63 / 116
忠犬、馬鹿犬、貴方のために
10-1
しおりを挟む
「……この馬鹿犬……っとに何考えてんだ……」
「師匠のことしか考えてない」
「テメェのその頭は飾りか駄犬」
式典の後は晩餐会で、踊ったり知らない人と話したりしないといけない。晩餐は普段なら長いテーブルで大勢の人が一緒に食べるらしいけど、今回は立食形式だそうだ。あんまり厳密なマナーが求められないから、らしい。座ってようが立ってようが、結局マナーマナー言われるんだから、俺としてはどっちも面倒なことに変わりはない。
初めに王様の演説があって、その後しばらく食べてていいって言われた。自分で取りに行こうとしたら師匠に止められて、オーウェンさんが食べ物の乗っているテーブルに向かっていった。師匠や俺が行くと、いろんな人に囲まれて大変なことになるそうだ。今も何となく、周りの人に様子を窺われている感じはする。
「もはやプロポーズだったのになぁ、お前が逃げるから」
「黙れラクレイン……」
団長やオーウェンさんは、騎士団の団長という立場だから、こういうパーティーがあると、会場の警備じゃなくて出席する方に回らないといけないらしい。今回は虫除けだそうだ。
確かに城の中に植物はたくさん植えられていたけど、あんまり虫を見た記憶はない。騎士が虫除けっていうのもよくわからない。普通は庭師がするものだと思う。
「ほい、お待たせ。たくさん食えよー」
オーウェンさんがいっぱい取ってきてくれたから、遠慮なく食べる。師匠や団長は酒ばっかり飲んでいて、食べるのは俺とオーウェンさんだけだ。おいしいのに。
「あんまり食い過ぎるなよー? この後踊らないといけないんだろ?」
「でも腹減った」
「まあ気持ちはわかるがな。陛下の御前であれだけかませば」
「黙れラクレイン」
肉も魚も野菜も全部おいしい。ちょっと味付けが濃いのもあるけど、普段食べないものばっかりだ。師匠と団長とオーウェンさんが話しているのを横で聞いて、おいしかった肉のやつがもうちょっと食べられないかとか考える。
ぴらぴらに切られた肉に掛かってたソースがおいしいやつ。場所は何となくわかるけど、めちゃくちゃ人がいる。俺が行くといろんな人に囲まれるらしいから、行かない方が良さそうだ。
「口汚さねぇように食えって言ってるだろうが」
師匠に口元を指で拭われた。ソースが付いてたみたいだ。
「……お前たちは師弟なんだよな?」
拭った指を舐めて手袋を嵌め直す師匠に、団長が半笑いみたいな顔で聞く。オーウェンさんは食べながらあらぬ方向を向いているけど、全身で答えを聞こうとしているのがわかる。
「……英雄と、勇士だろ」
線引かれた。ちゃんと向き合ってほしくて師匠に声を掛けようとしたら、王様が何か喋った。
「お、ダンスだな、行ってこいよー、勇士」
オーウェンさんに送り出されて、上手く話が出来なかった。ダンスが始まったら俺には話し掛ける余裕がないし、部屋も別だから戻っても話が出来るとは限らない。せめてと思って前を歩く師匠の腕を掴んで、必要最低限だけ耳元に囁く。
「後でちゃんと話したい」
師匠の表情が一瞬だけど揺れたのがわかったから、大人しく位置につく。あれならきっと、後で時間をくれるはずだ。
最初はステップ踏みながら決められた陣形で動くやつだ。晩餐会にいる全員ではやらないみたいで、王様と王子、師匠、俺と、王妃と王女、あと二人、はラクレイン団長の妻と娘だそうだ。
今の王様は、側室がいないらしい。正室の王妃が王子を産んだから、世継ぎ問題がなくて他の人を迎える必要がないとか他にも何とか。ミーチャさんがいろいろ理由を教えてくれたけど、他の国のこととか貴族の力関係がどうとか小難しくて、途中から理解するのを諦めた。あれを理解出来る師匠はやっぱりすごい。
他の人が上手いからあんまり困らずに乗り切って、息をついたら誰かに軽く服を引っ張られた。
「っ、し、しょ」
「……後で、煙草吸いにバルコニー行く」
それだけ言って、師匠はふいと視線を逸らした。
何その服引っ張って話し掛けるとか可愛いしかも顔逸らしたの絶対照れ隠しだよな死ぬほど可愛い今すぐヤりたい。
「師匠のことしか考えてない」
「テメェのその頭は飾りか駄犬」
式典の後は晩餐会で、踊ったり知らない人と話したりしないといけない。晩餐は普段なら長いテーブルで大勢の人が一緒に食べるらしいけど、今回は立食形式だそうだ。あんまり厳密なマナーが求められないから、らしい。座ってようが立ってようが、結局マナーマナー言われるんだから、俺としてはどっちも面倒なことに変わりはない。
初めに王様の演説があって、その後しばらく食べてていいって言われた。自分で取りに行こうとしたら師匠に止められて、オーウェンさんが食べ物の乗っているテーブルに向かっていった。師匠や俺が行くと、いろんな人に囲まれて大変なことになるそうだ。今も何となく、周りの人に様子を窺われている感じはする。
「もはやプロポーズだったのになぁ、お前が逃げるから」
「黙れラクレイン……」
団長やオーウェンさんは、騎士団の団長という立場だから、こういうパーティーがあると、会場の警備じゃなくて出席する方に回らないといけないらしい。今回は虫除けだそうだ。
確かに城の中に植物はたくさん植えられていたけど、あんまり虫を見た記憶はない。騎士が虫除けっていうのもよくわからない。普通は庭師がするものだと思う。
「ほい、お待たせ。たくさん食えよー」
オーウェンさんがいっぱい取ってきてくれたから、遠慮なく食べる。師匠や団長は酒ばっかり飲んでいて、食べるのは俺とオーウェンさんだけだ。おいしいのに。
「あんまり食い過ぎるなよー? この後踊らないといけないんだろ?」
「でも腹減った」
「まあ気持ちはわかるがな。陛下の御前であれだけかませば」
「黙れラクレイン」
肉も魚も野菜も全部おいしい。ちょっと味付けが濃いのもあるけど、普段食べないものばっかりだ。師匠と団長とオーウェンさんが話しているのを横で聞いて、おいしかった肉のやつがもうちょっと食べられないかとか考える。
ぴらぴらに切られた肉に掛かってたソースがおいしいやつ。場所は何となくわかるけど、めちゃくちゃ人がいる。俺が行くといろんな人に囲まれるらしいから、行かない方が良さそうだ。
「口汚さねぇように食えって言ってるだろうが」
師匠に口元を指で拭われた。ソースが付いてたみたいだ。
「……お前たちは師弟なんだよな?」
拭った指を舐めて手袋を嵌め直す師匠に、団長が半笑いみたいな顔で聞く。オーウェンさんは食べながらあらぬ方向を向いているけど、全身で答えを聞こうとしているのがわかる。
「……英雄と、勇士だろ」
線引かれた。ちゃんと向き合ってほしくて師匠に声を掛けようとしたら、王様が何か喋った。
「お、ダンスだな、行ってこいよー、勇士」
オーウェンさんに送り出されて、上手く話が出来なかった。ダンスが始まったら俺には話し掛ける余裕がないし、部屋も別だから戻っても話が出来るとは限らない。せめてと思って前を歩く師匠の腕を掴んで、必要最低限だけ耳元に囁く。
「後でちゃんと話したい」
師匠の表情が一瞬だけど揺れたのがわかったから、大人しく位置につく。あれならきっと、後で時間をくれるはずだ。
最初はステップ踏みながら決められた陣形で動くやつだ。晩餐会にいる全員ではやらないみたいで、王様と王子、師匠、俺と、王妃と王女、あと二人、はラクレイン団長の妻と娘だそうだ。
今の王様は、側室がいないらしい。正室の王妃が王子を産んだから、世継ぎ問題がなくて他の人を迎える必要がないとか他にも何とか。ミーチャさんがいろいろ理由を教えてくれたけど、他の国のこととか貴族の力関係がどうとか小難しくて、途中から理解するのを諦めた。あれを理解出来る師匠はやっぱりすごい。
他の人が上手いからあんまり困らずに乗り切って、息をついたら誰かに軽く服を引っ張られた。
「っ、し、しょ」
「……後で、煙草吸いにバルコニー行く」
それだけ言って、師匠はふいと視線を逸らした。
何その服引っ張って話し掛けるとか可愛いしかも顔逸らしたの絶対照れ隠しだよな死ぬほど可愛い今すぐヤりたい。
2
お気に入りに追加
126
あなたにおすすめの小説

