馬鹿犬は高嶺の花を諦めない

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忠犬、馬鹿犬、貴方のために

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 目の前に座っているのは、この国の王女だそうだ。色が薄いから光が当たると金色にも見える茶色い髪、師匠とよく似た碧の瞳。たぶん顔の作りとしては美人なんだと思う。俺は師匠以外の美醜はよくわからないけど、褒めておけばだいたい間違いないって師匠が言ってた。

「そんなに緊張しなくてもいいのよ。公式のお茶会でもないから。どうぞ、お好きに召し上がって」
「……ありがとう、ございます?」

 俺は王女からお茶会というものに招かれたらしい。広い城の中をうねうねと進んだ先の庭で、日差しを避けられる四阿の下に、王女と王子と俺が座っている。
 そう、王子もいる。師匠とよく似た金髪で、王様と同じ青い目だ。

 何でだ。

「このスコーンは何もつけなくてもおいしいんですよ!」

 王子の人懐っこさは王様とちょっと似ている気がする。金属の枠に三段乗せられた皿の上からスコーンを取って、俺の取り皿に置いてくれた。それから小さめの皿二つを寄せてくれる。

「こっちがクロテッドクリーム、こっちがバターです。どっちを先につけるか、多めにするかで争いが起きる時もありますけど、僕はクロテッドクリーム派です」
「あら、私はバター派だわ」

 すでに争いが起きてる。えっと、仲裁した方がいいのか。いや、下手に首突っ込むと怪我することもある。
 余波を受けないようにスコーンを取って、一口サイズに小さくしてから食べる。こういうのは齧り付かないのがマナーだって師匠に習った。ぼろぼろに崩れるから結局汚くなる気がするけど、知ってはいるって伝わればいいだろう。完璧に綺麗に見せるなんて俺には出来ないし、するつもりもない。

「ね、おいしいでしょう?」

 王子がにこにこ笑って聞くから、頷いておく。実際おいしい。
 王女に横から口元を拭かれた。王子はティーカップを近付けてくれる。
 何だこれ。

「……ついお世話しちゃうね」
「これが庇護欲をそそるっていうことなのかしら……」

 王子も王女も俺より年下の気がするし、俺の方が背が高い。それが何で庇護欲をそそるとかいう話になるのか、よくわからない。ちゃんとマナー守って食べてるし、行儀悪くもしてないはずだ。ちょっと口元にスコーンがついてたみたいだけど。
 口の中の水分を持っていかれたから、王子が近付けてくれたお茶を飲む。あれがどうだ、これがどうだ、みたいな品評は出来なくても、おいしいかおいしくないかくらいは俺にもわかる。スコーンもお茶もおいしい。

「だから叔父様も大事になさってるのかもしれないわね……」
「……おじさま?」

 おじさまと呼ばれそうな年齢の人には何人か心当たりはあるけど、王子とか王女とかと関係のありそうな人は思い付かなくて首を傾げる。王様のことならおとうさま、だろうし、ミーチャさんのことはおじさまとは呼ばなさそうな気がする。

「英雄クライヴ・バルトロウ様は、僕たちの母上の弟君に当たるんです、お弟子様」
「……え」

 それはこの前言ってなかった気がする。いや、そういえば、カーティス家の娘が王家に嫁ぐこともよくあるって言ってて、姉はもう嫁いで家を出てる、とは言ってた。けど話の中で出てきたとしても、あの場でぱっと思い付くのは無理だろう。だったらそうと言ってほしい。言う気がなかったのかもしれないけど。
 王家と姻戚関係って、師匠ならきちんと理解して枷にしてそうな気がする。だからか。

「あら、叔父様からお話しになっていると思っていたのだけれど」
「……あんまり、自分のこと話してくれない、ので」

 こっちからつついても話してくれなくて、最近少しずつ漏らしてくれることが増えただけだ。日々の生活のことは知っていても、師匠の個人的な事情で俺が知っているのは、魔力が溜まり過ぎる体質と、死んだ父親が苦手で、その意識が兄にも向いてしまう、それくらい。
 王女と王子が顔を見合わせて、それからずいっとテーブルに身を乗り出してきた。

「お弟子様、お伺いしたいことがあるのですけれど、よろしいかしら」

 それが目的で呼んだんじゃないのかと思いつつ、頷く。

「叔父様のこと、どう思ってらっしゃるの?」
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