馬鹿犬は高嶺の花を諦めない

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仔犬、負け犬、いつまで経っても

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 ウィルマさんから初めに習ったのは、自分の魔力を操れるようになることだった。
 そもそも俺には魔力があっても、意識したことすらなかった。けど、魔術を使うには自分の魔力を操作しないといけない。ウィルマさんに体内の魔力を強制的に弄られて吐いたり、自分で魔力を操作しようとして眩暈を起こしたりしながら、徐々に慣れていった。

「うんうん、だいぶ耐えられるようになったなぁ、仔犬」

 今は、ウォツバルで仕掛けられた時のように、相手の魔術に抵抗する訓練を重ねている。

 師匠が俺に魔術を習わせようと思ったのも、ウォツバルの件が原因らしい。当初は、魔術を使えるような人は滅多にいないから、あえて俺に魔術を教えるほどでもないと思っていたそうだ。けど、異国の人間が俺に魔術を掛けてまで手に入れようとしたから、せめて自分の身を守るくらいは出来るようになっておかないといけないと思い直したみたいだ。

 そのためではあるんだけど、師匠とはまるで方向性の違う厳しさで、ウィルマさんにびしびし鍛えられている。洗脳魔術に抵抗しながら、自分の体を魔術で強化して焚き火の上に落ちないよう必死で木の枝を掴むとか、よくわからないけどたぶん効果があるんだろう。ちなみに焚き火の中には刃を上にした状態の剣が刺さっている。失敗したら、良くて大怪我、下手したら死ぬ気がする。本当に大丈夫かこの人に任せてて。
 不安にはなるけど師匠には習えないから、ウィルマさんから教えてもらうしかない。だからひたすら耐える。

「よし、降りてこい」

 降りてこいと言われても、焚き火は消してもらえないし、魔術も相変わらず仕掛けられ続けている。やり方が荒っぽいと思いつつ、枝に上がって焚き火を避けて飛び降りた。魔力で手を防御して、焚き火の中から剣を取り出す。ヒューさんに借りたやつなんだけど、こんなに炙って大丈夫かな。

「ある程度の攻撃パターンは体感させたし、あとは経験を積むのみだろう」
「わかりました」

 魔術というのは、ある程度決まった型がある。だから型を知っておけば大体のものには対応出来る。ただ、型に嵌らない方法でも発動は出来てしまうらしいから、そっちは自分で応用しながら対応していくしかない。それが、あとは経験を積んでいけということなんだろう。
 でも型通りにやれば想定している結果が出やすいから、多くの人がそれに倣って魔術を使うものらしい。あるいは、独自の方法で作ったつもりが、無駄を省くと従来の型と同じだった、なんてこともあるみたいだ。
 まあ、いきなり新しいものを作るのが難しいのはわかる。その辺はきっと何でも同じだ。

 次はどうしようかとウィルマさんが腕を組んだから、気になっていたことを聞いてみる。

「あの、魔力譲渡って難しいんですか」
「うん? ああ、クライヴに渡されたんだったか」

 一晩寝たり、何もしなければ回復するにしても、使えば体内の魔力は消費する。それをもっと短時間で回復させて、魔物と戦うのに役立てられないか、というのは誰もが考えることらしい。魔力を回復しやすい薬草だの、泉だのが発見されているし、傷薬と同じように、魔力回復薬というものが発明されている。けど、薬草でも水でも薬でも、使えばなくなってしまう。だったら、同じ魔力持ちの間で緊急に融通し合うことは出来ないか、というのも、やっぱり誰かが考えたそうだ。

 その後つらつらとウィルマさんが理論を話してくれたけど、正直途中で寝そうだった。難しいことヨクワカラナイ。ひとまず理解出来たのは、理論上は可能なはず、けど他人の魔力を流し込まれると、普通は拒否反応で激しい体調不良を起こして、魔力が回復したとしても体調がだめで使い物にならなくなる、ということらしい。

「……全然具合悪くならなかったけど……」
「らしいな。仔犬がそういう体質なのかと思ったが、私がちょっと入れただけで吐いていたから、誰のでも受け取れるわけじゃないんだろう」

 魔力を操る感覚を身に付けさせるとか言いながら、知らない間に試されていたらしい。俺の魔力を弄られたからじゃなくて、魔力を流し込まれたせいで吐いたみたいだ。勝手に人体実験しないでほしい。この人いつか殴っても罰当たらない気がする。
 とにかく、師匠に魔力をもらった時は、日向ぼっこしてる時みたいにぽかぽかして気持ち良かったけど、そっちの方が特別らしい。ちょっと嬉しい。
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