Dreaming Queen〜仲間に追放された女王に巻き込まれ、しがない刑事は化け物狩りを決意する〜

宇里シロウ

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狩人との茶会 上

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 タイミングはなんとも悪かったが、都合良くズィルヴァレトと出会したオミッドらは、彼に連れられ第一会議室ではなく同じ階にある応接室へと招かれた。

「まあ、テキトーに掛けてくれ」

 言われた通り椅子に座ると、エアルフがトレーに載せた紅茶を一つずつ置いていく。

「どうぞ」
「あっ、どうも」

 煌びやかな装飾がなされたカップとソーサーは、明らかに自前の物だ。署の何処にも、ここまで洒落た器は無い。
 カップを傾ければ、そこに淹れられた紅茶もまた装飾に引けを取らない格別な味と香りがした。市販のティーパックの味しか知らないオミッドだが、そんな彼でもこの特別さと香りの良さは理解出来た。

「う、美味い……。紅茶ってこんなに味わい深いもんだっけ……?」
「確かに美味しいですね。紅茶は好きですが、ここまでのものを私は飲んだ事ありませんよ」
「そうだろうそうだろう。本物の茶は何にも代え難い美味さがあるだろ?
 やはり淹れた者の技量だろうな。それが無ければいくら良い茶葉を使おうがこうはならん」
「ふふっ、ありがとうございます。
 ですが、皆様そんなに褒めたところでお茶菓子くらいしかお出し出来ませんよ」

 そう言ってエアルフは机に置いたティースタンドにパウンドケーキやクッキー等の焼き菓子を主とした菓子類を並べていく。

「お屋敷なら生菓子等色々とご用意出来たのですが、如何せん日もちしませんのでご容赦下さいませ」
「いやいや十分ですよ……というか何でアフターヌーンティー始めてるんですか!?」

 報告をしに来たのであって、茶会に参加しに来たのではないオミッドにとってそれは当然の疑問だ。
 しかしズィルヴァレトは首を傾げる。

「貴族の嗜み、というやつだ。如何なる状況であれ、茶を楽しむ余裕は持つべきだ。違うか?」
「貴族? 警部補殿が?」

 スカした顔で何を言っているんだ、とオミッドは彼の正気を疑う。
 今は中世でも近世でも近代でもない。貴族なんていう時代遅れの言葉にオミッドは頭にハテナマークを浮かべていた。

「困惑するのも仕方ありませんね。
 このお方は現存するアルストル七貴族家の一つ、ハウント伯爵家現当主。歴とした貴族でございます」

 エアルフに説明を受けて、オミッドはそんなものあったなと朧げながらに思い出す。
 そう言われると、自身より年下に見える目の前の相手から滲み出る傲慢さなんかいかにも貴族っぽいなと、オミッドは勝手に納得した。

「お前、なんか失礼な事考えてないか?」
「いえ、別に?」

 嘘である。ガッツリ考えていたが、そんな事は勿論口にしない。

「それにしても、お前まだそいつと刑事ごっこしてんのか。暗示はとっくに切れてるだろう?」
「ええ。しかし、デーヴを狩るまではこの協力体制を続けます。先輩もそれは承諾済みです」

 それを聞いたズィルヴァレトはキョトンとした表情を浮かべた。

「フフッ。ズィルヴァレト様、どうやらご忠告は無視されてしまったようですよ」
「らしいな。お前さぁ、俺の忠告無視するだけならまだしも、よりにもよって執行官と組むとか正気かよ……」
「失礼ですね。よりにもよってとは何ですか」
「テメーの組織がやらかした事を自分の胸に手を当てて考えやがれ」

 呆れながら豪快にカップを傾けて飲み干すズィルヴァレトだが、その所作からは不思議と品の無さを感じなかった。
 そして彼はエアルフの近くに自分のカップを置いた。おかわりの催促だったらしく、彼女は無言でカップを受け取る。
 その一連の動作から、オミッドは彼らの付き合いの長さを伺い知った。

「そこはすいません。でも知ってしまった以上、早期解決に向けて僕は出来る限りの事をします。ティアも今夜決着をつけてくれると了承を得ています」
「待て。女王に何の了解を得たって? 今夜決着をつけるだぁ!?」

それを聞いたズィルヴァレトは目に見えて狼狽え、反応の薄いエアルフでさえも少し動揺する素振りを見せた。

「お前もしかして馬鹿か!? いや、もしかしなくても馬鹿だな!」
「いきなり馬鹿馬鹿連呼しないでください!」
「いーや馬鹿だよ、浅はかだよお前は! 気持ちは分からんでも無いが、いくら何でも焦りすぎだろ!? つーか、よく承諾したなあの女王! あとお前! 馬鹿ばっかだなクソッ!!!」
「まあまあ。はい、これを飲んで落ち着いて下さいね」

 頭を抱えて興奮するズィルヴァレトを、エアルフがおかわりの紅茶を差し出して宥める。
 それを受け取った彼はまたも豪快に飲み干し、深い溜息を吐いた。

「はあ……。まあ、女王がやるっつったんなら大丈夫だろ。それで、お前らの報告はそれくらいか?」
「それで全部です」
「分かった。署にはお前らが遅れた理由と報告書云々は俺がテキトーにでっち上げといてやるよ」
「ありがとうございます、警部補殿」

 オミッドは軽く一礼をしてズィルヴァレトに感謝を述べた。
 
「で、だ。俺の方もお前らに伝えなきゃならん事が二つある。
 悪いのと悪いのがあるけど、どっちが良い?」
「どっちも一緒じゃないですか。どっちでも良いですよ」
「じゃあ話すが、まず今回お前らが行う狩りに我々連盟は協力しない。というか、出来ない」
「何でですか! 狩りなんて貴方達連盟の一番得意とする所じゃないですか! 自分で言うのもアレですが、血族敵視が強い執行官の私が女王と協力するっていうのに、その女王と関係深い貴方達が参戦せずとはどういう事ですか!?」

 カーティが立ち上がって抗議すると、ズィルヴァレトも対抗して声を荒げて立ち上がる。

「仕方ないだろ! 俺が連盟長から任ぜられた命は女王の狩りの援助、そして監視だ。部下はまだ来ないし来たとして最小人数。挙句俺は今回対血族武装を最低限しか持ち込んでいない!」
「二人共落ち着いて……で、その、持ち込んだナントカ武装って具体的には?」
「対血族武装な。あー……工房製の拳銃と小銃が一丁ずつだっけか。エアルフ、アレを」

 エアルフはティースタンドを横にずらして、空いたスペースにアタッシュケースを置いて中を開く。
 中には刑事のオミッドでも見た事のない拳銃が一丁収められていた。

「これは……拳銃? でも、見た事の無い銃だ」
「見覚えあったら怖いわ。これは俺達の同盟相手、工房の手の物による銃だ。お前が携行している豆鉄砲と違って血族にマトモな傷を負わせられるシロモノさ。
 力になってやれん代わりにこれを貸してやる。弾はこの専用弾十二発入の弾倉二つ、大事に使って返しに来やがれ」

 ズィルヴァレトがそう言うと、エアルフはアタッシュケースを閉じてオミッドに手渡した。
 彼ら狩人の参戦が望めないのは残念だが、武器の援助をしてくれたのは素直にありがたかった。

「あ、ありがとうございます! ……で、もう一つのほうは何ですか?」
「ああ。俺が思うに今回の事件、恐らくこの署の人間の誰かが関わっている」

 
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