馬鹿犬は高嶺の花を諦めない

phyr

文字の大きさ
上 下
65 / 116
忠犬、馬鹿犬、貴方のために

11-1

しおりを挟む
 警備の人に手伝ってもらいながら、どうにかこうにか師匠のいるらしいバルコニーまで出てこられた。
 いろんな貴族にいっぱい声を掛けられて、領地がどうのとか娘がどうのとか言われた。いろんな町に行ったことはあるけど、どこが特別よかったなんて思い出は特にない。師匠がいればいい。娘が美人とか楽器が得意とか、よく知らない人の話をされても興味は持てない。今まで見てきた中で師匠が一番綺麗だし、楽器を弾けるかどうかは知らないけど、師匠に出来ないことはない、と勝手に思ってる。
 とにかく、知らない人間に話し掛けられて興味のないことを聞かされても面倒なだけだ。手すりに座って煙草を吸っている師匠が見えた時にはほっとして、よれよれになって隣に座った。

「……いろんな人に囲まれて、大変なことになった」
「だろうな」

 師匠の声ならずっと聞いていたい。いいにおいもする。そういえば、広間の中はいろんなにおいが混じって息苦しかった。横にいる師匠にすんすんと鼻を寄せたら、蹴られた。

「……気になる相手はいなかったのかよ」
「気になる相手?」
「年頃のご令嬢とか、薦められただろ」

 娘が何とか言われたけど、師匠のことじゃないからあんまりちゃんと聞いてなかった。だいたい俺は孤児だし、貴族に馴染めるわけがない。
 煙草を吸おうとする手を捕まえて、訝しげに振り返る顔に口付ける。外を歩いている時以外は、師匠もそこまで警戒心が強くない。

「俺は師匠と話がしたい」
「テ、メェ、な」

 話もそうだけど、セックスもしたい。城に来てから師匠を抱いてない。
 立ち上がって体と手すりの間に師匠を閉じ込めて、キスを仕掛ける。抵抗すればいいのに、蹴らないし、噛まないから、俺が調子に乗るのに。

 戸惑ってるのに応えてくれるの、可愛い。

「ば、かいぬ、話って……ッ」

 息を荒げた師匠が、声を抑えながら俺を睨む。バルコニーの出入り口は帳で仕切られていて、警備の人が他に誰も入ってこないよう見てくれている。大声や争う音が聞こえたらさすがに入ってくるだろうから、あんまり聞こえないように気を付けてるんだろう。
 俺も師匠のエロい声が聞かれるのは、嫌だけど。
 煙草を師匠から奪い取って、魔術で綺麗に燃やす。煙草を吸っている師匠は格好いいけど、今はちょっと邪魔だ。

「ここ来てから、全然師匠と一緒にいられない」

 この服だと俺じゃ脱がせられないから、ここで勃たせるのはまずいかもしれない。汚したり破ったりしたらベティさんが泣きそうだし。服の上から師匠のを撫で擦りながら考える。
 耐えようとしてる顔もエロい。オカズに出来る。

「それに師匠、俺と距離置こうとするし」

 一瞬肩が跳ねた。図星みたいだ。だったらちょっと追い詰めても許されるか。許されるな。俺がどれだけ我慢して我慢して我慢して我慢してここにいたと思ってるんだ。
 服の上から乳首を捏ねたら、ぎゅっと目を瞑ってしまった。時折漏れる息が艶っぽい。耳元に唇を寄せて、吹き込むように囁く。

「俺が欲しいの、師匠だけって、ずっと言ってるのに」

 そのまま耳に口付けて、わざと水音を聞かせる。音に弱いのは知ってる。すごく小さいけど、声漏らしてて可愛い。

「……今日まで大人しくしてたご褒美、くれるよね」

 碧の瞳がこちらを向いた。少し潤んでる、綺麗な宝石。

「……テメェを、連れてきたのは……俺の都合だ」

 手を止めて、師匠の腰を抱く。体をくっつけたら、師匠はちゃんと勃ってた。ちょっと満足して、割れ目に繋がる骨の辺りを撫でながら、師匠の声を聞く。

「…………嫌、だったか?」

 声すら出せなかった。

 なん、この、は、はぁ? ここでそういうこと言う?

 師匠の肩に顔を伏せて、抱きしめる。馬鹿犬っていつも言われるけど、この人がばか、いや、そんなことない、師匠は頭いい。くそ、かわいい、最近そういうことするから、ほんとにもう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

没落貴族の愛され方

シオ
BL
魔法が衰退し、科学技術が躍進を続ける現代に似た世界観です。没落貴族のセナが、勝ち組貴族のラーフに溺愛されつつも、それに気付かない物語です。 ※攻めの女性との絡みが一話のみあります。苦手な方はご注意ください。

大学生はバックヤードで

リリーブルー
BL
大学生がクラブのバックヤードにつれこまれ初体験にあえぐ。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…

まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。 5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。 相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。 一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。 唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。 それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。 そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。 そこへ社会人となっていた澄と再会する。 果たして5年越しの恋は、動き出すのか? 表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

なんか金髪超絶美形の御曹司を抱くことになったんだが

なずとず
BL
タイトル通りの軽いノリの話です 酔った勢いで知らないハーフと将来を約束してしまった勇気君視点のお話になります 攻 井之上 勇気 まだまだ若手のサラリーマン 元ヤンの過去を隠しているが、酒が入ると本性が出てしまうらしい でも翌朝には完全に記憶がない 受 牧野・ハロルド・エリス 天才・イケメン・天然ボケなカタコトハーフの御曹司 金髪ロング、勇気より背が高い 勇気にベタ惚れの仔犬ちゃん ユウキにオヨメサンにしてもらいたい 同作者作品の「一夜の関係」の登場人物も絡んできます

処理中です...