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omen
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入念な清掃を終え、漸く一息吐く。コップ一杯の水を流し込み、朔斗は音を立てぬよう慎重に寝室のドアを開けた。
「朔斗、迷惑かけてごめん」
入室するなり聞こえた声に、立ち止まる。昂良は未だベッドの上に蹲ったままだが、語調を聞く限り復調傾向は明らかだった。
「なんだ、起きてたのか。いいよ気にしなくて。それより体調は良くなったの?」
「ん、だいぶ」
昂良が徐に起き上がったことで、その言葉が嘘でないことを確信する。遮光カーテンを閉め切った部屋は真昼間にも拘わらず薄暗く、顔色を確かめるには少しだけ明るさが足りない。
「カーテン開けても大丈夫?」
「……まだ、閉めといてほしい」
頷き、朔斗は手に持っていた薬と体温計を持ってベッドの脇に腰を下ろした。
薄日に包まれたかのような寝室は、相変わらず美叶を看病していた日々を彷彿とさせる。ひとつだけ違うことと言えば、たった今自身を抱き締めてきた体があの頃よりも大きい事くらいだろう。
二人きりの室内で理由もなく辺りを見渡してから、体を翻し、彼の背中にそっと手を回す。
「怖かったね、もう大丈夫だよ」
昂良は震える吐息を漏らすばかりで、何も言わない。ただ時間が経つにつれ、朔斗の華奢な体は引き寄せられ、気が付けば彼との間に一切の隙間が無くなっていた。
「朔斗、迷惑かけてごめん」
入室するなり聞こえた声に、立ち止まる。昂良は未だベッドの上に蹲ったままだが、語調を聞く限り復調傾向は明らかだった。
「なんだ、起きてたのか。いいよ気にしなくて。それより体調は良くなったの?」
「ん、だいぶ」
昂良が徐に起き上がったことで、その言葉が嘘でないことを確信する。遮光カーテンを閉め切った部屋は真昼間にも拘わらず薄暗く、顔色を確かめるには少しだけ明るさが足りない。
「カーテン開けても大丈夫?」
「……まだ、閉めといてほしい」
頷き、朔斗は手に持っていた薬と体温計を持ってベッドの脇に腰を下ろした。
薄日に包まれたかのような寝室は、相変わらず美叶を看病していた日々を彷彿とさせる。ひとつだけ違うことと言えば、たった今自身を抱き締めてきた体があの頃よりも大きい事くらいだろう。
二人きりの室内で理由もなく辺りを見渡してから、体を翻し、彼の背中にそっと手を回す。
「怖かったね、もう大丈夫だよ」
昂良は震える吐息を漏らすばかりで、何も言わない。ただ時間が経つにつれ、朔斗の華奢な体は引き寄せられ、気が付けば彼との間に一切の隙間が無くなっていた。
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