馬鹿犬は高嶺の花を諦めない

phyr

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野良犬、迷い犬、あの手が恋しい

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 城の中をどれだけ探しても師匠は見つからなくて、王様は第二騎士団とモンドールさんの家の人まで駆り出したらしい。それでも王都にもどこにもいなかったから、しおしおと崩れ落ちて仕事にならなくなったそうだ。それで俺が何か知らないかと、ミーチャさんが走ってきたらしい。
 俺も、何も知らなかったけど。

「……ルイさん、その、大丈夫ですか?」

 驚いて固まってたら、王子に触られて余計にびっくりした。近付いてきてたのに全然気付いてなかった。結構長い時間、呆然としてたみたいだ。
 大丈夫、なわけじゃないけど、でも、師匠がいないならやることは一つしかない。

「探さなきゃ」

 師匠はわざわざ戻ってきてくれるような人じゃない。自分で見つけ出して自分から傍に行かないと、このままずっと会えなくなる。絶対やだ。行き先に心当たりはないから、手がかりを見つけて探さないといけない。
 俺が持ってる手札は少ないし、誰か協力してくれる人が必要だ。

「……ミーチャさん、王様と話って、出来ますか」

 だったら、権力者を使うのが一番いい。師匠がわざわざ王様に俺の名前を頼んだのも、そういうことかもしれない。

 頷いたミーチャさんについて、城の中を歩く。前は俺が歩いていると訝しげな顔をされたけど、名前と称号をもらってからは違う雰囲気の視線を寄越される。
 話し掛けられても答えるつもりはないけど、名前で識別して属性で態度を決めるって師匠が言ってたのは、たぶんこういうことなんだと思う。属性なんて、一対一で向き合った時には何の関係もないのに。王様だろうと貴族だろうと、師匠に何かするなら殺すし、俺の邪魔をするなら殺す。それは属性に関係のない話だ。

 ミーチャさんに連れられて入った部屋には大きな机があって、紙の束が山ほど乗っていた。机に向かって王様が座ってはいるけど、椅子にぐったりもたれかかっていて動いていない。隣で王妃が紙の山を片付ける作業をしている。護衛の騎士が立っているのは椅子の少し後ろだ。近くにいるなら騎士も手伝えばいいのにと思うけど、護衛だから仕事が違うんだろう。

「陛下、妃殿下、勇士様をお連れ致しました」
「ありがとう、ミーチャ」

 王妃が王様を立たせようとしたけど、全く力が入らないみたいでふにゃふにゃだったから、騎士とミーチャさんが両側から抱えて移動させた。隣の部屋にあった長椅子に座らせたけど、そこでもぐんにゃり椅子に埋まっていく。
 王様が、人だったはずだけど、スライムみたいになってる。

「クライヴがいなくなるといつもこうなの……ごめんなさいね」

 師匠がたまに城に来るとめちゃくちゃ元気になって、用事が終わって城からいなくなると、しばらくスライムになるらしい。その間はほとんど仕事にならないので、王様でないとダメなもの以外は王妃が代行するそうだ。
 王様の横に王妃が座って、ミーチャさんに勧められて向かい側の椅子に座る。騎士はまた王様たちの少し後ろだ。

「ルイくんは、クライヴの行った先に心当たりはあって?」

 ミーチャさんが用意してくれたお茶を飲みながら、王妃に聞かれて首を横に振る。そのつもりで、師匠は俺に何も言わなかったんだとは思う。俺が追い掛けられないように。俺を城に残すことじゃなくて、たぶん、俺の前からいなくなるのが目的だ。

 絶対探し出してやる。

「そう……今まで、何も言わずに出て行くなんてこと、なかったから……」

 心配しているの、とため息をついた王妃の横で、スライム、じゃなかった、王様がぽつりと零した。

「育ててる子がいるから、安心してたのに……結局クライヴが逃げちゃったじゃないか……」

 一気に頭と腹が冷えた。

「…………師匠は逃げない」

 王様から視線が逸らせない。城では大人しくしろって、噛み付くなって言われたけど、でも、違う。
 師匠は何にも背中を向けたりなんかしない。
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