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忠犬、馬鹿犬、貴方のために
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王様に問い掛けられたから、ゆっくり顔を上げる。師匠とよく似た金髪で、師匠と違う青い目の王様が、俺を見下ろしている。王様だけじゃなくて、周りにいる人の視線も俺を向いているし、騎士とか団長とかも俺を見てるけど、俺はあの宝石がこっちを向いていてくれたらそれで構わない。
綺麗な、金色の滲む碧の瞳。
「……ごめんなさい」
肩の剣を掴んで、王様に謝っておく。周りが騒めいて、王様だけちょっと面白がるように目を瞬かせた。たぶん、許してくれた、はず。ミーチャさんも王様は怒らないだろうからって言ってくれたし、大丈夫だとは思ってたけど、ちょっとだけ心配だったから良かった。
剣身を掴んだまま王様の手から外して、柄を師匠に差し出す。見開かれた目が零れ落ちそうなくらい大きくて、飾りなんてなくてもそれだけで綺麗だ。今は、仕立屋が師匠のために作った服も着ているから、最高に格好いい。
「……我が師、英雄クライヴ・バルトロウ」
叙任式の時によく使われる忠誠の言葉というのもあるらしいけど、どうもしっくり来なかったし俺には覚えられなかった。だから、ミーチャさんに相談しながら自分で考えた。誰に誓うというのは、さすがに話さなかったけど、何となくバレていたような気もする。
「私の剣は、貴方のためにある。私の忠誠は、貴方に誓う」
騎士の場合は、謙虚でいるとか誠実でいるとか、盛り込む単語がたくさんあるらしい。でも俺がもらったのは騎士の位じゃない。だから、俺が師匠に言いたいことを言うだけだ。
俺がずっと師匠と一緒にいたくて、俺が動くのは師匠のためだけで、俺が欲しいのはクライヴ・バルトロウだけだって知ってほしい。
「……私の血の一滴まで、貴方のために使うことを許してほしい」
後は、師匠が応えてくれるまで、じっと待つ。
響け。届け。
静まり返った広間の中に、最初は小さく、徐々に大きくなって笑い声が響いた。王様だ。
「っふふ……英雄、何を悩むことがある? 貴殿には受け入れる以外の選択肢はないように思うが」
国王を断った男を、さらに拒否するなんて出来ないだろう、と王様が追い討ちを掛けてくれた。師匠は王様の方を向いて話を聞いてはいるけど、呆然とした顔のままだ。
「それに、手袋をしているとはいえ、そろそろ弟子の指が落ちてもおかしくないのではないか?」
はっとした様子で師匠が柄を掴む。手袋は少し切れたけど、指まではまだいってない。急いで膝をついて俺の手から血が出ていないことを確認して、師匠が息を吐いた。俺を心配してくれたなら、嬉しい。
立ち上がった師匠がそっと剣を俺の肩の上に置き直す。眉尻を少し下げて、それから視線を彷徨わせて、なかなか答えてくれない。
嫌、なのか。
俺からこれ以上何か言えることもないから、待つしかない。こういう場だったら師匠は曖昧な返事をしないはずだし、俺をこの国に繋ぎ止める必要があることを、俺以上に師匠が理解しているはずだ。だから師匠は断らない、むしろ断れないと思ったけど。
まだ手が足りなかったかと、師匠を見つめたまま考える。王様は協力してくれるみたいだし、他に埋めなきゃいけない外堀って何だ。
「……ルイ・コネル」
俺の思考を一言で引き戻して、師匠の目が真っすぐこちらを向いている。綺麗で、格好いい。ふいに拾われた時を思い出して、ぐちゃぐちゃ考えていた頭の中がすっきりした。
師匠はこういう時、搦め手でいくより正攻法でいった方が弱い。これじゃ、たぶん。
「……貴殿の忠誠を、預かろう」
ああ、やっぱり。
預かるって立場に逃げられた。
綺麗な、金色の滲む碧の瞳。
「……ごめんなさい」
肩の剣を掴んで、王様に謝っておく。周りが騒めいて、王様だけちょっと面白がるように目を瞬かせた。たぶん、許してくれた、はず。ミーチャさんも王様は怒らないだろうからって言ってくれたし、大丈夫だとは思ってたけど、ちょっとだけ心配だったから良かった。
剣身を掴んだまま王様の手から外して、柄を師匠に差し出す。見開かれた目が零れ落ちそうなくらい大きくて、飾りなんてなくてもそれだけで綺麗だ。今は、仕立屋が師匠のために作った服も着ているから、最高に格好いい。
「……我が師、英雄クライヴ・バルトロウ」
叙任式の時によく使われる忠誠の言葉というのもあるらしいけど、どうもしっくり来なかったし俺には覚えられなかった。だから、ミーチャさんに相談しながら自分で考えた。誰に誓うというのは、さすがに話さなかったけど、何となくバレていたような気もする。
「私の剣は、貴方のためにある。私の忠誠は、貴方に誓う」
騎士の場合は、謙虚でいるとか誠実でいるとか、盛り込む単語がたくさんあるらしい。でも俺がもらったのは騎士の位じゃない。だから、俺が師匠に言いたいことを言うだけだ。
俺がずっと師匠と一緒にいたくて、俺が動くのは師匠のためだけで、俺が欲しいのはクライヴ・バルトロウだけだって知ってほしい。
「……私の血の一滴まで、貴方のために使うことを許してほしい」
後は、師匠が応えてくれるまで、じっと待つ。
響け。届け。
静まり返った広間の中に、最初は小さく、徐々に大きくなって笑い声が響いた。王様だ。
「っふふ……英雄、何を悩むことがある? 貴殿には受け入れる以外の選択肢はないように思うが」
国王を断った男を、さらに拒否するなんて出来ないだろう、と王様が追い討ちを掛けてくれた。師匠は王様の方を向いて話を聞いてはいるけど、呆然とした顔のままだ。
「それに、手袋をしているとはいえ、そろそろ弟子の指が落ちてもおかしくないのではないか?」
はっとした様子で師匠が柄を掴む。手袋は少し切れたけど、指まではまだいってない。急いで膝をついて俺の手から血が出ていないことを確認して、師匠が息を吐いた。俺を心配してくれたなら、嬉しい。
立ち上がった師匠がそっと剣を俺の肩の上に置き直す。眉尻を少し下げて、それから視線を彷徨わせて、なかなか答えてくれない。
嫌、なのか。
俺からこれ以上何か言えることもないから、待つしかない。こういう場だったら師匠は曖昧な返事をしないはずだし、俺をこの国に繋ぎ止める必要があることを、俺以上に師匠が理解しているはずだ。だから師匠は断らない、むしろ断れないと思ったけど。
まだ手が足りなかったかと、師匠を見つめたまま考える。王様は協力してくれるみたいだし、他に埋めなきゃいけない外堀って何だ。
「……ルイ・コネル」
俺の思考を一言で引き戻して、師匠の目が真っすぐこちらを向いている。綺麗で、格好いい。ふいに拾われた時を思い出して、ぐちゃぐちゃ考えていた頭の中がすっきりした。
師匠はこういう時、搦め手でいくより正攻法でいった方が弱い。これじゃ、たぶん。
「……貴殿の忠誠を、預かろう」
ああ、やっぱり。
預かるって立場に逃げられた。
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