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affection
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力なくドアを開けるなり、人懐っこい大型犬の如く昂良が走ってくる。
「おかえり!」
「……ただいま」
顔を上げる気になれず、俯いたまま荷物を置きコートを脱いでいると、彼が吹き出した。
「お前荷物そんだけで行ったのかよ、故郷に帰ったとは思えない少なさだなー」
「お土産買ってこなかった、……ごめん」
「いや謝ってほしいんじゃなくて、なんか面白くて…………朔斗?」
両親の会話がずっと頭から離れない。忌々しい言葉の数々を反芻する度に、自身の無力さも味わう。
顔を覗き込んでくる昂良を擦り抜け、朔斗は居間のソファーに崩れ落ちた。躊躇せずに、昂良も隣に腰を下ろす。
「何かあった?」
先ほどとは打って変わって、宥めるような声遣になる。その声は肩を撫でる手のひら同様に、温かい。
「……両親が居た」
漸く口にすると、昂良が『えっ』と声を上げた。
「話したの?」
「いや、話せなかった」
膝の上で握った拳が、小刻みに震える。
「言わなきゃいけないことたくさんあったのに、勇気が出なかった」
今まで自分が我知らずと強がっていた事に、気付かされただけだった。それ以外に、得られたものなど何一つ無かった。自分自身の脆弱性が、底の見えない塊根の情を連れてきたのだ。
「僕はまた、何も出来なかった……」
熱を含んだ雫が一粒落ちて、忽ちジーンズに染み込んだ。慌てて涙を拭おうとした瞬間、昂良に抱き締められる。
体を包まれたまま髪を掻き撫でられ、いとも容易く身を預けてしまう。
抱擁は互いの帰宅時や交合の際にする常套的な行為だが、こんな風に抱き締められるのは初めてだ。
ただ黙って全てを受け入れてもらうと言うのは、これ程に精神を解放するものなのかと、身をもって実感する。
この頃の昂良との性行為には異常性や、彼の心底にある危うさを感じていたが、勘違いだったのかもしれない。
昂良は、こんなにも優しく人に触れられるのだから。
「おかえり!」
「……ただいま」
顔を上げる気になれず、俯いたまま荷物を置きコートを脱いでいると、彼が吹き出した。
「お前荷物そんだけで行ったのかよ、故郷に帰ったとは思えない少なさだなー」
「お土産買ってこなかった、……ごめん」
「いや謝ってほしいんじゃなくて、なんか面白くて…………朔斗?」
両親の会話がずっと頭から離れない。忌々しい言葉の数々を反芻する度に、自身の無力さも味わう。
顔を覗き込んでくる昂良を擦り抜け、朔斗は居間のソファーに崩れ落ちた。躊躇せずに、昂良も隣に腰を下ろす。
「何かあった?」
先ほどとは打って変わって、宥めるような声遣になる。その声は肩を撫でる手のひら同様に、温かい。
「……両親が居た」
漸く口にすると、昂良が『えっ』と声を上げた。
「話したの?」
「いや、話せなかった」
膝の上で握った拳が、小刻みに震える。
「言わなきゃいけないことたくさんあったのに、勇気が出なかった」
今まで自分が我知らずと強がっていた事に、気付かされただけだった。それ以外に、得られたものなど何一つ無かった。自分自身の脆弱性が、底の見えない塊根の情を連れてきたのだ。
「僕はまた、何も出来なかった……」
熱を含んだ雫が一粒落ちて、忽ちジーンズに染み込んだ。慌てて涙を拭おうとした瞬間、昂良に抱き締められる。
体を包まれたまま髪を掻き撫でられ、いとも容易く身を預けてしまう。
抱擁は互いの帰宅時や交合の際にする常套的な行為だが、こんな風に抱き締められるのは初めてだ。
ただ黙って全てを受け入れてもらうと言うのは、これ程に精神を解放するものなのかと、身をもって実感する。
この頃の昂良との性行為には異常性や、彼の心底にある危うさを感じていたが、勘違いだったのかもしれない。
昂良は、こんなにも優しく人に触れられるのだから。
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