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9.幼馴染
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「……ヴィセオ、なんか変だね……?」
「……そうですね」
何かを聞きたそうに尋ねてくるアキラにどうとも返事をしがたく、ラジレは当たり障りのない言葉を返すしかなかった。
様子がおかしいと言われたほうの騎士は、普段通り、アキラやラジレに意識を向けさせないよう、魔族の攻撃を引きつけ、隙があれば剣で斬って捨てている。
ただ、普段と違うのは、アキラとラジレが何もする必要のないほど、騎士が一騎当千の振る舞いをしていることだ。
「……終わった」
「……終わりましたね」
ラジレが十分静養をしてからレンズナを出発し、休息地を経て、今日はディナズミの町に辿りつこうという旅程だが、この分だと予定より早く町に着くのではないだろうか。早く着いたところで、夜駆けをするわけにもいかないし、ディナズミでしばらく過ごすことになるだけだ。
いや。
「それが狙いか……?」
「何が?」
「いえ」
さっさと魔石を拾い集め、先を急ごうとヴィセオが振り返ってくる。
さすが国一番の騎士、手を貸す必要のない完璧な仕事だ。
「ヴィセオ、俺も戦いたいから、次はセーブしてね!」
「ああ」
上の空の返事すぎないか。
思わずラジレが目線で刺すと、ヴィセオがひょいと肩をすくめた。聞く気があるのか、ないのか、どちらだろう。勇者であるアキラが実戦経験を積むのは必要なことだから、我を通さず素直にアキラの育成に回ってほしい。
なお、聞く気についてはないほうだった。
動きを変えない騎士をどうにかせねばならず、わざわざ無駄な結界を張ってヴィセオを阻害し、アキラが戦えるように場を整える。
これは神官の仕事だろうか。本人が楽しそうに攻略し始めたのも、また性質が悪い。
戦闘の負担は少ないはずなのに普段より疲れて、ラジレはげっそりとディナズミの門をくぐった。
「えっと……ラジレ、大丈夫? 疲れた?」
「疲れたなら、俺が運ぼうか」
「結構です。アキラ様、神殿に参りましょう」
様子のおかしい男をぴしゃりと断って、ラジレはアキラの傍に寄った。身の危険というほどではないが、ヴィセオよりはアキラの傍のほうが安全な気がするのだ。
じり、と妙な攻防を始めた二人に挟まれ、戸惑いつつも、アキラが神殿を目指して歩き始める。
「挨拶が済んだら、また別行動にする?」
「アキラ様、お供いたします」
「なら俺も行こう」
「……二人とも、別行動の意味知ってるよね?」
アキラと離れたら、またヴィセオが迫ってくるだろう。他人行儀も何も、ラジレがヴィセオと親密になる理由がないのだ。感情がどうあろうと、ラジレと必要以上の関わりを持てば、ヴィセオの栄達を阻害しかねない。
ラジレは今後、逃れようのない罪を犯す人物なのだ。
「嫌です。アキラ様と一緒にいます」
「それなら俺もいる」
「ヴィセオは、まあ変だけど……ラジレも変だね……?」
神殿への挨拶は滞りなく済ませ、それぞれの部屋を案内されたところで、ラジレはアキラの袖を掴んだ。別に何をされるわけでもないとは思うが、ヴィセオと二人きりになることは避けたい。ラジレが一人でいたら、ヴィセオが近づいてくるに決まっている。
部屋に入れてくれたアキラをラジレがあからさまに盾にすると、ヴィセオがわかりやすく険しい顔になった。
「……ヴィセオ、ラジレに何かした?」
「何も。話をしただけだ」
アキラが振り返ってきたので、ラジレはおずおずと頷いた。特段何かされたわけではなく、話をしただけだ。
いや、抱きしめられたのは、何かされた部類に入るだろうか。アキラにも抱きつかれてはいるから、あれは数に入らないか。
「そのわりに、ラジレすごく避けてるけど……」
