58 / 116
忠犬、馬鹿犬、貴方のために
7-2
しおりを挟む
質問が斜め上だった。
「……どう、とは……」
師匠のことは強くて格好いいとか綺麗で優しいとか、そう思ってるけど、見てわかることだから聞いても仕方ないと思う。王女が聞きたいのがどういうことかわからなくて聞き返す。
「親と同じくらい大切に思っているとか、そういうの、あるでしょう?」
親と同じくらい、と言われても、親を知らないからわからない。けど師匠に対する感情は、親に向けるものじゃないだろうな、とは思う。さすがに父親とか母親を抱きたいとは思わないだろう。
「……師匠を親と思ったことは、ないです」
「あれ、でも叔父上がお弟子様を育てられたんですよね?」
「はい」
自分でも歳はよく知らないから、はっきりとは言えないけど。少年、と呼ばれるくらいの年頃で師匠に拾われて、それからずっと一緒にいるから、育ててもらったのは間違いない。でも、師匠は師匠で、クライヴ・バルトロウという人だから、大切には思っているけど親と考えたことはない。
「それなら、剣のお師匠様、というだけ?」
「……師匠は、師匠だけど……そもそも、クライヴ・バルトロウだし……」
「英雄、と仰りたいの?」
「英雄だけど……あの人は、クライヴ・バルトロウ、です」
どう言えば伝わるだろう。
いい言葉が思い浮かばなくて首を傾げたら、王女と王子も一緒になって首を傾げる。
「……姉上、お弟子様は、一人の人間として叔父上を慕っていらっしゃると仰りたいのでは!」
王子が何か、都合のいいことを言っている気がする。たぶんだいたい言いたいことと同じだろうと否定しないでおいたら、王女と王子で盛り上がり始めた。俺が面倒なことにならなければ好きにしてもらって構わないから、放っておく。スコーンだけじゃなくてサンドイッチもおいしい。城に来て良かったことの一つは、どれを食べても何を飲んでも、おいしいことだ。
王女たちのことは特に気にせず食べて飲んでしてたら、いきなりそれぞれに手を取られた。
「え」
「お弟子様! あなたの叔父様への愛、認めますわ!」
「……はい?」
「お弟子様なら、僕たちも安心して叔父上を託せそうです!」
「……えっと?」
何だこの二人。まるで聞いてなかったけど、何をどう盛り上がってそうなった。
まさかちゃんと聞いてませんでしたと言うわけにもいかなくて、にこにこ俺の手を握っている二人にとりあえずお礼を言っておく。否定的じゃなかったから、たぶん困らない、と思う。
「それでお弟子様、叔父様にちゃんと愛は告げられまして?」
「……何だって?」
話の展開についていけない。愛を告げるって何だ。いや、師匠は手に入れたいと思ってるけど。
「女性でも男性でも、好きだよ、とか、愛してる、とかはきちんと伝えないとだめですよ」
「は、はい」
王子にも真剣な顔で諭されて、二人の勢いに気圧されて頷いた。
王家の教育で、伴侶と円満な関係を築くためには、ということをみっちり教えられるんだそうだ。
王女は他の国の王族に嫁がないといけないから、相手の心を掴むのが最善、最悪でもこの国が不利にならないよう動くことを教え込まれるらしい。何それ怖い。
王子は王子で、場合によっては正室だけでなく何人もの側室を迎えることになるから、きちんと正室を引き立てつつ、誰かが突出しすぎないように均衡を保って愛情を注ぐ必要があるそうだ。何それ怖い。
そういう政治的つり合いとか大勢とのやり取りとか、俺には出来ない。師匠一人を追いかけるのが精いっぱいだ。
「いいこと、二人きりで、ムードを作って、叔父様にきちんと本気だと受け取ってもらえる状況で、愛を囁くのよ」
「はい」
「叔父上はご自分に向けられる好意にあまり関心のない方なので、真っすぐに、愛してるとか好きだとか言ってあげてください」
「はい」
突然現れた恋愛指導の先生二人に、お茶会の時間いっぱい懇々と愛情表現について説かれた。別の意味でお腹いっぱいになった。
「……どう、とは……」
師匠のことは強くて格好いいとか綺麗で優しいとか、そう思ってるけど、見てわかることだから聞いても仕方ないと思う。王女が聞きたいのがどういうことかわからなくて聞き返す。
「親と同じくらい大切に思っているとか、そういうの、あるでしょう?」
親と同じくらい、と言われても、親を知らないからわからない。けど師匠に対する感情は、親に向けるものじゃないだろうな、とは思う。さすがに父親とか母親を抱きたいとは思わないだろう。
「……師匠を親と思ったことは、ないです」
「あれ、でも叔父上がお弟子様を育てられたんですよね?」
「はい」
自分でも歳はよく知らないから、はっきりとは言えないけど。少年、と呼ばれるくらいの年頃で師匠に拾われて、それからずっと一緒にいるから、育ててもらったのは間違いない。でも、師匠は師匠で、クライヴ・バルトロウという人だから、大切には思っているけど親と考えたことはない。
