Dreaming Queen〜仲間に追放された女王に巻き込まれ、しがない刑事は化け物狩りを決意する〜

宇里シロウ

文字の大きさ
上 下
15 / 34

仕事終わり。狩りの始まり。 上

しおりを挟む
 ズィルヴァレトらに報告を終え、刑事課に戻りバタバタと書類制作やらの引き継ぎ作業を行う事彼此数時間。現在の時刻は十七時を回ろうとしている。
 そろそろ退勤の為の言いくるめに動き出そうと考え始めていたオミッドらのデスクに、トレントが背伸びをして腰をさすりながらゆっくりと歩いて来た。

「あー、痛ぇ。デスクワークはこれだから嫌なんだよ。
 おいオミッド、もう上がっていいぞ。あとカーティ、お前もな」
「えっ、良いんですか?」
「良いも何もお前休日出勤だし、カーティも確か明日休みだろ。終わりの目途はついたし、この分なら俺らで終わるさ。上司の気遣いだぞ、有り難く受け取って帰りな」
「やったー! じゃ、お先上がりまーす! カーティちゃん、一緒にメシ」
「お前は残れ。油売ってた分働きやがれ、メシ奢ってやるから。
 じゃ、そういうわけだ。お疲れさん」

 サッサと帰ろうとするロッドの肩をガシッと掴んで、トレントは嫌がる彼を引きずりながら自身のデスクへと帰っていった。

「じゃ、お言葉に甘えて計画通りにいきましょうかね」
「あ、ああ、そうするか」

 まるで何も無かったように平然と帰り支度を始めるカーティに困惑しながら、オミッドも帰り支度をすべくロッカー室の荷物を纏めて刑事課を署を出た。
 普段なら電車を利用して帰る所だが、今回は署に置いてある自身の車を使って繁華街へ向かう。

「先輩お腹減ってませんか?」

 その道中、そんな事をカーティが聞いて来た。

「うん? いや、俺はそんなに」
「えっ、減ってますよね? ね? あっ、丁度あんな所ハンバーガーショップがありますね~」

 寄れ、という事なのだろう。
 さほど腹は減っていないが、長丁場になるだろうから何か胃にねじ込んでおいたほうが良いかもしれない。
 そして何より、ここまで強調して圧力を掛けてくるカーティの眼に「止まれ」と脅されているような気がして、オミッドはハンバーガーショップの入り口へとハンドルを切った。

「あっ、私買って来ますよ。先輩は何が良いですか」
「コーヒーと肉以外のサイドメニューなら何でもいい。あとこれ」

 オミッドは財布から紙幣を三枚ほど抜き取ってカーティに渡した。

「昼間は奢り損ねたからな。代わりにここで奢るよ」
「えっ、良いんですか!? じゃ、行ってきます!」

 紙幣を受け取ったカーティはやけにウキウキしながら店に入っていった。
 その様子に一瞬疑問を抱きながらも、車内帰りを待つ間、オミッドは携帯端末でデーヴ・スティルマンについて調べる事にした。
 検索をしてみると、彼は意外に高名な歴史上の人物だった事が分かった。
 幾多もの戦争を戦い抜き、一軍の将へと成り上がった英雄であり、最後の最後に何故か王に背いた叛逆者。
 それが、彼の人生の概要を読んで得た総評だった。
 人間から血族へと生まれ変わった奴は、かつての主君を裏切ったように、またも主君を裏切った訳だ。
 性分は死なねば治らないとはよく言うが、案外本当にそうなのかもしれない。
 などと哲学じみた事を考えていると、彼女は帰ってきた。……両手に紙袋を三つ抱えて。

「はい、コーヒーとあとパイがありましたからどうぞ! あと、お釣りとレシートです」

 それらを受け取りながら、オミッドは青ざめる。
 三つの紙袋のうち一つは飲み物が入った袋だ。
 だが、ハンバーガーが詰まっている二つの紙袋に、明らかに少な過ぎるお釣りと長いレシートが、それが現実だと告げる。

