馬鹿犬は高嶺の花を諦めない

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犬牙、犬吠、その身に喰らえ

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「ここからが内緒話だけど……実はね、種火を通してフェニックスとは会話が出来るんだよ」
「……魔物じゃ、ないんですか」

 魔物とは意思疎通が出来ない、と言われている。人を見れば襲い掛かってくるし、向こうが出す声だって、何を言っているかこっちにはわからない。
 フェニックスに会ったことはないけど、師匠が戦ってたから、魔物の一種なんだと思っていた。

「まあ、魔物ではないんだろう。遠方には人と違う姿をした種族の国があるともいうし、不思議なことでもないさ」

 何も思い出せなかったから、たぶん師匠に教わったことはないんだろう。師匠が言ってたことなら、俺が忘れるはずはない。でも会話が出来るなら、わざわざ戦わなくてもいい気がする。
 とにかく、師匠が採ってきた種火を通じて、法王はフェニックスに呼び掛けたそうだ。今どこにいるのか、新しい種火が欲しいので、クトス山に帰ってきてもらえないか。

「今クライヴと一緒に魔物だらけの場所にいるから帰れない、と返事をされてね」

 魔物だらけの場所。聞いて気持ちがざわついたけど、大人しく続きを聞く。

 フェニックスとのやり取りでわかったのは、当時、ドラゴンが最初に滅ぼした国の跡地にいること。そこにいるのは、師匠とフェニックス以外は魔物だけだ。特に危険になったことはないらしいが、もちろん人間が一人で生きていけるような場所ではないから、師匠を残していくわけにはいかない。それに、師匠が人間の住む地域へ戻る気がないので、フェニックスも当分戻らない。
 その辺りを一通り聞き出して、法王からモンドールさんに、モンドールさんから俺に連絡が来た、という流れだそうだ。手紙に詳細がなかったのは、情報源が公に出来なかったのと、場所が場所だから、というのが理由。

「……フェニックスと会話出来るのを、師匠は」
「それくらいは知っているだろう。ただ、種火を通して会話出来ることは、知らないはずだ」
「居場所がわかったのは」
「口止めしたよ、もちろんね」

 それなら、会いに行ける。ウィルマさんのところに行って結界の魔道具を借りれば、一人でも何とかなるはずだ。一番西の町までは馬で行って、その先はどうなるかわからないから徒歩になるけど、でも、確実に会えるなら歩いてでも行く。

 今度こそ喉笛に喰らいついてやる。

「行きます」
「そう言うと思って、いろいろ用意しておいたんだ」

 部屋の隅にいろいろ置いてあったのは、モンドールさんが準備してくれていた道具だったみたいだ。
 ドラゴンが通った国々が滅ぶ前の地図。魔物が溢れる場所になった後は誰も現地を確かめられていないけど、大まかには変わっていないはず、だそうだ。それから保存食とか、野営で使える道具がいろいろ。ウィルマさんにもらったのは食料がほとんどだったし、王都に来るまでに使ったから助かった。

「……どんな魔物が出るかわからないからね、気を付けて」

 少し大きめの荷物袋も譲ってもらって、店を後にしようとしたらモンドールさんに声を掛けられた。法王は少し時間をずらして、こっそり神殿に戻るそうだ。兄弟とはいえ、法王が特定の商会と繋がりがあるように見えてはいけないらしい。

「……俺の特別が師匠だってちゃんとわかってもらえるまで、死ねないので」

 何回でも師匠が欲しいって伝えたつもりだけど、何回言ってもあんまり実感してたようには思えなかったから。何年掛かっても、あがいて、手を伸ばし続けて、伝え続けて、いつかはわかってもらうつもりだ。その時までは死ぬわけにいかないし、その後も一緒にいたいから死ぬつもりはないけど。

「……そっか」

 眉尻を下げて、少し困ったような顔でモンドールさんが笑って、俺の頭をくしゃくしゃ撫でてきた。モンドールさんに撫でられたのは初めてだ。師匠とも、ウィルマさんともカーメルとも違う。

「……頼むね。ルイくん」
「はい」

 家族だけじゃなくて、友だち、にも師匠が大事に思われているのは、俺も嬉しい。

 でも、俺が一番に会いたいから、俺が師匠を探しに行く。
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