馬鹿犬は高嶺の花を諦めない

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【後日談】杖の下に回る犬は打てない

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「な、んで、そこばっか……っ」
「……育てたいから?」

 舐めしゃぶっていた方から顔を上げたら、見てはいけないものを見たような気持ちになった。力なく下がった眉、潤んだ目で、浅い呼吸の師匠が俺を見ている。ぷっくり熟れたもう一方を、指でこりこりと弄り回したら、小さく声を上げて顔を逸らされた。

 ちゃんと乳首でも気持ち良くなれるように、育ててきた甲斐があった。きちんと鍛えられて筋肉の付いた胸は、手で揉んでみると意外と柔らかい。弾力はあるし、舐めたり吸ったりすれば可愛い声は出してくれるし、男でもおっぱいって呼ばれることがあるらしいのも、わからないでもない。視線を下ろして一度も触っていないモノが勃ち上がってきているのを確かめて、唾液塗れにした方にまたしゃぶりつく。腰を揺らして、触ってほしいのか俺の体に擦り付けてくるのを、ぐっと我慢して焦らす。

 本当はひたすら甘やかしたいしすぐ触ってイかせてあげたいけど、どこが気持ちいいのか、俺に何をされたら気持ちいいのか、師匠の体に学習させたい。仕込み直せるなんて迂闊なことを俺に言うからだ。

「だめだよ、クライヴ」

 自分で手を伸ばして擦ろうとしているのを止めて、両手を繋いでキスを仕掛ける。俺に翻弄されてぐちゃぐちゃになればいい。散々口の中を蹂躙して舌を吸ったら、繋いだ手にぎゅっと力が込められた。いつもは引き結んでいる口をしどけなく開けて、蜜でも垂らしたような瞳が俺を見上げている。

「ル、イ、がまん、すんの、やだ……」

 めちゃくちゃ可愛い。どうしよう。まだ馴らしてもいないのに突っ込みたい。挿れたい。俺ので気持ち良くしたい。
 喉の奥で唸って、モノを重ねて師匠の手を導いた。きちんと俺に奉仕するように手を動かしてくれる師匠に合わせて、俺も扱く。気持ちいい。師匠が触ってくれている。擦ってくれる。俺が息を詰めるのとほとんど同時に師匠が果てて、二人分の種が師匠の体に散った。かき混ぜるように手を滑らせて、艶めいた声を漏らしてくれる人の体を撫でる。

「ルイ……?」

 潤滑油も持たずに触ってたせいか、小首を傾げて名前を呼ばれた。いつも可愛いけど、セックスの時は本当にめちゃくちゃ可愛いから困る。俺の気が休まる時がない。

「……今すぐ挿れてえ……」

 しまった。声に出た。
 今のなし、を言う前に、師匠が足を開いてくれて目を見開く。

「……お前、なら、いいけど」

 いいわけあるかふざけんな。

「…………無理やりされたこと、あるの」

 そういえば、馴らさずに挿れられたことあるって言ってた。マジで誰だよそいつぶっ殺してやる。
 ぐるぐる唸る俺にちょっと困った顔で笑って、師匠が撫でてくれる。

「もう死んだ人間相手だ、怒んなよ」

 撫でてもらったくらいで絆されると思うなよと身構えてたら、考えてもいなかったことを言われて怒気が霧散した。

「死んだって……」
「俺の目の前で、ドラゴンに食い千切られたからな」

 何でもないことのように言う人の、でも瞳はガラス玉みたいで、割れてほしくなくて寄り添って抱きしめる。今でも師匠より弱いしその頃はただのガキだから、俺がいても何も出来なかっただろうけど。せめて分かち合えたらと思うのに、欠片すら俺に渡してくれない。その時のことはきっと、師匠にとってはまだじくじくする痛みのはずなのに、痛いって言ってくれない。
 どうしたらいいかわからなくて、ただぎゅってすることしか出来ないのは、悲しい。

「…………誰にも言うなよ」

 ため息まじりに言われて、慌てて師匠に向き直って頷いた。一度目を逸らして、何かを考えるように顎に手を当てた師匠が、ふっと苦笑いを零して俺の頬を撫でる。

「……あの時、これで死ねると思ったんだ」
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