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翔の知り合い

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藤堂さんの目がウルウルしている事がわかるぐらい


俺の方を見て手を口元へと運んでいた


「ありがとう・・・ 竹本さん・・・ 竹本さんがそうなんだね」


「忍 翔のお気に入りなだけだからな まだ」


「そっか そうなんだわかったでも良かった・・・」


そう言って俺を置き去りに話が終わった




(いったいどういう事なんだ・・・)




「翔の事も伝えたし 俺はそれじゃ~これで帰る」


「えっちょっと待って下さいよ前嶋さん・・・」


俺の言葉を無視して前嶋さんは立ち上がり


カバンの中から資料を俺の前に置いた


「竹本 俺は忙しい・・・ これからは忍が指導してくれる しっかり勉強しろ 忍は俺なんかよりも仕事は出来るし頼りになる なんせ黒部部長の弟子みたいな者だからなぁ~」


そう言って前嶋さんはもうドアの前へ


「じゃ~な忍頼んだぞ」


「前嶋さん お疲れ様でした」


藤堂さんの言葉に前嶋さんは部屋を出て行った





(どうしよう・・・ 俺こういうのって初めてで何をしたらいいのか・・・)




俺は前嶋さんが置いてくれた資料に目を向けていた



「竹本さん」


「あっはい」


「そんなに固くならないで ちょっと僕の話を聞いてよ」


藤堂さんは真っ直ぐ俺を見てそう言った


「僕はね 前嶋さんと同い年で 僕がこの会社へ入ってすぐの頃 僕は精神的にも追い詰められていて この会社を辞めようと思っていたそんな時 黒部部長と出会う事が出来たんだ 黒部部長はこんな僕をいちから営業の一つ一つを 丁寧に教えてくれたんだよ同じ会社ではない僕に だから黒部部長には凄く感謝をしているんだよ」


「そうだったんですか その事を前嶋さんは知っていたんですね」




(前嶋さんと同じ歳なんだ・・・ ぜんぜん藤堂さんの方が若く見える 俺と同じ歳って言っても通用する 前嶋さんと同じ歳って事は翔とも・・・)




「僕がこの歳で部長になれたのも 黒部部長のおかげなんだよ 前嶋さんは実力って言ってくれたけど違うんだ うちの会社はとても人数が多いでしょう だから営業部を小さくまとめる事になって まとめ役として僕に白羽の矢が立ったって訳 だから僕はそんなに偉い人な訳じゃ~ないから・・・」


そう話をした藤堂さんはなぜか下を向いた




(えっ何で?どうしよう この話を掘り下げて話を続けたくはないんだよね 話を切り替えないと・・・)




「あっあの・・・ 藤堂さんは翔のお知り合いなんですか? 俺はまだそんなに翔の事は知らなくて この間初めて会ったばかりだから・・・」


そう俺が話をすると藤堂さんは顔を上げ 見る見る笑顔になっていった


「弘ちゃん あっごめん・・・ これから2人で話をする時は弘ちゃんって呼ぶね 僕の事は何て呼んでくれるのかなぁ~弘ちゃん」


嬉しそうにそう言った藤堂さんに俺は思わず


「藤堂さん」


と言ってしまった


藤堂さんの顔が曇り また下を向いてしまった




(どうしよう・・・ だって藤堂さんは年上の人で これから仕事を教えてもらう人で・・・)




「僕は僕はね 弘ちゃんとなら仲良く出来ると思ったのに・・・ 弘ちゃんとならプライベートでも うまく何でも話が出来る 打ち解けられるとそう思ったのに・・・ 弘ちゃんもそうやって僕の事を厄介者として見るんだ いいよそうなんだよ 僕はいつもそう 会社でもいつも1人ぽっち 僕の事を影でコソコソ 友達も少ないしさぁ~ でもでもさぁ~ 人を見る目には自信があるんだよ僕は 仕事が終わればさようならなんて そんなの悲しいよ 弘ちゃんならわかってくれると思っていたのに・・・」


そう藤堂さんは一気に話をして また下を向いてしまった




(藤堂さんは俺にどうしろと・・・)




俺はとっさに机の上の藤堂さんの名刺を見た




(藤堂さん名字がダメなら名前・・・ 忍って翔みたいに呼び捨てはちょっと出来ないよなぁ~ 忍さんも固いかぁ~ じゃ~同じちゃんならどうよ)