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…
まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。
5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。
相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。
一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。
唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。
それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。
そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。
そこへ社会人となっていた澄と再会する。
果たして5年越しの恋は、動き出すのか?
表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

なんか金髪超絶美形の御曹司を抱くことになったんだが
なずとず
BL
タイトル通りの軽いノリの話です
酔った勢いで知らないハーフと将来を約束してしまった勇気君視点のお話になります
攻
井之上 勇気
まだまだ若手のサラリーマン
元ヤンの過去を隠しているが、酒が入ると本性が出てしまうらしい
でも翌朝には完全に記憶がない
受
牧野・ハロルド・エリス
天才・イケメン・天然ボケなカタコトハーフの御曹司
金髪ロング、勇気より背が高い
勇気にベタ惚れの仔犬ちゃん
ユウキにオヨメサンにしてもらいたい
同作者作品の「一夜の関係」の登場人物も絡んできます

両性具有な祝福者と魔王の息子~壊れた二人~
琴葉悠
BL
俺の名前はニュクス。
少しばかり人と違う、男と女のを持っている。
両性具有って昔の言葉があるがそれだ。
そして今は「魔の子」と呼ばれている。
おかげで色んな連中に追われていたんだが、最近追われず、隠れ家のような住居で家族と暮らしていたんだが――……
俺の元に厄介な事が舞い込んできた「魔王の息子の花嫁」になれってな!!
ふざけんじゃねぇよ!! 俺は男でも女でもねぇし、恋愛対象どっちでもねーんだよ!!
え?
じゃなきゃ自分達が殺される?
知るか!! とっとと滅べ!!
そう対処していたのに――やってきたんだ、魔王が。
これは俺達が壊れていく過程の物語――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる