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犬牙、犬吠、その身に喰らえ
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ウィルマさんの話し方は、そっくりというわけじゃないのに、どことなく師匠を思い出して少し安心する。話を聞いた時は王都の人間にイライラしただけだったけど、ラクレイン団長たちが師匠をウィルマさんに預けてくれて良かったと、今は思える。何となく似てくるくらいだから、きっとウィルマさんのところでは、師匠も息がしやすかったはずだ。
「でも先生、こいつまだ魔術が」
「そんなもの、ここでしか出来ないわけじゃないだろう? お前の首には縄を付けておく必要があるが」
ウィルマさんが、当然のようにクソ野郎の上に座る。クソ野郎も別に、そのことに関して文句を言わない。いわゆるご褒美になってるんだったら、やめた方がいいんじゃないかと思うけど。でも師匠が俺の上に座ることを想像したら、俺も文句を言えないから黙っておく。今までそういう扱いはされたことないけど。
クソ野郎はウィルマさんが預かることになっているから、王様の許可がないと、そうそう出かけることは出来ないらしい。勝手に一人で出歩いたら、騎士団に殺されても文句は言えない立場だそうだ。今はウィルマさんの下で、元いた国では教えてもらえなかった魔術に関する理論について学ぶことになっている。
俺は特に何をしろとも言われてないけど、一応師匠の真似をして、魔物の被害で困っている話が来たら、出向いて倒すようにはしている。第二騎士団が国中に配備されていても、誰もが師匠ほど強いわけじゃない。だから強い魔物の討伐には第三騎士団も合流するし、それでも倒せなければ、師匠やウィルマさんみたいに、強い人に要請が来る。俺も魔力があるから、普通の人よりは強いらしい。他の人が簡単には魔物をぶった切れないのは、そういうことだ。意識したことはないけど、魔力で体を強化して、普通の人より強い力を出せたり速く動けたりするらしい。だからたまに、俺にも協力要請が来る時がある。ただ、断っても文句は言われない。
けど、クソ野郎の生まれたところでは、魔力持ちは全員国の管理下に置かれて、魔物退治とか他の国への侵略とか、いろんなことを強制的にやらされるらしい。逆らったら、体に刻まれた魔法陣が発動して死ぬそうだ。ウィルマさんがあっさり解呪してくれたから、そのことに感謝してめちゃくちゃ懐いているみたいだ。俺にとっての師匠が、こいつにとってのウィルマさんなのかもしれない、とは思った。
「お前の手綱は私が握っているが、仔犬にとっての首輪はクライヴだからな。早く会いたいだろう?」
聞かれて頷く。師匠が首輪、というのはよくわからないけど、会えるなら今すぐ会いたい。ぎゅってしたいし、たくさん話したいことはあるし、キスもしたいしそれ以上ももちろんしたい。触りたい、声が聞きたい、においが恋しい。
あと、ウィルマさんに採取されるのが怖いから、この家では抜いてない。森に行って始末してる。娼館に行っても、相変わらず師匠以外だとまともに勃たないから、意味がない。
「行ってこい、仔犬」
俺の荷物入れが勝手に飛んできて、手の中に納まった。中を開けたら回復薬や食料、着替えとかいろいろ入っている。用意してくれた、みたいだ。ウィルマさんが案外面倒見がいいのも、やっぱり師匠と似ているかもしれない。
「……ありがとうございます、行ってきます!」
横に置いていた剣を掴んで、森の出口に急ぐ。一番近くの町で馬を借りられるといいけど、残ってなかったらどうしよう。転移の魔道具を使えたら嬉しいけど、あれはあまり公にしない方がいいらしい。今は必要な魔力が膨大過ぎて、ほとんど俺しか使えないようなものだけど、改良されて大勢の人間を効率的に運べるようになったら、真っ先に戦争の道具に使われかねないからだそうだ。ウィルマさんが外に出すつもりがないなら、俺が勝手に使うわけにはいかない。
ずっと東の森に籠っていたわけではないけど、王都にはもう長いこと行っていない。そういえば、王女が隣の国に嫁いだという話を聞いたような気もする。師匠の大事な人たちは俺も守りたい。でも、師匠と一緒にいない今は、師匠を探す方がずっと大事だからあまり気を配っていなかった。師匠を見つけられたら、王女が嫁いだ国に一緒に行ってみるのもいいかもしれない。
