馬鹿犬は高嶺の花を諦めない

phyr

文字の大きさ
上 下
103 / 116
犬牙、犬吠、その身に喰らえ

8-3

しおりを挟む
 師匠の顔が見たくて少し乱暴にひっくり返したら、濡れてきらきらしている碧がこっちを向いた。今は、俺しか見てない。俺しか映ってない。

 他の人間は、誰もいない。

 勝手に喉から唸り声が漏れて、師匠の肩口に噛み付いた。

「ッ、い……!」

 痛そうな声が聞こえる。けど、どうしよう、我慢が出来ない。噛んで、吸い付いて、痕を残して師匠に俺を刻み付ける。この人は、俺の。俺だけの。

「……ルイ」

 押さえ付けていた体の腕が伸びてきて、咎められるかと思ったら撫でられた。
 その腕さえ捕まえて痕を付けていく俺に、師匠がちょっと困った顔をして笑う。

「……でっけーガキだな、テメェは」

 ぐい、と頭を強く引き寄せられて、キスを仕掛けられた。師匠とするのは気持ちいい。くちゅくちゅと舌を絡めて擦り合わせるだけでも、また昂ってくる。

「食いてぇか」

 答えたいのに、言葉が出てこない。ぐるぐると喉の音だけで答える俺の頬を、師匠が撫でてくれる。

「……いいよ」

 その後のことを、実はあんまりはっきり覚えてない。

 ただ、どれくらい経ったかわからないけど、俺に手を離されてずるずると体勢を崩した師匠を見て我に返った。落ちついて見たら師匠の体にめちゃくちゃ痕を付けていて、赤い鬱血がそこかしこに散らばっていた。それから、噛んだ痕も。
 痛かったはずなのに、何一つ咎められなかった。今までは絶対怒られていたのに。許されている。今まで以上に。
 余計ムラムラしてきた。けど、あれだけ戦り合った後に好き放題啼かせたし、師匠は魔力も空っぽだ。これ以上疲れさせるのは良くない。ヤりたいけど。だめだ。

「……ル、ィ」

 我慢しようと気持ちを落ち着かせてたら、小さい声で呼ばれたから慌てて傍に寄り添う。声が掠れてる。声我慢しないでほしいって言ったらこれだし、何なんだこの人。際限なく我儘を聞いてもらえそうにも思えて、自制しないと本当に危ない。

「……たりたか」

 お陰さまで今足りなくなりそうです。

「…………無理させたくないから、もう休んでて」

 師匠を撫でながら、自分にはひたすら落ちつけと念じる。いくらでも貪りたいけど、抱き壊したいわけじゃない。こんなところで一人で暮らしてたんだから、本当は体調だって万全じゃないはずだ。
 まだぎりぎり我慢は出来る。ナカに挿れたい衝動も、制御出来る。これからちゃんと、師匠に自分を大事にすることを教えていかないといけないから、今は俺が耐える時だ。

「……まだ、たりねぇなら……」
「師匠」

 起き上がろうと身じろいだ人を、優しく撫でて止める。少し気だるげな顔に口付けを落として、あやすように抱きしめる。
 カーメルにやると宣言したものの、師匠を甘やかすのはすごく難しい。すぐに師匠が俺のために動いてくれようとする。師匠が俺を大事にしてくれてるのがわかって嬉しいけど、俺だって師匠を大事にしたい。

「俺に甘やかされてよ」

 言葉に詰まった背中を撫でて、浄化の魔術を掛けて綺麗にしてあげる。あとで敷物にしている外套にも掛けておかないといけない。俺のか師匠のかわからないけど、ぐちょぐちょだ。

「寝ていいから」

 疲れてるだろうし、とは言わない。きっと意地っ張りだから疲れてないって言い出す。
 促すように一定の間隔で背中を撫でていたら、師匠の目がとろんとしてきた。

「……いいのか……」
「うん」

 もうほとんど寝ているような気もする。緩んだ顔でくふんと吐息を漏らして、師匠の唇が俺の額に触れる。

「……おやすみ、るい……」
「……おやすみなさい、師匠」

 すこんと眠りに落ちてしまったところを見れば、確かに疲れていたんだろうと思う。だけど。

「……どうしようこれ」

 完全に元気を取り戻してしまった。最後に俺を攻撃していくのはやめてほしい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

色狂い×真面目×××

135
BL
色狂いと名高いイケメン×王太子と婚約を解消した真面目青年 ニコニコニコニコニコとしているお話です。むずかしいことは考えずどうぞ。

没落貴族の愛され方

シオ
BL
魔法が衰退し、科学技術が躍進を続ける現代に似た世界観です。没落貴族のセナが、勝ち組貴族のラーフに溺愛されつつも、それに気付かない物語です。 ※攻めの女性との絡みが一話のみあります。苦手な方はご注意ください。

風紀委員長様は今日もお仕事

白光猫(しろみつにゃん)
BL
無自覚で男前受け気質な風紀委員長が、俺様生徒会長や先生などに度々ちょっかいをかけられる話。 ※「ムーンライトノベルズ」サイトにも転載。

大学生はバックヤードで

リリーブルー
BL
大学生がクラブのバックヤードにつれこまれ初体験にあえぐ。

処理中です...