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犬牙、犬吠、その身に喰らえ
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師匠の顔が見たくて少し乱暴にひっくり返したら、濡れてきらきらしている碧がこっちを向いた。今は、俺しか見てない。俺しか映ってない。
他の人間は、誰もいない。
勝手に喉から唸り声が漏れて、師匠の肩口に噛み付いた。
「ッ、い……!」
痛そうな声が聞こえる。けど、どうしよう、我慢が出来ない。噛んで、吸い付いて、痕を残して師匠に俺を刻み付ける。この人は、俺の。俺だけの。
「……ルイ」
押さえ付けていた体の腕が伸びてきて、咎められるかと思ったら撫でられた。
その腕さえ捕まえて痕を付けていく俺に、師匠がちょっと困った顔をして笑う。
「……でっけーガキだな、テメェは」
ぐい、と頭を強く引き寄せられて、キスを仕掛けられた。師匠とするのは気持ちいい。くちゅくちゅと舌を絡めて擦り合わせるだけでも、また昂ってくる。
「食いてぇか」
答えたいのに、言葉が出てこない。ぐるぐると喉の音だけで答える俺の頬を、師匠が撫でてくれる。
「……いいよ」
その後のことを、実はあんまりはっきり覚えてない。
ただ、どれくらい経ったかわからないけど、俺に手を離されてずるずると体勢を崩した師匠を見て我に返った。落ちついて見たら師匠の体にめちゃくちゃ痕を付けていて、赤い鬱血がそこかしこに散らばっていた。それから、噛んだ痕も。
痛かったはずなのに、何一つ咎められなかった。今までは絶対怒られていたのに。許されている。今まで以上に。
余計ムラムラしてきた。けど、あれだけ戦り合った後に好き放題啼かせたし、師匠は魔力も空っぽだ。これ以上疲れさせるのは良くない。ヤりたいけど。だめだ。
「……ル、ィ」
我慢しようと気持ちを落ち着かせてたら、小さい声で呼ばれたから慌てて傍に寄り添う。声が掠れてる。声我慢しないでほしいって言ったらこれだし、何なんだこの人。際限なく我儘を聞いてもらえそうにも思えて、自制しないと本当に危ない。
「……たりたか」
お陰さまで今足りなくなりそうです。
「…………無理させたくないから、もう休んでて」
師匠を撫でながら、自分にはひたすら落ちつけと念じる。いくらでも貪りたいけど、抱き壊したいわけじゃない。こんなところで一人で暮らしてたんだから、本当は体調だって万全じゃないはずだ。
まだぎりぎり我慢は出来る。ナカに挿れたい衝動も、制御出来る。これからちゃんと、師匠に自分を大事にすることを教えていかないといけないから、今は俺が耐える時だ。
「……まだ、たりねぇなら……」
「師匠」
起き上がろうと身じろいだ人を、優しく撫でて止める。少し気だるげな顔に口付けを落として、あやすように抱きしめる。
カーメルにやると宣言したものの、師匠を甘やかすのはすごく難しい。すぐに師匠が俺のために動いてくれようとする。師匠が俺を大事にしてくれてるのがわかって嬉しいけど、俺だって師匠を大事にしたい。
「俺に甘やかされてよ」
言葉に詰まった背中を撫でて、浄化の魔術を掛けて綺麗にしてあげる。あとで敷物にしている外套にも掛けておかないといけない。俺のか師匠のかわからないけど、ぐちょぐちょだ。
「寝ていいから」
疲れてるだろうし、とは言わない。きっと意地っ張りだから疲れてないって言い出す。
促すように一定の間隔で背中を撫でていたら、師匠の目がとろんとしてきた。
「……いいのか……」
「うん」
もうほとんど寝ているような気もする。緩んだ顔でくふんと吐息を漏らして、師匠の唇が俺の額に触れる。
「……おやすみ、るい……」
「……おやすみなさい、師匠」
すこんと眠りに落ちてしまったところを見れば、確かに疲れていたんだろうと思う。だけど。
