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犬牙、犬吠、その身に喰らえ
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俺の少し前を歩いてくれる、太陽みたいな金色の髪。たぶんナイフか何かで適当に切ってるから、長さがばらばらだ。後で整えたい。髭も剃りたい。キスする時にちくちくするから、あんまり好きじゃない。それに、さっき抱きしめて思ったけど、前より痩せてる気がする。ぎゅってした時、もうちょっと抱え甲斐があったと思う。
置いていかれた理由が知りたいし、会えなかった間の師匠のことが知りたい。
「師匠」
「何だ」
「いっぱい話したい」
師匠が俺を振り返る。瞳が全部碧だ。魔力がない時の師匠の顔は、初めて見た気がする。金色が滲んでなくても、師匠の目はやっぱり宝石みたいで綺麗だ。
「……他にやることもねぇし、聞いてやるよ」
違う。足を速めて師匠の隣に立ったら、ちょっと不思議そうな顔をされた。
「俺のこと話すんじゃなくて、師匠のことがいっぱい聞きたい」
師匠の歩みが少しゆっくりになった。戸惑ってる。今までそんなに師匠とたくさん話をしてきたわけじゃないけど、どちらかといえば俺が話すことが多かった。いつも、師匠は煙草を吸いながら、静かに俺の話を聞いてくれていた。
「……魔物倒して、その辺のもん食って、生きてただけだ」
「……そういうこと聞きたいんじゃ、ないんだけど……」
本気で言っているのかはぐらかそうとしているのか、ちょっと区別が付かない。本気だったら可愛いけど。
繋いだ手に軽く力を入れて促したら、師匠の肩が少し跳ねた。また元の速さで歩き出して、他と比べればまだ形の残っている廃墟が見えてくる。フェニックスがその上に止まったから、たぶんここが師匠の暮らしているところだ。
入り口が狭かったから仕方なく手を解いて、背を屈めて瓦礫を乗り越えて中に入る。
「その辺に荷物置いとけ」
もちろん家具も何もない。壁だけが残っている部屋の片隅に広げてある外套が、たぶんベッド代わりだろう。大きめの瓦礫の上に水袋が置いてあるから、これがテーブルの代わりだ。師匠が剣帯を取ってそこに置いた。椅子に出来そうな石も、一つだけ傍に転がっている。
「脱いでそこ座れ」
荷物袋を瓦礫の傍に置いたら、師匠が椅子代わりの石を蹴ってから俺の荷物を漁り始めた。傷薬をテーブルに出して、さらしも取り出している。ウィルマさんに回復薬をもらってきたこともわかってたから、中に傷薬もあると推測出来ていたのかもしれない。
「回復薬飲んだ」
「……何回斬って蹴って殴ったか覚えてねぇんだよ」
「……はい、師匠」
剣帯や防具を全部取って、下穿きだけになって石に座る。自分でも腕や腹を見てみたけど、確かに痣とか細かい傷は治りきってなかった。足も結構まだら模様だ。回復薬を飲んで痛いのが薄れたから、治ったつもりだった。傷が深かったり数が多かったりすると、ウィルマさんの回復薬でも治しきれないみたいだ。
師匠が背中から薬を塗ってくれる。ちょっとぴりぴりする。背中はあんまりやられてないつもりだったけど、ないわけじゃないらしい。それから前に来た師匠が、俺を頭のてっぺんから足の先まで眺めて、ため息を漏らす。
「こんだけやって何で諦めねぇんだよ……」
「……師匠は、俺の特別だから」
薬を塗ろうと伸びてきていた師匠の手が、宙で止まる。捕まえて、引き寄せて俺の膝の上に閉じ込める。師匠のにおい。
「……何しやがんだ馬鹿犬」
「ずっと捜してた」
降りようともがいていた師匠が大人しくなる。師匠は強いし、乱暴なところもあるけど、優しいし俺を大事にしてくれる。俺はきっと師匠の一番じゃないけど、師匠が大事にしたい人間の一人にはなれているはずだ。だから今まで甘えて、ぎゅってして、セックスもさせてもらって、師匠の優しさに付け込んできた。
もう我慢しない。手に入れるためだったら、師匠がわかってない師匠の甘さだって、何だって使ってやる。
「……その状態の足に俺を乗せんな、馬鹿犬。話は……して、やるから」
例えば、滅多にしない約束をしたら、破らないでくれるところとか。手を離したら師匠が俺の足から降りて、寝床の方を顎で示されたからそっちに座り直す。