「……他人行儀なのをやめろと言った」
その言い方はずるいのではないだろうか。
「ごまかさないでください、俺を見てくれとか何とか言ってきたくせに」
「私はあなたの何でもないとか言っただろう」
「事実でしょう、接点なんてアキラ様の旅に同行しているかどうかくらいで」
「嘘つけ、幼馴染だろうが」
「ちょっと待って、幼馴染なの?」
アキラの声に冷静になって、ラジレは口を噤んだ。ヴィセオが険しい顔のまま頷き、また口を開く。
「五歳から十歳まで、同じ村に住んでたしほぼ毎日一緒にいた。どう見ても幼馴染だろう」
「……ほんの五年でしょう」
「それは幼馴染だと思うよ……?」
これは幼馴染に入るのか。
「五歳から十歳までってどういうこと? 俺、聞いてもいい?」
「……ラジレ」
「構いません、が」
アキラに促されて、アキラとラジレがベッドに座り、ヴィセオが少し離れた椅子に座る。神官用の部屋を貸してもらっているので、椅子は一つしかない上に、ラジレがヴィセオと座るのを嫌がったからだ。
「俺の故郷は、ターレスという村だ。そこにラジレの親父さんが、村の神官として赴任してきた」
どんなに小さな村でも女神ヒュリネに祈るための礼拝堂はあって、王都の教団本部から、神官が派遣されることになっている。ラジレの両親も女神ヒュリネに使える神官で、父の赴任に合わせ、一家でターレスへ引っ越したのが、ラジレが五つほどの頃だ。
ターレスは王都と違って、のどかなところで、けれどラジレにとっては初めての場所で。
見知らぬ場所や人に馴染めず、しばらくは一人で、礼拝堂の近くで過ごすことが多かった。村の子どものほうも、王都から来たラジレをどう扱っていいかわからず、遠巻きにしていたのだ。
「それで、親に言われたから、俺が声をかけたんだけど」
驚いたらしいラジレは、しばらく固まっていたかと思うと、逃げてしまった。その時置いていってしまった絵本を拾って、改めて神官の家に届けて、そこからヴィセオとラジレは少しずつ関わるようになった。
話してみれば、ラジレは行儀が良いというか、村の子どもとは少し違って、けれど同じ子どもであったし、ヴィセオは年下の兄弟を多く持つ面倒見の良い長男で、同い年だったのもあってか、タイプは違うがほとんど毎日一緒に遊ぶようになった。
「俺が一番仲良かったと思ってる」
「それは……私は、他の全員と友人だったわけでは、ありませんし……」
「お前の一番は俺だろ」
「何を張り合っているんですか」
ラジレとヴィセオが十歳になった頃に、ラジレの父親が王都の神殿に戻ることになって、二人の交流はそこで終わった。
はずだったのだが。
「ラジレにもう一度会いたくて、俺は騎士を目指したんだ」
ラジレは王都の神官の子どもだったから、王都の神殿で神官になるだろうとヴィセオは踏んだ。自分が神官に向いているとは思わなかったから、神官と接する機会の多い仕事を選んで、騎士になった。
ところがだ。
騎士も神官も大勢いる中、再会できたのは奇跡に近い。意気揚々と話しかけようとしたヴィセオに、ラジレが言ったのはとんでもない一言だった。
「せっかく会えたのに、はじめまして、だぞ?」
アキラの視線が横から刺さって、ラジレはゆっくりと視線を逸らした。
「覚えてなかったの?」
責めるような声色はないが、純粋な追撃もなかなか辛い。
「……いいえ」
忘れるはずがない。
初めての知らない村で、初めて話しかけてくれた相手だ。人見知りをするラジレに、辛抱強く付き合ってくれて、村に馴染ませてくれた。
ずっと、守ってくれた人だ。
「じゃあ何で?」
「……私を覚えていると、思わなかったので」
ヴィセオはラジレと違って、村の子どもは全員友だち、みたいなタイプだったので、たかが数年遊んでいた程度の相手は覚えていないだろうと思ったのだ。
