馬鹿犬は高嶺の花を諦めない

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【後日談】杖の下に回る犬は打てない

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 潤滑油の滑りを借りて、ナカを丁寧に拡げながら表情を確かめる。目を閉じて、少し眉を顰めてはいるけど、あれは苦しさではないはずだ。

「っは、ぁ……っ、ぅ、ん……」

 漏らしてくれる声にいつもより甘さが乗っている気がして、俺自身もぞくぞくしてくる。優しくって言われたから、じっくり、師匠が気持ちいいことだけ追い掛けられるように、声にも表情にも仕草にも、全部を拾うために意識を注ぐ。
 師匠を気持ち良くしたいとはいつも思ってるけど、優しく抱いてなんてオネダリされたのは初めてだ。ヤりたい時は俺からお願いする方が多いし、師匠から誘われる時は、何も言わずに口付けてくる。好きな人からキスされて腰を擦り寄せられて、シたいなんて言われたら我慢出来るはずがない。
 だからつい気持ちが昂って、噛んだり焦らしたり、逆にイイところばっか責めていじめたり、たぶん俺の抱き方はちょっと酷い、と思う。結局、許してくれる師匠に甘えている。

「んっ、ん」

 ぎゅ、とシーツを握る手に力が籠もって、少しだけ指が締め付けられた。ナカだけでもきっちり快楽を拾って、俺に乱されてくれるのが嬉しい。もっと気持ち良くなってほしくて、さっきまで弄っていた胸元に唇を寄せる。口付けたら吐息が漏れて、吸い上げれば上擦った声が聞こえて嬉しくなる。もう片方が寂しくないように空いている手で誠実に触れて、不規則な呼吸に視線を向ける。
 閉じていた瞼から碧色が覗いて、とろりとした甘さで俺を見つめていた。

「……クライヴ、気持ちいい?」

 俺の手の動きに合わせて戦慄く唇を何度か啄んでから、碧を深める瞳を覗き込んで尋ねる。うなじに手が回ってきて引き寄せられて、言葉より雄弁な舌が絡んできた。ずるい大人って自分で言っていたけど、本当にずるい。好きって言葉を使わないで、行動とか、表情とか、その他の全部で伝えてくる。

 こんなの、夢中にならない方がおかしい。

「ね、クライヴ……クライヴ、挿れたい……」

 優しくって言われたけど、結局音を上げて俺より優しい人に甘える。首筋とか、鎖骨とか、噛むのは我慢してたくさん痕を付けて、何とか俺の飢えを伝えようともがく。何回も、何回も抱いているのに、何回もらっても足りない。

「……ルイ」

 大好きな声に呼んでもらって、髪を撫でてくれる手にぐりぐりと頭を押し付ける。ほしい。初めて見た時からの、俺の特別。潜めたような笑い声が聞こえて、ぎゅっと抱きしめられた。
 擦り寄せられたモノはきちんと勃ち上がっていて、俺だけが求めているわけじゃないことがわかって少し落ちつく。長い足が抱きしめるように絡んできて、すりすりと俺の体を撫でた。

「……がっつくなよ?」

 くそ、わかっててやってる。

 宛がったモノを性急に押し進めて、煽ってきた人が細切れに息を継ぐ音に、更に煽られる。普段から焦がれているのにこんなふうに唆されたら、優しくなんてオネダリを反故にしそうだ。翻弄されているのがどっちなのか、わからない。
 俺だって、ほんとは大切にしたいのに。あんたがそうやって、焚き付けるから。

「優しく、させてよ……」

 髪に口付けて、好き勝手に腰を振らないよう、必死で自分を落ちつかせる。がっつかない。優しく。
 唸る俺の頭を撫でて、悪戯をするようにナカを締め付けてきた人が、口角を上げる。

「俺はずるい大人なんだって、言っただろ」

 頭を撫でていた手が、からかうように俺の首筋を辿って、顎の先まで撫でてから体の上を滑っていく。最終的に落ちついたのは俺の背中で、肉付きでも確かめるように動く手のひらの感触が、やけに鮮明だ。

「……お前相手に手練手管使うくらい、性質の悪ぃことしてるからな」
「……え」

 この、人、何言って。
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