「……どうしようこれ」
完全に元気を取り戻してしまった。最後に俺を攻撃していくのはやめてほしい。
他の人間は、誰もいない。
勝手に喉から唸り声が漏れて、師匠の肩口に噛み付いた。
「ッ、い……!」
痛そうな声が聞こえる。けど、どうしよう、我慢が出来ない。噛んで、吸い付いて、痕を残して師匠に俺を刻み付ける。この人は、俺の。俺だけの。
「……ルイ」
押さえ付けていた体の腕が伸びてきて、咎められるかと思ったら撫でられた。
その腕さえ捕まえて痕を付けていく俺に、師匠がちょっと困った顔をして笑う。
「……でっけーガキだな、テメェは」
ぐい、と頭を強く引き寄せられて、キスを仕掛けられた。師匠とするのは気持ちいい。くちゅくちゅと舌を絡めて擦り合わせるだけでも、また昂ってくる。
「食いてぇか」
答えたいのに、言葉が出てこない。ぐるぐると喉の音だけで答える俺の頬を、師匠が撫でてくれる。
「……いいよ」
その後のことを、実はあんまりはっきり覚えてない。
ただ、どれくらい経ったかわからないけど、俺に手を離されてずるずると体勢を崩した師匠を見て我に返った。落ちついて見たら師匠の体にめちゃくちゃ痕を付けていて、赤い鬱血がそこかしこに散らばっていた。それから、噛んだ痕も。
痛かったはずなのに、何一つ咎められなかった。今までは絶対怒られていたのに。許されている。今まで以上に。
余計ムラムラしてきた。けど、あれだけ戦り合った後に好き放題啼かせたし、師匠は魔力も空っぽだ。これ以上疲れさせるのは良くない。ヤりたいけど。だめだ。
「……ル、ィ」
我慢しようと気持ちを落ち着かせてたら、小さい声で呼ばれたから慌てて傍に寄り添う。声が掠れてる。声我慢しないでほしいって言ったらこれだし、何なんだこの人。際限なく我儘を聞いてもらえそうにも思えて、自制しないと本当に危ない。
「……たりたか」
お陰さまで今足りなくなりそうです。
「…………無理させたくないから、もう休んでて」
師匠を撫でながら、自分にはひたすら落ちつけと念じる。いくらでも貪りたいけど、抱き壊したいわけじゃない。こんなところで一人で暮らしてたんだから、本当は体調だって万全じゃないはずだ。
まだぎりぎり我慢は出来る。ナカに挿れたい衝動も、制御出来る。これからちゃんと、師匠に自分を大事にすることを教えていかないといけないから、今は俺が耐える時だ。
「……まだ、たりねぇなら……」
「師匠」
起き上がろうと身じろいだ人を、優しく撫でて止める。少し気だるげな顔に口付けを落として、あやすように抱きしめる。
カーメルにやると宣言したものの、師匠を甘やかすのはすごく難しい。すぐに師匠が俺のために動いてくれようとする。師匠が俺を大事にしてくれてるのがわかって嬉しいけど、俺だって師匠を大事にしたい。
「俺に甘やかされてよ」
言葉に詰まった背中を撫でて、浄化の魔術を掛けて綺麗にしてあげる。あとで敷物にしている外套にも掛けておかないといけない。俺のか師匠のかわからないけど、ぐちょぐちょだ。
「寝ていいから」
疲れてるだろうし、とは言わない。きっと意地っ張りだから疲れてないって言い出す。
促すように一定の間隔で背中を撫でていたら、師匠の目がとろんとしてきた。
「……いいのか……」
「うん」
もうほとんど寝ているような気もする。緩んだ顔でくふんと吐息を漏らして、師匠の唇が俺の額に触れる。
「……おやすみ、るい……」
「……おやすみなさい、師匠」
すこんと眠りに落ちてしまったところを見れば、確かに疲れていたんだろうと思う。だけど。
「……どうしようこれ」
完全に元気を取り戻してしまった。最後に俺を攻撃していくのはやめてほしい。
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