それで、親しげに話しかけて怪訝な顔をされるくらいなら、初めから、初対面ということにしておけばいいと思った。
「聞いてみればよかったのに」
「……当時から、ヴィセオ殿は噂になっていたんです。おかしな態度は取れません」
そもそも騎士になるというのは、簡単なことではないのだ。どちらかと言えば血筋が優先されて、貴族の家柄のほうが有利だし、知識、礼節、武勇に優れていなければならない。後ろ盾もなく、田舎の村の、農家の子どもが騎士になるなど、異例中の異例だ。
礼儀知らずで無知で野蛮な田舎者、と馬鹿にしていた人間もすぐに、多少荒っぽいところはあるが、意外と所作は整っていて、知恵は回るし貪欲に知識を取り込んでいくヴィセオを見直した。
きっとヴィセオは出世していくだろうと思ったから、変な噂が立つような真似をして、ラジレが邪魔をするわけにはいかなかったのだ。
「出世なんてどうでもいいだろ、俺はお前に会いに来たんだ」
「どうでもよくはないでしょう、あなたを希望に、多くの子どもたちが騎士を夢見ています」
村の神官に師事して神官を目指す道は、一応昔から用意されている。
しかし騎士になった農民は、記録上ではおそらくヴィセオが初めてだ。
動機が何であれ、ヴィセオはすでに多くの人の思いを背負ってしまっているのだ。それを裏切らせたくはない。
「……もういいでしょう。とにかく私はただの神官で、ヴィセオ殿は将来有望な騎士、そういうことです」
今後のことを考えれば、ヴィセオはラジレへの執着を手放したほうがいいのだ。付け入る隙など作るわけにはいかないし、下手な優しさを見せてはヴィセオの邪魔になる。
話を切り上げようとしたラジレの腕に、そっと手が添えられる。
「ラジレ、あの……もう少し、ゆっくりでいいんじゃないかな」
「……ゆっくり、ですか?」
聞き返したラジレにアキラが真剣な顔で頷いて、言葉を探すように視線を上げる。
「うーんと……まだ決めなくていい、と思う」
「……こういうものは、早めに決断すべきです」
ヴィセオには、可能性の欠片も残すべきではない。
「……そうですね」
何かを聞きたそうに尋ねてくるアキラにどうとも返事をしがたく、ラジレは当たり障りのない言葉を返すしかなかった。
様子がおかしいと言われたほうの騎士は、普段通り、アキラやラジレに意識を向けさせないよう、魔族の攻撃を引きつけ、隙があれば剣で斬って捨てている。
ただ、普段と違うのは、アキラとラジレが何もする必要のないほど、騎士が一騎当千の振る舞いをしていることだ。
「……終わった」
「……終わりましたね」
ラジレが十分静養をしてからレンズナを出発し、休息地を経て、今日はディナズミの町に辿りつこうという旅程だが、この分だと予定より早く町に着くのではないだろうか。早く着いたところで、夜駆けをするわけにもいかないし、ディナズミでしばらく過ごすことになるだけだ。
いや。
「それが狙いか……?」
「何が?」
「いえ」
さっさと魔石を拾い集め、先を急ごうとヴィセオが振り返ってくる。
さすが国一番の騎士、手を貸す必要のない完璧な仕事だ。
「ヴィセオ、俺も戦いたいから、次はセーブしてね!」
「ああ」
上の空の返事すぎないか。
思わずラジレが目線で刺すと、ヴィセオがひょいと肩をすくめた。聞く気があるのか、ないのか、どちらだろう。勇者であるアキラが実戦経験を積むのは必要なことだから、我を通さず素直にアキラの育成に回ってほしい。
なお、聞く気についてはないほうだった。
動きを変えない騎士をどうにかせねばならず、わざわざ無駄な結界を張ってヴィセオを阻害し、アキラが戦えるように場を整える。
これは神官の仕事だろうか。本人が楽しそうに攻略し始めたのも、また性質が悪い。
戦闘の負担は少ないはずなのに普段より疲れて、ラジレはげっそりとディナズミの門をくぐった。
「えっと……ラジレ、大丈夫? 疲れた?」
「疲れたなら、俺が運ぼうか」
