馬鹿犬は高嶺の花を諦めない

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仔犬、負け犬、いつまで経っても

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 ベッドの上で頭を下げた俺に、向かい合って座っている師匠はしばらく動かなかった。さすがに無理かと思っておそるおそる顔を上げたら、師匠が口元を手で覆っていた。そんなことをしているのをあまり見たことがなくて、どうしたんだろうと逆に不思議な気持ちになる。
 そんなに変なことを言ったつもりはなかったけど、ダメだろうか。

「……本気で言ってんのか」
「ご褒美にお願いするくらいには」
「……そうだな……」

 口元にあった手でそのまま目を覆って、師匠がため息をつく。
 許してもらえる、かな。どうだろう。石の床は嫌だって言われたから、ウィルマさんにもらったお金でめちゃくちゃいい宿を取ったし、ベッドもふかふかで最高だと思うんだけどな。

 あの後、師匠が翻訳作業を終わらせるまで待って、さらに報告書として、遺跡の見取り図、建築様式のこと、壁に書かれていた内容とかをまとめてウィルマさんのところへ持っていった。転移の魔道具は一人でしか移動出来なかったから、師匠と二人でひたすら歩いた。何回か野営もした。行きも思ったけど、ウィルマさんの家ですら嫌になるくらい遠かった。あの遺跡にはもう行きたくない。
 報告書を見たウィルマさんは喜んでくれて、今後も俺に魔術を教えると約束してくれた。師匠によると俺が気に入ってもらえたということらしいけど、それがいいことかどうかちょっと悩ましい。しれっと俺で実験しているような人だし。ただ、魔術を教えてもらえるのは助かるから、お礼だけは言っておいた。

 それからクウィック文字を翻訳したのを師匠が渡して、しばらく密談してた。内緒話がいい感じにまとまったのか、予定にはなかったのにたっぷりお金も払ってくれたから、師匠がウィルマさんに何か言ったんだと思う。脅したわけじゃないと思うから、もらえるものはもらっておけばいい。

 そのお金で今いる町で一番いい宿の、一番いい部屋を押さえてふかふかのベッドの上で、俺は師匠にご褒美をお願いした。

「対面座位でヤらせてください」
「言い直してんじゃねぇ……」

 師匠がもう一度深々とため息をついて、緩く首を振って服に手を掛けた。
 一度決めたら潔いところ、やっぱり師匠格好いい。勢いで抱き付いたら、脱げねぇだろと舌打ちされた。

「脱がしたい」
「……どんだけねだるつもりだよ」

 言いつつ師匠の手が服から離れる。
 どうしよう、本当にご褒美だ。めちゃくちゃ甘やかしてもらってる。嬉しい。俺がしたいことを、師匠がさせてくれる。俺の欲しいものを、師匠がくれる。

「今なら死んでもいい……」
「まだ何もしてねぇだろ」

 何言ってんだって師匠が笑うから、それも嬉しくて師匠の肩に額を擦り付けた。あああああ撫でてもらった。すごい。ご褒美すごい。
 幸せすぎて耐え切れなくて、喉の奥で唸りながら、師匠の服を少しずつ寛げていく。ヒューさんみたいなごりごりの筋肉というわけじゃないけど、師匠はきちんと体を鍛えているから、鋼を縒り合わせた繊維でしっとりと肉付けしたような肉体だ。触ると弾力が合って、でも柔らかすぎなくて、手に吸い付くような肌理細やかな肌に、ところどころ傷跡が残っている。もう薄らと消えそうな痕も、盛り上がって肌を這う痕も、師匠が誰かを守って生きてきた証だ。全部が格好いい。しばらく遺跡に籠って調査をしていたから、少しだけ肌の色が白くなった気がする。

 師匠は俺の好きにさせてくれて、いちいち肌を撫でる俺を急かしたりしないし、脱がせる俺に協力して体を動かしてくれたりした。下穿きも脱いで何も着ていない師匠に対して、俺はまだ何も脱いでいない。脱いでないけど、どことは言わないけど、もう痛い。いや自分でもどうかと思う。童貞でもこんなことならない。

「抜いてなかったのかよ」

 師匠にも笑われた。

「ウィルマさん怖くて……」
「……ああ……」
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