Rely on -each other-

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omen

5-1

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 居間に近付くほど鮮明になる燻製特有の香りに、コーヒーの匂いが混じる。
 つい朝だなぁ、と口にしてしまいそうになる薫香と薄寒い空気が、眠気を徐々に溶かしていく。

 朔斗は居間に歩み入ると、すぐに挨拶を飲み込んだ。昂良のスマートフォンのスピーカーから、見知らぬ男の声が聞こえたからだ。
 ハンズフリーでの会話に自身の声が入ってしまわぬようにと、手振りと目配せで挨拶をする。一瞬視線が絡めば、彼が嬉しそうに目を細めた。

 LDKに響く溌剌とした声は、随分と親しげだ。会話の内容から、相手は昂良の旧友である事を推測する。

 朔斗は濡れ布巾を絞り、黙々とテーブルを拭いた。横目に見る昂良が、プレゼントしたダウンベストを当然のように着ているのが何だかおかしい。

 だが、“プレゼントは一種の仕来り”だとか、“金を持っている奴と繋がっていたいだけ”だとか、大層な被害妄想をして酷く落ち込む彼が純粋に喜ぶ姿は、同時に見てて可愛らしかった。

 不意に、電話越しに『パパ、早く!』と声がする。どうやら、相手側には子供が居るらしい。

『うるさくてごめんな? なんか、一次反抗期ってやつ? で、すっごい突っかかってくんだよー』
「大変だな」
『大変だけど、やっぱ可愛いんだよなぁー』

 どんな顔をしているのか想像に容易い間の抜けた声で、男が笑った。さり気無く昂良を見遣ると――――案の定、彼は表情を強張らせていた。

『今二人居んだけどさぁ、改めて家族って良いなーって思ったわ~』

 昂良は笑っていたが、恐らく、それはただの誤魔化しに過ぎなかった。漸く、二人の関係性が存外希薄な物だと察知する。

 今度遊びに来いよと言う男の言葉で会話が幕を閉じるまで、昂良は相手に合わせた笑声と、適当な相槌を繰り返していた。

「昂良、なんか手伝う事ある?」
「あ、いや……」

 笑顔とは言い難い口元に、不安が過ぎる。

「……大丈夫?」

 問い掛けると、昂良は俯いたまま小さく頷いた。まるで親に叱られた子供みたいだ。日常の些細な動きにすら、彼の過去を覗いた気分になる。

「これ何作ってるの?」
「ピザトースト」
「美味しそうだね。僕ケチャップ塗るよ」

 多少は気が紛れるだろうと切り出した話も、すぐに終わってしまった。

 こんな時最も傍に居る自身という人間が、手を握ったり、口付けをしたり、抱き締めたりすることが出来たなら。

 悶々と考えていると、ベーコンを切っていた昂良が動きを止めた。

「そういえば、今日仕事帰りに墓参り行ってくるから、帰り遅くなる」
「ん、分かった。ここ着く時間わかったら教えて」

 思わずそう付け足す。まだ外出してもいないのに、昂良がちゃんとここに帰ってくるか、不安になってしまったからだった。

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