「結構です。アキラ様、神殿に参りましょう」
様子のおかしい男をぴしゃりと断って、ラジレはアキラの傍に寄った。身の危険というほどではないが、ヴィセオよりはアキラの傍のほうが安全な気がするのだ。
じり、と妙な攻防を始めた二人に挟まれ、戸惑いつつも、アキラが神殿を目指して歩き始める。
「挨拶が済んだら、また別行動にする?」
「アキラ様、お供いたします」
「なら俺も行こう」
「……二人とも、別行動の意味知ってるよね?」
アキラと離れたら、またヴィセオが迫ってくるだろう。他人行儀も何も、ラジレがヴィセオと親密になる理由がないのだ。感情がどうあろうと、ラジレと必要以上の関わりを持てば、ヴィセオの栄達を阻害しかねない。
ラジレは今後、逃れようのない罪を犯す人物なのだ。
「嫌です。アキラ様と一緒にいます」
「それなら俺もいる」
「ヴィセオは、まあ変だけど……ラジレも変だね……?」
神殿への挨拶は滞りなく済ませ、それぞれの部屋を案内されたところで、ラジレはアキラの袖を掴んだ。別に何をされるわけでもないとは思うが、ヴィセオと二人きりになることは避けたい。ラジレが一人でいたら、ヴィセオが近づいてくるに決まっている。
部屋に入れてくれたアキラをラジレがあからさまに盾にすると、ヴィセオがわかりやすく険しい顔になった。
「……ヴィセオ、ラジレに何かした?」
「何も。話をしただけだ」
アキラが振り返ってきたので、ラジレはおずおずと頷いた。特段何かされたわけではなく、話をしただけだ。
いや、抱きしめられたのは、何かされた部類に入るだろうか。アキラにも抱きつかれてはいるから、あれは数に入らないか。
「そのわりに、ラジレすごく避けてるけど……」
「……他人行儀なのをやめろと言った」
その言い方はずるいのではないだろうか。
「ごまかさないでください、俺を見てくれとか何とか言ってきたくせに」
「私はあなたの何でもないとか言っただろう」
「事実でしょう、接点なんてアキラ様の旅に同行しているかどうかくらいで」
「嘘つけ、幼馴染だろうが」
「ちょっと待って、幼馴染なの?」
アキラの声に冷静になって、ラジレは口を噤んだ。ヴィセオが険しい顔のまま頷き、また口を開く。
「五歳から十歳まで、同じ村に住んでたしほぼ毎日一緒にいた。どう見ても幼馴染だろう」
「……ほんの五年でしょう」
「それは幼馴染だと思うよ……?」
これは幼馴染に入るのか。
「五歳から十歳までってどういうこと? 俺、聞いてもいい?」
「……ラジレ」
「構いません、が」
アキラに促されて、アキラとラジレがベッドに座り、ヴィセオが少し離れた椅子に座る。神官用の部屋を貸してもらっているので、椅子は一つしかない上に、ラジレがヴィセオと座るのを嫌がったからだ。
「俺の故郷は、ターレスという村だ。そこにラジレの親父さんが、村の神官として赴任してきた」
どんなに小さな村でも女神ヒュリネに祈るための礼拝堂はあって、王都の教団本部から、神官が派遣されることになっている。ラジレの両親も女神ヒュリネに使える神官で、父の赴任に合わせ、一家でターレスへ引っ越したのが、ラジレが五つほどの頃だ。
ターレスは王都と違って、のどかなところで、けれどラジレにとっては初めての場所で。
見知らぬ場所や人に馴染めず、しばらくは一人で、礼拝堂の近くで過ごすことが多かった。村の子どものほうも、王都から来たラジレをどう扱っていいかわからず、遠巻きにしていたのだ。
「それで、親に言われたから、俺が声をかけたんだけど」
驚いたらしいラジレは、しばらく固まっていたかと思うと、逃げてしまった。その時置いていってしまった絵本を拾って、改めて神官の家に届けて、そこからヴィセオとラジレは少しずつ関わるようになった。