足を開いて、その間をぽんぽんしてから師匠を呼ぶみたいに腕を広げたら、師匠の眉間の皺がすごく深くなった。さっき俺が脱ぎ捨てた服を師匠が足で拾って、上衣をがぼっと被せられる。もごもごしているうちにちょっと離れたところに座られたから、俺の方から寄っていってくっついた。
置いていかれた理由が知りたいし、会えなかった間の師匠のことが知りたい。
「師匠」
「何だ」
「いっぱい話したい」
師匠が俺を振り返る。瞳が全部碧だ。魔力がない時の師匠の顔は、初めて見た気がする。金色が滲んでなくても、師匠の目はやっぱり宝石みたいで綺麗だ。
「……他にやることもねぇし、聞いてやるよ」
違う。足を速めて師匠の隣に立ったら、ちょっと不思議そうな顔をされた。
「俺のこと話すんじゃなくて、師匠のことがいっぱい聞きたい」
師匠の歩みが少しゆっくりになった。戸惑ってる。今までそんなに師匠とたくさん話をしてきたわけじゃないけど、どちらかといえば俺が話すことが多かった。いつも、師匠は煙草を吸いながら、静かに俺の話を聞いてくれていた。
「……魔物倒して、その辺のもん食って、生きてただけだ」
「……そういうこと聞きたいんじゃ、ないんだけど……」
本気で言っているのかはぐらかそうとしているのか、ちょっと区別が付かない。本気だったら可愛いけど。
繋いだ手に軽く力を入れて促したら、師匠の肩が少し跳ねた。また元の速さで歩き出して、他と比べればまだ形の残っている廃墟が見えてくる。フェニックスがその上に止まったから、たぶんここが師匠の暮らしているところだ。
入り口が狭かったから仕方なく手を解いて、背を屈めて瓦礫を乗り越えて中に入る。
「その辺に荷物置いとけ」
もちろん家具も何もない。壁だけが残っている部屋の片隅に広げてある外套が、たぶんベッド代わりだろう。大きめの瓦礫の上に水袋が置いてあるから、これがテーブルの代わりだ。師匠が剣帯を取ってそこに置いた。椅子に出来そうな石も、一つだけ傍に転がっている。
「脱いでそこ座れ」
荷物袋を瓦礫の傍に置いたら、師匠が椅子代わりの石を蹴ってから俺の荷物を漁り始めた。傷薬をテーブルに出して、さらしも取り出している。ウィルマさんに回復薬をもらってきたこともわかってたから、中に傷薬もあると推測出来ていたのかもしれない。
「回復薬飲んだ」
「……何回斬って蹴って殴ったか覚えてねぇんだよ」
「……はい、師匠」
剣帯や防具を全部取って、下穿きだけになって石に座る。自分でも腕や腹を見てみたけど、確かに痣とか細かい傷は治りきってなかった。足も結構まだら模様だ。回復薬を飲んで痛いのが薄れたから、治ったつもりだった。傷が深かったり数が多かったりすると、ウィルマさんの回復薬でも治しきれないみたいだ。
師匠が背中から薬を塗ってくれる。ちょっとぴりぴりする。背中はあんまりやられてないつもりだったけど、ないわけじゃないらしい。それから前に来た師匠が、俺を頭のてっぺんから足の先まで眺めて、ため息を漏らす。
「こんだけやって何で諦めねぇんだよ……」
「……師匠は、俺の特別だから」
薬を塗ろうと伸びてきていた師匠の手が、宙で止まる。捕まえて、引き寄せて俺の膝の上に閉じ込める。師匠のにおい。
「……何しやがんだ馬鹿犬」
「ずっと捜してた」
降りようともがいていた師匠が大人しくなる。師匠は強いし、乱暴なところもあるけど、優しいし俺を大事にしてくれる。俺はきっと師匠の一番じゃないけど、師匠が大事にしたい人間の一人にはなれているはずだ。だから今まで甘えて、ぎゅってして、セックスもさせてもらって、師匠の優しさに付け込んできた。
もう我慢しない。手に入れるためだったら、師匠がわかってない師匠の甘さだって、何だって使ってやる。
「……その状態の足に俺を乗せんな、馬鹿犬。話は……して、やるから」
例えば、滅多にしない約束をしたら、破らないでくれるところとか。手を離したら師匠が俺の足から降りて、寝床の方を顎で示されたからそっちに座り直す。
足を開いて、その間をぽんぽんしてから師匠を呼ぶみたいに腕を広げたら、師匠の眉間の皺がすごく深くなった。さっき俺が脱ぎ捨てた服を師匠が足で拾って、上衣をがぼっと被せられる。もごもごしているうちにちょっと離れたところに座られたから、俺の方から寄っていってくっついた。
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