3 / 39
nameless
1-3
しおりを挟む
机に、チョコレートケーキとフルーツタルトが一切れずつ並ぶ。誕生日にケーキを食べるのはいつぶりだろうか。まぁ、どうでもいいか。考えるのをやめ、フォークを手に取る。
「朔斗、誕生日おめでとう」
「ありがと」
祝福の言葉に不思議な感覚を覚えつつもチョコレートケーキを口に運ぶと、程よい甘味がじわりと広がった。
「今年で22だっけ? 若いなぁ」
「昂良は次で30かぁ、おめでと」
「うるせえ」
声は僅かに怒気を含んでいたが、その瞳は穏やかさを湛えて朔斗を見据えている。朔斗は彼が顔を見つめているのか、口元に近付けたチョコレートケーキを見つめているのか分からずに、静止した。
「……こっちのも食べる?」
「あ、マジ? ちょうだい」
食べようとしていたチョコケーキを、そのまま昂良の口元に差し出す。彼は僅かに目を瞠った。
「食べないの?」
催促して漸く、昂良が食い付いた。見計らってフォークを抜き取り、フルーツタルトに手を伸ばす。そして再び朔斗がフォークを咥えるまでの動作を、彼は凝視していた。
「お前それ無意識?」
「は?」
「他の奴には絶対やんなよ」
「だから何の話?」
返事は無い。追求する気にもならず、沈黙の中ケーキを食べ進める。
“普通の誕生日”とは、きっとこんな感じなのだろう。この瞬間さえ自身を犯した男の好意であることは、紛れもない事実だ。それでも、この鈍感な心が感じ取れる程の喜びがある。
前方からの視線を受け流しつつ、深みのある甘さを噛み締める。昂良が何かを言いかけてやめたのも、敢えて流した。彼の端正な顔が、些々たる憂いを帯びていたからだった。
「朔斗、誕生日おめでとう」
「ありがと」
祝福の言葉に不思議な感覚を覚えつつもチョコレートケーキを口に運ぶと、程よい甘味がじわりと広がった。
「今年で22だっけ? 若いなぁ」
「昂良は次で30かぁ、おめでと」
「うるせえ」
声は僅かに怒気を含んでいたが、その瞳は穏やかさを湛えて朔斗を見据えている。朔斗は彼が顔を見つめているのか、口元に近付けたチョコレートケーキを見つめているのか分からずに、静止した。
「……こっちのも食べる?」
「あ、マジ? ちょうだい」
食べようとしていたチョコケーキを、そのまま昂良の口元に差し出す。彼は僅かに目を瞠った。
「食べないの?」
催促して漸く、昂良が食い付いた。見計らってフォークを抜き取り、フルーツタルトに手を伸ばす。そして再び朔斗がフォークを咥えるまでの動作を、彼は凝視していた。
「お前それ無意識?」
「は?」
「他の奴には絶対やんなよ」
「だから何の話?」
返事は無い。追求する気にもならず、沈黙の中ケーキを食べ進める。
“普通の誕生日”とは、きっとこんな感じなのだろう。この瞬間さえ自身を犯した男の好意であることは、紛れもない事実だ。それでも、この鈍感な心が感じ取れる程の喜びがある。
前方からの視線を受け流しつつ、深みのある甘さを噛み締める。昂良が何かを言いかけてやめたのも、敢えて流した。彼の端正な顔が、些々たる憂いを帯びていたからだった。
応援ありがとうございます!
33
お気に入りに追加
155
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる