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忠犬、馬鹿犬、貴方のために
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あまりの衝撃にいろいろ駄々漏れしそうになって、何を言えばいいかわからなくなるし、どう動いていいかわからなくなった。固まってたら王女と王妃が近付いてくるのが見えて、何とかそちらに体を向ける。
「叔父様、私と踊ってくださる?」
王女のドレスは薄めの緑色で、師匠の服とよく合っている。師匠がやんわりと口角を上げて、王女の手を取り跪いて、キスをする真似をした。
「リトルレディのお願いなら、いくらでも」
見た目もそうだけど、仕草も言葉も全部が王子様だ。さっきの可愛いの塊からの落差に、くらくらする。師匠はこういうところがあるから困る。俺の感情がついていけない。
「ルイ、次は私と踊ってね」
嬉しそうに腕を絡めて歩いていった王女と師匠を呆然と見送ってたら、俺にも声が掛けられた。
「勇士様、私ではお相手するには力不足かしら」
王女と同じ薄茶色の髪と、師匠と同じ碧の瞳だ。そうか、王妃と王女は色合いが一緒なのか。
「王妃、様」
「お嫌かしら?」
「嫌じゃ、ないです」
戸惑いつつ師匠の真似をしたら、にっこりと微笑まれた。王妃は少し師匠に顔が似ている気がする。王妃の手を取ったまま少し開けた場所まで歩いていって、教えられた通り手を回す。
「俺、ダンスあまり上手くならなかったので、リード? してもらえると、助かります」
「あら、ホールドはとってもお上手よ? でも、不安でいらっしゃるなら私も頑張るわね」
楽団が楽器を演奏し始めて、音楽が流れる。王妃の動きに合わせて足を動かすだけで良さそうだ。他に踊っているのが師匠と王女だけだから、ぶつかる心配もしなくていい。
「あなたとお話がしておきたかったの」
「俺と? ……ですか?」
王妃が俺に話って何だろう。王様と仲が悪いわけじゃないだろうし、誰かを通じて伝えるのでも充分だと思うけど。
王様がどこにいるのか確認したら、床が少し高くなったところにあるテーブルで王子と何か話していた。俺が叩き伏せた騎士や、同じ白い制服を着た騎士が周りに立っているから、王族はあそこに座るんだろう。
「ええ。ルイ・コネルという名前にどんな意味が込められているか、きちんとお伝えしておきたくて。リチャードはそういうところを忘れがちだから」
そう言って小さく笑いを漏らした王妃の顔は優しかった。王様の名前を言った時の声音が特に柔らかかったから、仲は良さそうだ。
けど、名前に意味があるなんて初めて聞いた。師匠が言ってたのは、識別するってことくらいだったし。言いたくなかったのか、どうだろう。ひとまず、俺がもらった名前にも意味があるなら、知りたい。
くるりと回った王妃が、また腕の中に戻ってくる。
「教えてほしい、です」
「もちろんよ。名付けにはね、願いが込められているの」
生まれた赤ん坊に付ける時には、名前に込めた意味のように育ってほしいと願う。そういうものらしい。俺みたいに大きくなってからだと、本人の性格とか状況とかから名付けたり、赤ん坊に付ける時みたいに今後そうなれという気持ちを込めたりするそうだ。
俺のルイという名前には、「名高い」という意味。コネルという苗字の方には、「狼」という意味がある。
王様がくれた、俺の名前。
「……名高い、狼?」
「クライヴの元の名前は、アドルフ・カーティスというのだけれど」
師匠が英雄になるにあたってクライヴ・バルトロウという名前になったのも、英雄という立場を確立させるために名前を変えた側面がある、そうだ。カーティス家から出た英雄ではなく、この国の英雄だということを示す必要があったから。
元の名前のアドルフは「高貴な狼」で、カーティスは「宮廷に相応しい」。
「……狼」
「ええ。お揃い、ね」
足運びも何も意味がわからなくなった。王妃も王女も、俺とまともに踊る気なんてなかったのかもしれない。
「叔父様、私と踊ってくださる?」
王女のドレスは薄めの緑色で、師匠の服とよく合っている。師匠がやんわりと口角を上げて、王女の手を取り跪いて、キスをする真似をした。
「リトルレディのお願いなら、いくらでも」
見た目もそうだけど、仕草も言葉も全部が王子様だ。さっきの可愛いの塊からの落差に、くらくらする。師匠はこういうところがあるから困る。俺の感情がついていけない。
「ルイ、次は私と踊ってね」
嬉しそうに腕を絡めて歩いていった王女と師匠を呆然と見送ってたら、俺にも声が掛けられた。
「勇士様、私ではお相手するには力不足かしら」
王女と同じ薄茶色の髪と、師匠と同じ碧の瞳だ。そうか、王妃と王女は色合いが一緒なのか。
「王妃、様」
「お嫌かしら?」
「嫌じゃ、ないです」
戸惑いつつ師匠の真似をしたら、にっこりと微笑まれた。王妃は少し師匠に顔が似ている気がする。王妃の手を取ったまま少し開けた場所まで歩いていって、教えられた通り手を回す。
「俺、ダンスあまり上手くならなかったので、リード? してもらえると、助かります」
「あら、ホールドはとってもお上手よ? でも、不安でいらっしゃるなら私も頑張るわね」
楽団が楽器を演奏し始めて、音楽が流れる。王妃の動きに合わせて足を動かすだけで良さそうだ。他に踊っているのが師匠と王女だけだから、ぶつかる心配もしなくていい。
「あなたとお話がしておきたかったの」
「俺と? ……ですか?」
王妃が俺に話って何だろう。王様と仲が悪いわけじゃないだろうし、誰かを通じて伝えるのでも充分だと思うけど。
王様がどこにいるのか確認したら、床が少し高くなったところにあるテーブルで王子と何か話していた。俺が叩き伏せた騎士や、同じ白い制服を着た騎士が周りに立っているから、王族はあそこに座るんだろう。
「ええ。ルイ・コネルという名前にどんな意味が込められているか、きちんとお伝えしておきたくて。リチャードはそういうところを忘れがちだから」
そう言って小さく笑いを漏らした王妃の顔は優しかった。王様の名前を言った時の声音が特に柔らかかったから、仲は良さそうだ。
けど、名前に意味があるなんて初めて聞いた。師匠が言ってたのは、識別するってことくらいだったし。言いたくなかったのか、どうだろう。ひとまず、俺がもらった名前にも意味があるなら、知りたい。
くるりと回った王妃が、また腕の中に戻ってくる。
「教えてほしい、です」
「もちろんよ。名付けにはね、願いが込められているの」
生まれた赤ん坊に付ける時には、名前に込めた意味のように育ってほしいと願う。そういうものらしい。俺みたいに大きくなってからだと、本人の性格とか状況とかから名付けたり、赤ん坊に付ける時みたいに今後そうなれという気持ちを込めたりするそうだ。
俺のルイという名前には、「名高い」という意味。コネルという苗字の方には、「狼」という意味がある。
王様がくれた、俺の名前。
「……名高い、狼?」
「クライヴの元の名前は、アドルフ・カーティスというのだけれど」
師匠が英雄になるにあたってクライヴ・バルトロウという名前になったのも、英雄という立場を確立させるために名前を変えた側面がある、そうだ。カーティス家から出た英雄ではなく、この国の英雄だということを示す必要があったから。
元の名前のアドルフは「高貴な狼」で、カーティスは「宮廷に相応しい」。
「……狼」
「ええ。お揃い、ね」
足運びも何も意味がわからなくなった。王妃も王女も、俺とまともに踊る気なんてなかったのかもしれない。
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