師匠の話じゃなかった時に、どれくらいの力だったらモンドールさんを殴っても死なせなくて済むか、考えながら急いで王都に向かった。
「でも先生、こいつまだ魔術が」
「そんなもの、ここでしか出来ないわけじゃないだろう? お前の首には縄を付けておく必要があるが」
ウィルマさんが、当然のようにクソ野郎の上に座る。クソ野郎も別に、そのことに関して文句を言わない。いわゆるご褒美になってるんだったら、やめた方がいいんじゃないかと思うけど。でも師匠が俺の上に座ることを想像したら、俺も文句を言えないから黙っておく。今までそういう扱いはされたことないけど。
クソ野郎はウィルマさんが預かることになっているから、王様の許可がないと、そうそう出かけることは出来ないらしい。勝手に一人で出歩いたら、騎士団に殺されても文句は言えない立場だそうだ。今はウィルマさんの下で、元いた国では教えてもらえなかった魔術に関する理論について学ぶことになっている。
俺は特に何をしろとも言われてないけど、一応師匠の真似をして、魔物の被害で困っている話が来たら、出向いて倒すようにはしている。第二騎士団が国中に配備されていても、誰もが師匠ほど強いわけじゃない。だから強い魔物の討伐には第三騎士団も合流するし、それでも倒せなければ、師匠やウィルマさんみたいに、強い人に要請が来る。俺も魔力があるから、普通の人よりは強いらしい。他の人が簡単には魔物をぶった切れないのは、そういうことだ。意識したことはないけど、魔力で体を強化して、普通の人より強い力を出せたり速く動けたりするらしい。だからたまに、俺にも協力要請が来る時がある。ただ、断っても文句は言われない。
けど、クソ野郎の生まれたところでは、魔力持ちは全員国の管理下に置かれて、魔物退治とか他の国への侵略とか、いろんなことを強制的にやらされるらしい。逆らったら、体に刻まれた魔法陣が発動して死ぬそうだ。ウィルマさんがあっさり解呪してくれたから、そのことに感謝してめちゃくちゃ懐いているみたいだ。俺にとっての師匠が、こいつにとってのウィルマさんなのかもしれない、とは思った。
「お前の手綱は私が握っているが、仔犬にとっての首輪はクライヴだからな。早く会いたいだろう?」
聞かれて頷く。師匠が首輪、というのはよくわからないけど、会えるなら今すぐ会いたい。ぎゅってしたいし、たくさん話したいことはあるし、キスもしたいしそれ以上ももちろんしたい。触りたい、声が聞きたい、においが恋しい。
あと、ウィルマさんに採取されるのが怖いから、この家では抜いてない。森に行って始末してる。娼館に行っても、相変わらず師匠以外だとまともに勃たないから、意味がない。
「行ってこい、仔犬」
俺の荷物入れが勝手に飛んできて、手の中に納まった。中を開けたら回復薬や食料、着替えとかいろいろ入っている。用意してくれた、みたいだ。ウィルマさんが案外面倒見がいいのも、やっぱり師匠と似ているかもしれない。
「……ありがとうございます、行ってきます!」
横に置いていた剣を掴んで、森の出口に急ぐ。一番近くの町で馬を借りられるといいけど、残ってなかったらどうしよう。転移の魔道具を使えたら嬉しいけど、あれはあまり公にしない方がいいらしい。今は必要な魔力が膨大過ぎて、ほとんど俺しか使えないようなものだけど、改良されて大勢の人間を効率的に運べるようになったら、真っ先に戦争の道具に使われかねないからだそうだ。ウィルマさんが外に出すつもりがないなら、俺が勝手に使うわけにはいかない。
ずっと東の森に籠っていたわけではないけど、王都にはもう長いこと行っていない。そういえば、王女が隣の国に嫁いだという話を聞いたような気もする。師匠の大事な人たちは俺も守りたい。でも、師匠と一緒にいない今は、師匠を探す方がずっと大事だからあまり気を配っていなかった。師匠を見つけられたら、王女が嫁いだ国に一緒に行ってみるのもいいかもしれない。
師匠の話じゃなかった時に、どれくらいの力だったらモンドールさんを殴っても死なせなくて済むか、考えながら急いで王都に向かった。
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