俺は下を向いている藤堂さんに軽く言ってみた


「あっあの~ じゃ~忍ちゃんならいいですか?」


俺がそう言ったとたん忍ちゃんは笑顔で顔を上げてくれた


「弘ちゃんありがとう・・・ 翔の話だったよね」


「あっそうだった すっかり忘れてた・・・」


そう言って俺が笑うと忍ちゃんも笑ってくれた




(本当にすっかり忘れてたよ 前嶋さんが言っていた通り 忍ちゃんは頭も良く仕事が出来る人なんだ・・・)




俺はそう思いながら嬉しそうに笑う 忍ちゃんの顔を見ていた


「弘ちゃん 僕が翔に会ったのはもうずいぶん前でね 翔と初めて会った時にわかったんだよ 翔と僕は似てるってね それは翔も思った事なんだと思う」


「えっ 翔と忍ちゃんはぜんぜん似てないよ」


「弘ちゃん違うよ 心の弱い所がそっくりなんだよ」


「弘ちゃん 翔はあぁ~見えてとても傷付きやすい人なんだよ これからもっと翔と会う機会があると思うけど その時は優しく接してあげてね」


「俺 前嶋さんに翔が居るバーに この間初めて連れて行ってもらったんだ カウンターに居た翔はさぁ~ モデルさんみたいでさぁ~ 俺とは遠い存在の人だと思ってて 前嶋さんが俺を置いて帰っちゃって 俺翔に送ってもらったんだけど 俺翔の車の中で寝ちゃってて 起きたら翔が隣で寝ていてびっくりしたよ・・・」


「えっそんな事があったの・・・」


「うんそれでね 何を思ったか 翔と遊園地に行く事になってさぁ~ 聞いてよ忍ちゃん 翔がね俺の腕を引っ張って連れて行った所が ジェットコースターって信じられる? 行っていきなりジェットコースターに乗る普通?」


忍ちゃんは嬉しそうに笑っていた




(翔は嬉しかったんだね 良かった本当に良かった 弘ちゃんになら翔の事任せられる)




「翔はジェットコースター好きだって聞いてるよ」


「それにしてもだよ 普通聞くでしょう 何を乗りたいのかさぁ~ いきなりジェットコースターはないよ・・・」


「それで弘ちゃんはどうしたの?」


「俺ジェットコースター苦手でさぁ~ 翔に支えられてジェットコースター降りたよ 情けなくてその場所から居なくなりたかったよ」


「翔が支えてくれた」


「うん でも翔お腹かかえて笑ってたよ」


「えっ弘ちゃんを見て?」


「見てと言うより 俺がジェットコースターが苦手だって言った顔に・・・」


「そう 翔らしいね」


「翔の笑った顔がさぁ~ まぁ~翔は何でも様になるんだけどさぁ~ 翔の笑った顔ってまた見たくなる顔だなぁ~って・・・」


「僕 そう言えば翔の笑った顔見た事がないかも・・・」


「翔が言っていた こんなに笑ったのは久しぶりだって・・・」


「よっぽど 弘ちゃんと一緒に居た時間が楽しかったんだね」


「そうだといいんだけどね」


俺はそう言って忍ちゃんを見ると 忍ちゃんは嬉しそうに笑っていた


「あっそうだ 今後忍ちゃんも翔のバーへ一緒に行こうよ」


「そうだね もうどれくらい行ってないのかなぁ~」


「俺ね 翔から借りた洋服があって 来週クリーニングから帰ってくるんだ・・・」


「えっ翔から洋服を借りたの?」


「あっうん 翔って背も高いし 俺に翔の洋服が似合う訳がないでしょう」


「僕 翔のプライベートは良く知らないけど 確かに翔は背が高いよね」


「そうでしょう でもおもしろい洋服を翔は持っていてさぁ~ 何とか俺でも着られる様に翔がしてくれたんだ・・・」


「翔の私服ってちょっと興味あるかも・・・ 僕 バーテンダー姿しか見た事ないから・・・」


「まさしくモデルさんみたいな感じだよ 翔を見た人が振り返るくらい・・・」


「そうなんだ・・・ バーに居ても凄くカッコいいもんね」


「俺 翔を見た時 動けなくなったもん」


「あっそれわかるよ 目を奪われるよね」


「こんなに翔の話が出来るとは思わなかったよ 今頃翔はくしゃみしてるかもしれないね」


「そうだね」


そう言って俺と忍ちゃんは 顔を見合わせて笑った




それから俺は忍ちゃんに 営業の仕事を丁寧に教えてもらった



(つづく)



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