Rely on -each other-

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omen

5-6

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「……小さい頃に体調崩したことがあってさ、母親に吐いた方が良いって言われたから吐いたんだ。そしたら汚い顔って笑ってた。気持ち悪くなる度にそれを思い出すんだ」

 抱き合ったまま、昂良が口にする。授業中に教師に指名された子供の音読のような語気が、何故だか当時の様子を生々しく想見させる。

 母親による罵倒の後に待っていたのは、厳しい折檻だった。床を汚した罰として掃除を強いられ、父親には背中に煙草を押し付けられ、真冬にも拘らず『汚いから』と言う理由だけで頭から冷水シャワーを浴びせられた。言を俟たず体調が悪化し、翌日は学校に行けなかったと言う。

「だから、人前で吐くのがすごく怖い」
「……ごめん」
「いや、謝ってほしいわけじゃないんだ。ただそれで吐けなかった」
「そう」

 背中が震えている。彼は弱っている時に限って、普段遠ざけているようなことを延々と言葉にする。その言動が理解出来ない朔斗は、心痛を隠し通して、ひたすらに昂良を肯定することしか出来なかった。

「朔斗はあんなの見て汚いって思わないのか?」
「別に。僕も吐く時あるし」
「……俺の顔は?」
「汚くないよ」

 普段の彼からは想像もつかない今にも泣きそうな幼い顔が、朔斗の言葉を疑っている事は明らかだ。あらゆる綺麗な言葉を、紛れもない真実を、今の彼に投げようと全て無駄になるだろう。

 黙考した結果、朔斗は腕を解き、昂良の頭を引き寄せていた。一呼吸置いて、初めて自分から唇を重ねる。

「汚くない」

 昂良の驚きは、薄明るさの中でもありありと見て取れた。

「……お前正気かよ」

 カーテンの隙間から差し込んだ陽光が、彼の紅潮した頬を照らす。数時間前まで真っ青だった顔は健やかな白皙になり、瞳には輝きが戻っていた。

 自分でも分からない。何故、こんなことが出来たのか。
 それでも昂良の口角にささやかな笑みを捉えられたのだから、選択はきっと正しかった。

「夜ご飯は食べれそう?」

 昂良は柔和な顔色で頷いた。心身につかえたものを吐き出してスッキリしたのか、軽く伸びをしてから再び寝転がる。

「早くやりたいなー」
「元気だなぁ。何だったの、さっきまでのやつ。忙しい人だなぁ」
「はは」
「変なの、カーテン開けるよ」

 呆れつつも、心には確かな安堵が芽生える。

 今日は昂良の好きな食べ物を作ってあげよう。何が好きなんだっけ。

 考えながらカーテンを開ければ、柔らかな日差しが寝室に降り注いだ。窓辺に立つ朔斗の背中を、昂良はもう一度抱き締め、その頬に口付けた。
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