「それなら、剣のお師匠様、というだけ?」
「……師匠は、師匠だけど……そもそも、クライヴ・バルトロウだし……」
「英雄、と仰りたいの?」
「英雄だけど……あの人は、クライヴ・バルトロウ、です」
どう言えば伝わるだろう。
いい言葉が思い浮かばなくて首を傾げたら、王女と王子も一緒になって首を傾げる。
「……姉上、お弟子様は、一人の人間として叔父上を慕っていらっしゃると仰りたいのでは!」
王子が何か、都合のいいことを言っている気がする。たぶんだいたい言いたいことと同じだろうと否定しないでおいたら、王女と王子で盛り上がり始めた。俺が面倒なことにならなければ好きにしてもらって構わないから、放っておく。スコーンだけじゃなくてサンドイッチもおいしい。城に来て良かったことの一つは、どれを食べても何を飲んでも、おいしいことだ。
王女たちのことは特に気にせず食べて飲んでしてたら、いきなりそれぞれに手を取られた。
「え」
「お弟子様! あなたの叔父様への愛、認めますわ!」
「……はい?」
「お弟子様なら、僕たちも安心して叔父上を託せそうです!」
「……えっと?」
何だこの二人。まるで聞いてなかったけど、何をどう盛り上がってそうなった。
まさかちゃんと聞いてませんでしたと言うわけにもいかなくて、にこにこ俺の手を握っている二人にとりあえずお礼を言っておく。否定的じゃなかったから、たぶん困らない、と思う。
「それでお弟子様、叔父様にちゃんと愛は告げられまして?」
「……何だって?」
話の展開についていけない。愛を告げるって何だ。いや、師匠は手に入れたいと思ってるけど。
「女性でも男性でも、好きだよ、とか、愛してる、とかはきちんと伝えないとだめですよ」
「は、はい」
王子にも真剣な顔で諭されて、二人の勢いに気圧されて頷いた。
王家の教育で、伴侶と円満な関係を築くためには、ということをみっちり教えられるんだそうだ。
王女は他の国の王族に嫁がないといけないから、相手の心を掴むのが最善、最悪でもこの国が不利にならないよう動くことを教え込まれるらしい。何それ怖い。
王子は王子で、場合によっては正室だけでなく何人もの側室を迎えることになるから、きちんと正室を引き立てつつ、誰かが突出しすぎないように均衡を保って愛情を注ぐ必要があるそうだ。何それ怖い。
そういう政治的つり合いとか大勢とのやり取りとか、俺には出来ない。師匠一人を追いかけるのが精いっぱいだ。
「いいこと、二人きりで、ムードを作って、叔父様にきちんと本気だと受け取ってもらえる状況で、愛を囁くのよ」
「はい」
「叔父上はご自分に向けられる好意にあまり関心のない方なので、真っすぐに、愛してるとか好きだとか言ってあげてください」
「はい」
突然現れた恋愛指導の先生二人に、お茶会の時間いっぱい懇々と愛情表現について説かれた。別の意味でお腹いっぱいになった。
4
お気に入りに追加
126
あなたにおすすめの小説

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
没落貴族の愛され方
シオ
BL
魔法が衰退し、科学技術が躍進を続ける現代に似た世界観です。没落貴族のセナが、勝ち組貴族のラーフに溺愛されつつも、それに気付かない物語です。
※攻めの女性との絡みが一話のみあります。苦手な方はご注意ください。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。
後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…
まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。
5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。
相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。
一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。
唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。
それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。
そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。
そこへ社会人となっていた澄と再会する。
果たして5年越しの恋は、動き出すのか?
表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる