不可能だ。けれど事実を聞いてしまった以上、それなら仕方ないね、と言わざるを得ない。
「……ごめん、嫌なこと話させて」
「でもさつきと朔斗は『したい』って思ってしてくれたの分かったから、素直に喜べたんだろうな」
「ダウンベストまだ着てるもんね」
「マジであったかいぞコレ」
きっと昂良が気付いていないだけで、真心からプレゼントを送る者も存在するだろう。
彼がそこに目を向けられるようになるまでに、まだまだ時間がかかりそうだ。
それまでは、さつきのいない世の中で、昂良の誕生日に意味を見出せるのはたった一人、――――自分しかいない。
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