話してみれば、ラジレは行儀が良いというか、村の子どもとは少し違って、けれど同じ子どもであったし、ヴィセオは年下の兄弟を多く持つ面倒見の良い長男で、同い年だったのもあってか、タイプは違うがほとんど毎日一緒に遊ぶようになった。
「俺が一番仲良かったと思ってる」
「それは……私は、他の全員と友人だったわけでは、ありませんし……」
「お前の一番は俺だろ」
「何を張り合っているんですか」
ラジレとヴィセオが十歳になった頃に、ラジレの父親が王都の神殿に戻ることになって、二人の交流はそこで終わった。
はずだったのだが。
「ラジレにもう一度会いたくて、俺は騎士を目指したんだ」
ラジレは王都の神官の子どもだったから、王都の神殿で神官になるだろうとヴィセオは踏んだ。自分が神官に向いているとは思わなかったから、神官と接する機会の多い仕事を選んで、騎士になった。
ところがだ。
騎士も神官も大勢いる中、再会できたのは奇跡に近い。意気揚々と話しかけようとしたヴィセオに、ラジレが言ったのはとんでもない一言だった。
「せっかく会えたのに、はじめまして、だぞ?」
アキラの視線が横から刺さって、ラジレはゆっくりと視線を逸らした。
「覚えてなかったの?」
責めるような声色はないが、純粋な追撃もなかなか辛い。
「……いいえ」
忘れるはずがない。
初めての知らない村で、初めて話しかけてくれた相手だ。人見知りをするラジレに、辛抱強く付き合ってくれて、村に馴染ませてくれた。
ずっと、守ってくれた人だ。
「じゃあ何で?」
「……私を覚えていると、思わなかったので」
ヴィセオはラジレと違って、村の子どもは全員友だち、みたいなタイプだったので、たかが数年遊んでいた程度の相手は覚えていないだろうと思ったのだ。
それで、親しげに話しかけて怪訝な顔をされるくらいなら、初めから、初対面ということにしておけばいいと思った。
「聞いてみればよかったのに」
「……当時から、ヴィセオ殿は噂になっていたんです。おかしな態度は取れません」
そもそも騎士になるというのは、簡単なことではないのだ。どちらかと言えば血筋が優先されて、貴族の家柄のほうが有利だし、知識、礼節、武勇に優れていなければならない。後ろ盾もなく、田舎の村の、農家の子どもが騎士になるなど、異例中の異例だ。
礼儀知らずで無知で野蛮な田舎者、と馬鹿にしていた人間もすぐに、多少荒っぽいところはあるが、意外と所作は整っていて、知恵は回るし貪欲に知識を取り込んでいくヴィセオを見直した。
きっとヴィセオは出世していくだろうと思ったから、変な噂が立つような真似をして、ラジレが邪魔をするわけにはいかなかったのだ。
「出世なんてどうでもいいだろ、俺はお前に会いに来たんだ」
「どうでもよくはないでしょう、あなたを希望に、多くの子どもたちが騎士を夢見ています」
村の神官に師事して神官を目指す道は、一応昔から用意されている。
しかし騎士になった農民は、記録上ではおそらくヴィセオが初めてだ。
動機が何であれ、ヴィセオはすでに多くの人の思いを背負ってしまっているのだ。それを裏切らせたくはない。
「……もういいでしょう。とにかく私はただの神官で、ヴィセオ殿は将来有望な騎士、そういうことです」
今後のことを考えれば、ヴィセオはラジレへの執着を手放したほうがいいのだ。付け入る隙など作るわけにはいかないし、下手な優しさを見せてはヴィセオの邪魔になる。
話を切り上げようとしたラジレの腕に、そっと手が添えられる。
「ラジレ、あの……もう少し、ゆっくりでいいんじゃないかな」
「……ゆっくり、ですか?」
聞き返したラジレにアキラが真剣な顔で頷いて、言葉を探すように視線を上げる。
「うーんと……まだ決めなくていい、と思う」
「……こういうものは、早めに決断すべきです」
ヴィセオには、可能性の欠片も残すべきではない。
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