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後編

38.明日があるのに

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 新規の魔道具や魔法の申請受付は、魔術師団が行っている。しかし夕刻には窓口が閉められてしまうので、壊された試作機の修理時間も考慮すると、レーネが申請に行けるのはどんなに早くても明朝といったところだった。盗んでいった相手の動向は気になるものの、誰かもわからない相手をレーネがどうこうできるものでもない。
 月が高くなるまで集中し、クリフたちの手も借りながら試作機や部品の類いに至るまですべてを寮の部屋に運び込んだあたりで、レーネはくたびれて動けなくなっていた。

「がんばりましたね、レーネさん」
「ん……」

 ベッドに横になっているレーネに微笑み、ティノールトが優しく撫でてくれる。ティノールトのほうがあれこれ片づけてくれていたし、犯人探しにもいろいろ動いて疲れているだろうに、レーネを甘やかして労ってくれて、優しい。

「ティノールトくん」

 ころんと寝返りを打って仰向けになり、ティノールトに手を伸ばす。

Hugぎゅってして

 間髪入れずにティノールトが覆い被さってきて、レーネを抱きしめてくれる。許可を取らずにCommandを使ったのに、拒むどころか満たしてくれるのが、うれしい。
 くつくつと笑い声を漏らして、レーネはわしわしとティノールトの背中を撫でた。

Good boyいい子
「重くないですか……?」
「大丈夫」

 それでも気になったのか、ティノールトはレーネを抱えたまま、器用に体勢を入れ替えた。本気でのしかかられていたら重かったかもしれないが、ティノールトが自分の体を腕で支えてくれていたから、問題なかったのだが。
 どこまでもレーネを大切にしてくれるティノールトに、きちんと応えたい。

「今日も練習、するかい?」

 腰のあたりを抱いているティノールトの腕をするりと撫でると、ティノールトの顔が少し険しくなった。
 嫌がっているわけではない、というのはわかるようになってきたが、言葉で教えてもらわないと、まだ彼の考えを読み取るのは難しい。

「嫌かい」
「……今日は疲れたでしょう? 明日もあるし……」

 嫌なわけではない。レーネを気遣っているだけだ。ふっと微笑んで、レーネは自分からティノールトに口づけた。
 レーネだって、ティノールトを大切にしたい。

「きちんと慣らしておかないと、元に戻っちゃうんだろう? 今日もやったほうがいいんじゃないのかい」
「……でも、レーネさんの体に負担がかかります」

 無理をさせたくない、と背中を撫でられると、つい流されそうにもなってしまう。ティノールトのそばは心地よくて、安心できて、優しくしてくれるから甘えたくなって、際限がなくなりそうだ。
 しかし、そうやって寄りかからせてばかりではなくて、レーネにもあれこれさせてほしい。

「ティノールトくん」

 ティノールトの体温を感じながら大きな手で背中を撫でてもらっていると、寝かしつけられてしまいそうな気さえする。名前を呼んでもう一度唇をついばんで、普段見上げている顔を覗き込む。

「僕は、かよわい女性でもないし無垢な子どもでもない」

 ティノールトがレーネを大切にしてくれることはもちろん嬉しい。体格に恵まれているティノールトから見れば、レーネは小さくて華奢に見えるのかもしれない、というのも想像はできる。実際のところ、レーネは成人男性の中ではほんの少し背が低いほうではあるが、プルーメほどたおやかというわけではない。

「君と同じ男だ」
「……すみません、そんなつもりじゃ」
「うん、君が僕を大切にしてくれてるのはわかってる」

 慌てたようにティノールトが起き上がり、レーネはずり落ちそうになった。すぐにティノールトが抱え直してくれたが、空色の瞳が揺れている。レーネの言葉で、何か不安にさせたらしい。

「君は僕を大切にしてくれる。それはすごく嬉しい」

 人に大切に扱ってもらえるというのは、無条件ではない、とレーネは思っている。小さな親切とか、厚意とか、積み重ねがあって初めて与えられるものだ。
 しかしティノールトは、北の砦に来たばかりのころから、レーネをとても大事にしてくれた。元々の性質もあるのかもしれないが、それはとても珍しいことで、甘えてばかりいてはいけない、と思う。レーネが返せているのは、ティノールトが与えてくれるよりほんのわずかなものでしかないとも思う。

 ティノールトの顔が近づいてきて、口づけが降ってきた。最近ようやく上手に応えられるようになってきた気がするものの、口腔をティノールトの舌にまさぐられると、頭がほわほわしてきておとなしくさせられてしまう。

