馬鹿犬は高嶺の花を諦めない

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野良犬、迷い犬、あの手が恋しい

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 師匠の情報は少しずつしか集まらなくて、足取りはなかなか掴めなかった。あっちの町で見た、とか、こっちの村で魔物を倒した、とかぱらぱらと話は上がってくるけど、移動する先にまるで法則性がない。どっちの方向に進んでいそう、みたいな予測すら全然出来なかった。足取りを追われないように、師匠がわざとそうしている気がする。
 だから、引き続き情報集めはモンドールさんにお願いすることにして、俺も旅に出た。あのまま王都にいても、話を聞く相手はもういなさそうだったし、いろんな貴族が会いたいとか何とかうるさかった。師匠を探さないといけないのに、よく知らない貴族に時間を取られるのは面倒だ。

 どこに行くか特に決めてはいなかったけど、旅に戻るって一応ミーチャさんに伝えて、来た時と同じ王都の門から出た。王都に繋がる街道はどれも広くて、馬車がすれ違っても、その横を歩く余裕が充分にある。
 ただ、街道には騎士団はいないから、やっぱり魔物に襲われる人はいる。師匠だったら迷わず助けそうだから、俺も魔物は倒しておいた。感謝はされたけど、師匠がやることを俺がしただけだから、別にどうでもいい。俺は師匠みたいに人助けがしたいわけじゃなくて、師匠を見つけたいだけだ。
 英雄を見なかったかどうかだけ聞いて、見てないらしいから旅を続けた。

 本当に、師匠が俺に見つけさせないつもりで動いてるのがわかってちょっとへこむ。今のまま見つけてもまた置いてかれそうだから、何か考えないといけない。問題は、師匠の考え方が難しくて、俺だとよくわからないことだ。

「それで、考えてもよくわからないから僕のところに来ちゃったの?」
「う……」
「ああ、違う違う。馬鹿にしてるんじゃないから。ほら泣かないの」

 別に泣いてない。泣いてないけど、カーメルに手招きされたから隣に座る。娼館のベッドは柔らかくて、あんまり座るのには向いてない。

「はいごろーん」

 転がされて膝枕された。泣いてないのに。頭をぽんぽんされる。

「泣いてない……」
「気持ちよくなってもらうだけじゃなくて、心を軽くするのも僕たちの仕事だから。大人しく撫でられときなよ」

 師匠と違って、カーメルは丁寧に頭を撫でてくれる。足も師匠より柔らかい。寝返りを打って腹に額をくっつけても、師匠みたいに剥がされない。

 でも、師匠じゃない。

「……師匠に会いたい……」
「ごめんね、全然情報上がってこなくてさ」

 師匠がカーメルのところに来てたのは、ヤるより情報収集が目的だったらしい。寝ることもあったみたいだけど。ベッドの中では男も女も口が軽くなるから、寝物語に話されたことが娼婦、あるいは男娼の中で共有されて、師匠に流されていたそうだ。娼館はヤるところだと思ってたから、それが普通なのか聞いたら、師匠は特別って言われた。
 親に売られてひどい娼館で働かされたり、乱暴な客に執着されてぼろぼろにされたり、そういう人たちを師匠が助けたことが何度もあったらしい。疲れてそうな人をわざわざ指名して何もせずに寝かせたり、食べてみたいって言ったものを次の時に買ってきてくれたり、マメで優しくて、顔も格好いい。人気が出ないはずがない。だから師匠に何か聞かれたら、みんな我先に話を集めてきて、情報提供するそうだ。

「……娼館、行ってないのかな」
「たぶん。クライヴが出入りしたら、情報が回らないはずないもの」

 体を重ねることがなくても、話だけでもしたい。そういう娼婦も多いらしい。もちろんヤりたい人も多いらしい。
 師匠を一番気持ちよく出来るのは俺だと信じたいけど、普段から仕事でやってる人と比べたらどうだろう。俺とするのが一番気持ちいいって思ってほしい。

「師匠……」
「こんなに離れてたこと初めてだもんねぇ、寂しいよね」
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