「な、なあカーティ……お釣りこれで全部?」
「えっ、そうですけど……あっ!!! もしかしてこれ、全部使っちゃダメだったんですか!?」

 多めに持たせたのが全ての失敗だった。そう、オミッドは痛感した。昼間の一件でカーティが大食いなのは知っていた。
 だがまさか、全部使われるほど大量購入するなどとは夢にも思わなかったのだ。
 しかし、奢ると言って金を渡し勘違いさせたのは自分なので、あまり強くは出られなかった。

「い、いや、確認しただけだ。大丈夫……大丈夫。じゃあ、出発するぞ」
「そうですか? 大丈夫なら良いんですが……」

 本当はあまり大丈夫ではない。思いがけない出費であるが、オミッドは強がりを見せて車を発進させる。

「うーん! こういう不摂生してるなって感じる食事、たまに食べるとやっぱりたまりませんね!」
「貶してるのか? それとも褒めてるのか?」
「無論後者です!」
「……ならいいや」

 満面の笑みでハンバーガーを大きな一口で齧り付くカーティを横目に、オミッドはコーヒーを少しだけ啜る。
 凄まじい速度でハンバーガーが消滅していく怪奇現象を隣で見ているだけで胸焼けしてきたので、パイには手を付けられなかった。
 そんな彼とは裏腹に、現在六個目のハンバーガーに手を出した彼女だが、忘れてはいけない。彼女は昼に約三人前のステーキをその胃に納めている。
 果たしてその小柄な身体の何処に、ハンバーガーは消えていくのだろうか。
 こういうのも、人体の神秘とか言うのだろうか。
 などと下らない事を考えていると、最後のハンバーガーを食べ切ったらしく、彼女は満足そうにお腹を摩った。
 
「ふー、堪能しました。ご馳走様です、先輩」
「そりゃ何より」
「では、準備に入りましょうかね。よいしょっと」

 カーティは鞄から分厚い辞書のような本を取り出す。
 食後、それも運転中の車内で読書なんか始めるとは恐れ知らずな。
 とオミッドは思ったが、彼女はそのページを一枚一枚破り始めるという正気を疑う奇行に走り始めた。

「本取り出していきなり何してるんだ!? 読むんじゃないのか?」
「あっ、いえ、聖輪を作り出しておこうかなと思いまして」
「聖輪って、あの昼間に投げてた光る輪っかの事か?」
「ええ、それです。教会の執行官、その精鋭たる聖輪隊が誇る対血族万能型轢死装備。正式名称をソロネの聖輪と言うのですが……まあ、分かりやすく言いますと、血族どもに致命傷を与えられる、人が使う魔術の一種とでも考えてください。
 作り方は簡単! 聖典のページを引きちぎって輪っか状に折るだけです。
 後は魔力を流し込めば、こんな風に顕現します」

 と言いつつ慣れた手つきで輪っかを作り、それをカーティが掲げると、輪っかが運転に支障が出るレベルで光り輝いた。

「眩しっっっ! カーティ、やめてくれ!」
「あっ解きますね、すいません! 
 ……というわけで、私は着くまで作れるだけ聖輪を作りますね。恐らく、今の手持ちじゃ足りませんから」
「分かった。邪魔しないよ」

 まだチカチカする眼を擦って、オミッドはそう返した。
 カーティが黙々と赤子の悪戯のようにページを破って、輪っかを作る作業に集中した為、その後特に会話は無く。
 目的地の繁華街へと着く事となった。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

俺が異世界帰りだと会社の後輩にバレた後の話

猫野 ジム
ファンタジー
会社員(25歳・男)は異世界帰り。現代に帰って来ても魔法が使えるままだった。 バレないようにこっそり使っていたけど、後輩の女性社員にバレてしまった。なぜなら彼女も異世界から帰って来ていて、魔法が使われたことを察知できるから。 『異世界帰り』という共通点があることが分かった二人は後輩からの誘いで仕事終わりに食事をすることに。職場以外で会うのは初めてだった。果たしてどうなるのか? ※ダンジョンやバトルは無く、現代ラブコメに少しだけファンタジー要素が入った作品です ※カクヨム・小説家になろうでも公開しています

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

処理中です...