馬鹿犬は高嶺の花を諦めない

phyr

文字の大きさ
上 下
32 / 116
飼い犬、捨て犬、愛玩されたいわけじゃない

4-2

しおりを挟む
「……俺も、魔力持ちで」

 俺に聞かせるというよりどこか独り言のように、師匠が声を漏らす。もっとよく聞きたくて手を軽く引っ張ったら、少し考えるように首を傾げて、それからベッドに座ってくれた。めちゃくちゃ嬉しくて今すぐハグしたいけど、あんまりやると逃げられるから我慢する。けど手は離さない。

「体質、つーのか……体ん中で出来た魔力を、外に出せねぇらしくて、ひたすら溜まってくんだと」

 普通の魔力持ちの人間は、体の中に溜められる魔力量はある程度決まっていて、余剰分は勝手に排出されて自然と調整出来ているそうだ。寝れば回復するし、魔術を使えなくても日々のちょっとしたことで消費されるし、余っても勝手に体の外に出て行くから、普通は自分の魔力のことなんて考えなくていい。

 でも師匠の場合は、元々魔力量が多い上に体質のせいで上手く調整出来ないから、限界に近付くと勝手に意識が落ちてしまうそうだ。魔物と戦えば多少は消費出来るけど、魔力が作られる速度の方が遥かに速くて追い付かない。余った魔力をわざわざ生命維持のためだけにひたすら浪費する状態になる、と考えられているけど、とにかく、体が魔力量の調整に専念するから昏々と眠り続けることになる。そして眠っている間は昏睡状態で何が傍にいてもわからないから、安全なところに身を置く必要が出てくる。
 その時に師匠を守っているのも、モンドールの人たちだそうだ。

 なら、師匠が、俺の前で寝てくれるようになったのって。
 ちゃんと、俺、強くなれてる?

 考えがまとまる前に師匠の手が俺の手を離れて、目元を撫でられる。

「魔力持ちは、目が金色に近くなるらしいんだが……鋼色は、初めて見た。元は、黒みてぇだけど」

 今の俺は、魔術に全力で抵抗したせいで、ほとんど魔力が空っぽらしい。体内の魔力が減ると、元々持っていた目の色が現れるんだそうだ。師匠の瞳は、元々は碧なんだろう。普段金色が滲んでいるのは、魔力のせい。今は全部金色だ。
 師匠が怠そうにまたため息を吐いたから、そっと背中を擦った。俺のために無理して起きてくれてるって、自惚れてもいいかな。でも、師匠が苦しそうなのも嫌だ。

「魔力が空になると、しんどい、つーから……寝てるうちにと思ってたのに起きやがるし、こっちが限界来そうで、クソ」

 確かに怠いけど、師匠ほど具合は悪くない、と思う。魔力が過剰に溜まるというのは、辛いことみたいだ。今まで師匠みたいになったことがないから、たぶん、俺はそういう体質じゃないんだろう。
 どうしたら師匠が楽になるのかわからなくて、でも何かしたくて背中を撫で続ける。

「……師匠、寝てるうちにって、何?」

 胡乱げに視線を向けられた。余計なことしやがって、とかそういう時の顔だ。師匠がするなら最終的には何でもいいとしても、寝ている間に何かされるなら、知っておきたいと思うのは普通じゃないだろうか。おかしなことを言ったつもりはないから、答えが返ってくるまでじっと待つ。
 今度はごまかすためじゃないため息を漏らして、師匠ががしがしと髪をかき回した。

「目閉じて口開けて大人しくしてろ。ぜってぇ動くな。いいな」

 何か不味いものでも食べさせられるのかもしれない。だったら寝てる間じゃない方が良さそうだけど。うっかり喉に詰まったら大変だし。
 とにかく師匠に言われたから、大人しく目を閉じて口を開ける。結構な間抜け面になってる気がする。布の擦れる音と、師匠の気配が近付いて、いいにおいがして、柔らか、い?

 ふにふにしてて、ちょっと熱いものが口に当たってる。それから湿ってて、弾力があって厚みのあるものが中に入ってきて、俺の舌に触れた。少しだけざらざらしてて、触ってるところが何だか、気持ちいい。太陽を浴びて体があったまってくるような、ぽかぽかした感じだ。もっと欲しい。
 触れるところを増やしたくて舌を動かしたら、ぴゃっと逃げていってしまった。何でと思って目を開けたら、師匠の顔が近くて、うわ、どうしよ。

「動くなって……!」

 さっきのぽかぽかには逃げられたから、師匠は逃がしたくなくて、体に腕を回す。普段なら突き飛ばされそうだけど、思いのほか抵抗が緩くて、不機嫌というより不安そうに師匠の目が揺れてる。怒るか、何か別のことを言うか悩んでる、そんな感じ。

「……具合悪くなったり、してねぇか」

 別のことを言う方が勝ったらしい。首を横に振って、師匠の背中を撫でる。

「ぽかぽかして気持ち良かったから、もっと欲しい」
「…………馬鹿犬……」

 ため息を吐いて、今度は何も言い付けずにしてくれた。
 師匠の余分な魔力を俺に渡すっていう名目はあったけど、師匠とするキスは、俺の心もぽかぽかにしてくれた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

大学生はバックヤードで

リリーブルー
BL
大学生がクラブのバックヤードにつれこまれ初体験にあえぐ。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

両性具有な祝福者と魔王の息子~壊れた二人~

琴葉悠
BL
俺の名前はニュクス。 少しばかり人と違う、男と女のを持っている。 両性具有って昔の言葉があるがそれだ。 そして今は「魔の子」と呼ばれている。 おかげで色んな連中に追われていたんだが、最近追われず、隠れ家のような住居で家族と暮らしていたんだが――…… 俺の元に厄介な事が舞い込んできた「魔王の息子の花嫁」になれってな!! ふざけんじゃねぇよ!! 俺は男でも女でもねぇし、恋愛対象どっちでもねーんだよ!! え? じゃなきゃ自分達が殺される? 知るか!! とっとと滅べ!! そう対処していたのに――やってきたんだ、魔王が。 これは俺達が壊れていく過程の物語――

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

オメガ修道院〜破戒の繁殖城〜

トマトふぁ之助
BL
 某国の最北端に位置する陸の孤島、エゼキエラ修道院。  そこは迫害を受けやすいオメガ性を持つ修道士を保護するための施設であった。修道士たちは互いに助け合いながら厳しい冬越えを行っていたが、ある夜の訪問者によってその平穏な生活は終焉を迎える。  聖なる家で嬲られる哀れな修道士たち。アルファ性の兵士のみで構成された王家の私設部隊が逃げ場のない極寒の城を蹂躙し尽くしていく。その裏に棲まうものの正体とは。

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

処理中です...