Dreaming Queen〜仲間に追放された女王に巻き込まれ、しがない刑事は化け物狩りを決意する〜

宇里シロウ

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仕事終わり。狩りの始まり。 下

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「お待たせしましたー。大盛りフルーツパフェです」
「わはぁぁぁ! これは感動モノですね!」

 スポンジケーキとムースの層から出来た地にそびえ立つ、生クリームとアイスクリームの山。その上に載せられた色鮮やかな果物達はまるで頂きに辿り着いた登山者のよう。
 そんな巨大パフェを目の当たりにし、オミッドはそんな感想を抱いた。それと同時に、それにしてもデカいな、と戦慄していた。
 対してカーティはというと、来店早々に注文したそれと対面し、爛々と目を輝かせていた。

「ここのパフェ、一回食べてみたかったんですよねー。それにしても、噂に違わぬ巨大さですね!」
「お前さっき死ぬほどバーガー食ってたけど、こんな量食べ切れるのか?」

 心配して言ったが、当のカーティはその言葉の意味が分からず首を傾げる。

「え? あんなの腹六分目くらいですよ」
「う、嘘だろ……」
「ま、デザートは別腹、と言います。大丈夫ですよ、これくらい」
 
 と、軽く流してパフェスプーン片手にパクパクと巨大なスイーツの山への挑戦を始めた。

「お前、もしかしてこのパフェ食べに来ただけじゃないよな?」
「無論ですよ。あっ、もしかして暇ですか?
 じゃあ既に何件か候補を見繕いましたので、私が食べ終わるまでそちらに目を通しておいて下さい」

 言いたい事は沢山あるが、言った所で何かが変わる気が感じられなかったオミッドは、グッと堪えて差し出された携帯端末を受け取る。
 パフェを完全制覇するまで暇なのは確かなので、コーヒーを傾けながら候補先を眺める。
 うん、批判よりかは有意義だ。そう思う事にした。
 凄まじい速度でパフェを胃に収めて、美味しそうに食べる彼女の笑顔に苦笑しながら、オミッドは候補を確認していく。

「ここは……」
「ん? お眼鏡にかなう場所、見つけました?」
「ああ、見つけたは見つけたんだが……」

 カーティに見やすいように画面を向けると、彼女は手を止めて身を乗り出して確認する。

「ああ、ここですか。何かここに問題でも……あっ」

 オミッドが見せたそこは、廃工場だった。
 そこでカーティは嫌な予感をせずにはいられず、そしてその予感はやはり当たった。

「ここなんだよ。例の場所」
「えっとその……。なんか、すいません……」
「いや、そこは良いんだ。それより聞きたいのは、お前から見た意見だ。
 ここはどうなんだ?」

 そう聞かれて、カーティは画面の情報や周辺図を顎に手を当てて凝視する。

「えっと……十分な広さはありますし、周囲に人気は無さそうですし、立地も狭く入り組んでいます。
 実に好条件だとは思いますが……先輩は良いんですか?」
「確かにあそこは親父の死に場所だ。けど、同時に最期に犯人を逮捕した場所でもあるんだ。
 こういうのは、気の持ちようなんだろ? なら、親父の最期の行いに肖ろうと思ったんだけど……ダメか?」
「フフッ、ダメなんかじゃありませんよ。立派な考え方だと、私は思いますよ?」

 気恥ずかしそうに言うオミッドに、カーティは優しく微笑んだ。……口元にクリームをつけながら。

「そ、そうか。そう言ってくれると助かる」
「どういたしまして、です」
「あ、それとカーティ。口元にクリームついてるぞ」
「えっ!? ハハハ、ホントだ……。は、恥ずかしいですね、タハハ……」

 一見礼儀正しいように見せて、実は結構図太いカーティだが、彼女には確かな魅力がある。
 短い付き合いながら、オミッドはそう感じていた。
 血族狩りという特殊な環境に身を置いているかなのか、元来の優しさから来るものなのかは分からないが、少なくとも彼女が協力者でいてくれる事がとても心強いのは確かだった。
 そんな、明らかな動揺を見せる彼女は、恥ずかしさを紛らすようにスプーン捌きを更に加速させ、あっという間に山盛りパフェの完全踏破を成し遂げた。
 その後、ここのパフェ代もオミッドが払おうとしたが、流石に気を遣ったカーティはそれを拒否。
 そんな感じで、どっちが払うかで数分ほど軽く揉めたものの、最終的に割り勘で手を打って店を出る。

「食後のデザートも終えて気分上々! では、現地に向かうとしましょう」
「やっぱりパフェ食うのが目的だったんじゃないか……? まあ、いい。うん、行こう」

 事件が起きてからは注意喚起やら警官の巡回等によって減りはしたものの、繁華街には人が集まる。自分が被害者になる可能性だってあるのに、集まる。そうして呑気に、当事者の自覚無く笑って、騒いでる。
 きっと、ある種のファンタジーのように思っているのだろう。
 しかしこのダミアには確かに惨事が起こっており、犠牲者は今も出ているかも知れない。
 自分は、それに立ち向かわなければならない。
 警官として、知ってしまった者として。自分に出来る事を以ってこの街を守らねばならない。
 そう、繁華街を歩きながら改めて気を引き締めた。
 
「そう言えば、この辺にいる下級の血族って強さ的にはどんな感じなんだ?」
「強さ、ですか。
 そうですね……私なら下級階梯の血族なら余裕で轢き殺せます。
 しかし先輩はただの一般人。子爵の下の男爵バロンはおろか、その下の士爵ナイトにすら苦戦するかと」
「そんなに役に立たないのか、俺……」
「それが普通です。
 しかし対血族用の剣と銃でなら、下級相手なら掠ったとしても血族に大きな損傷を負わせられます。
ちなみに、士爵は自我は無く知能もあまり高くは無い、与えられた命令だけを実行する動く死体みたいなものです。
 ですから、立ち回り次第では士爵位なら相手取れるかもですね。
 まあ戦闘になったら、自分の命を優先して戦って下さい。私が片付けますから」
「ああ。分かった」

 などと言うが、戦闘になればいくらカーティとはいえ、手が回らなくなる可能性もある。
 オミッドは彼女の助言を有難く受け取る事にした。

「で、気付いてますか? 今そんな士爵達が三人ほど、私達の後をつけています」
「えっ?」
「振り向かないで下さい。相手はまだ此方が知覚した事に気付いていませんから」

 そう言われて、振り返りそうになった事がバレないように何とか身体を元に戻す。

「どうやら気付かれなかったようですね
 ここは人目が多過ぎます。このまま人目の無い場所まで行って迎撃します。一応、戦う覚悟を持っておいて下さい」
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