「誰よりも……大切なんです、レーネさんが」
「……僕も、君のこと、大切なんだ」

 レーネを抱えているティノールトの腕がぴくりと反応して、空色の瞳が少し濃くなった気がした。

「だから、君に喜んでほしいし、君が喜んでくれることをしたい」

 それが色を含んだ行為なのは少し後ろめたいような気もするが、レーネはどうにも人の世話をするより世話をされるほうが得意だし、日常でもできそうな小さなこと以外に、これといったものが思いつかない。体の準備がいるし、あまり日を置かないほうがいいものなら、毎日がんばろうと思うくらいには、ティノールトに応えたい。

「準備は、えっと……もしかして、君が喜ぶことじゃないのかい」
「……いえ、あの、レーネさん……」

 首を傾げたレーネに、ティノールトは視線をさまよわせた。この反応は確か、何か言おうと思っていることはあるがためらっている、みたいなときだ。ティノールトが待ってくれるのと同じように、レーネもじっと言葉を待ってみる。

「……嬉しいん、ですけど……嬉しいんですけど、我慢できる自信がなくて……」
「我慢?」

 何か我慢するようなことがあっただろうか。レーネがものを知らないせいで、ティノールトに我慢させているなら問題だ。
 教えてほしい、とレーネが口を開きかけたところで、ぐい、とティノールトに強く抱き寄せられる。

「……僕、触ったっけ」
「……レーネさんにCommandもらって、褒められて、キスして、大切って言ってもらっただけです」

 ティノールトの膝の上に座っているレーネが気づくくらいだから、ガチガチといっても差し支えないのではないか。楽になりたいだろうと手を伸ばしたら、それも止められてしまう。

「しないのかい」
「今日は、だめ、です」

 ティノールトがものすごく理性を働かせている気がする。過重労働はよくない。

「本当にしたいこと、Say教えて
「……今すぐレーネさんとセックスしたい……」
Good boyいい子だね、よく言えました」
「ずるいですよ、今の……」

 恨めしげに言って抱きしめてくるティノールトを撫でて、レーネはくつくつ笑った。
 欲をぶつけてくれても構わないのに、ティノールトは丁寧に丁寧に、レーネを怖がらせないように段階を踏んでくれる。それがもどかしくて、かわいくて、彼の優しさがわかって嬉しい。

「手でしよう、ティノールトくん。僕も君に気持ちよくしてほしい」
「……ずるい、本当にずるい……」

 ベッドに押し倒されて、レーネに馬乗りになったティノールトが服を脱ぎ始める。たくましい体があらわになっていくのは、見ていてちょっとどきどきする。ローブを脱がされてさらされるレーネの体は、それと比べるとやはり貧相で、華奢と思われても仕方ないのかもしれない。

「……これ、挿れてもいいですか」

 サイドボードから細い棒を取り出したティノールトに、レーネは微笑んで頷いた。

 先ほどから練習といっていたのは、あの棒をレーネの尻へ入れる行為のことだ。ティノールトのモノを入れられるようになるには、レーネの体を開発して太いものも入れられるようにしないといけないらしい。それに元々排泄腔だからきれいにする必要もあって、拡張と浄化の機能を備えた魔道具が売られているそうなのだ。
 ティノールトがどこで買い求めてきたのか、さすがに気が引けて聞いてはいないが、ティノールトを受け入れられるように体をいじられることについては、レーネもやぶさかではなかった。

「力、抜いててくださいね」

 遠征先で足をマッサージしてくれたときと同じオイルを垂らして、ティノールトがそっと棒を入れてくる。違和感はあるが、先端が丸くなっているから痛みはない。ゆっくりと押し進められて、かちりと音がすると今度は棒が膨らんでくる。

「っ、ん」

 少し苦しくて顔をしかめるとティノールトにキスをしかけられて、ごまかされている間に棒が太くなり続ける。
 おかしい。いつもより棒を太くする時間が長い気がする。
 このままでは抜けなくなるのではと恐怖すら感じ始めたころ、ようやく止めてもらえて、レーネは浅い息でティノールトをにらんだ。

「くる、し、ティノ、ルトく、ばか、ぬけな、っちゃう……っ」

 レーネは涙目にすらなっているのに、ティノールトはぐっと口を引き結んだあと、レーネの上に覆いかぶさって硬いモノを押し当ててきた。元気すぎるくらいの勢いに戸惑って、レーネがぐすぐすと鼻を鳴らすと、顔に優しく口づけを降らせてくる。

「……すみません、ちょっと興奮してる……」
「ばかぁ……っ」

 苦しいと訴えても抜くことも細くすることもしてもらえなくて、太いもので貫かれたまま、レーネはティノールトの手で何度も高められた。
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