馬鹿犬は高嶺の花を諦めない

phyr

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馬鹿犬、駄犬、どっちも褒められてない

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 師匠と体の関係を始めた頃と比べれば、自分は随分と上手くなったはずだ、と思う。初めての時からずっと、師匠はほとんど声を出してはくれないけど、漏れる甘い吐息や、切なそうに寄せられた眉を見ていれば、気持ちいいと感じてくれているのはわかる。どこを触れば、舐めれば、噛めば、擦れば。師匠の気持ちいいところはちゃんと学習して、娼館に行くよりよほど満足してもらえるように奉仕してきた。
 喘ぐ声が聞きたいとは思う。けれど、そのせいで傍に置いてもらえなくなったら嫌だし、師匠のプライドを折りたいわけでもない。俺にとっての至上の人だから、都合のいい犬になって、過ごしやすい環境を整えて、気が向けば抱かせてくれるだけで今はいい。ただ、その位置を誰にも譲る気はない。煙草の煙と酒の香りをまとわせた人の、一番傍は俺のものだ。

 充分に和らいだ孔から指を引き抜いて、師匠を馴らしていただけなのに苦しいくらい張り詰めたモノを宛がう。待て、の声はないから、許されているはずだ。腰を押し進めて、柔らかくてとろとろの壁に包まれた充足感に熱い息が零れる。

「ししょ、のナカ……ほんと、きもちいい……」

 緩く腰を揺らしながら漏らすと、シーツを握りしめていた手がこちらに伸ばされた。一瞬殴られるかと思ったけど、手入れをしているわけでもない綺麗な指で、体をなぞられただけだった。

「師匠?」
「……テメェは挿れて満足な童貞か?」
「……違う」

 気分はいつでもそれに近いけれど。本当は自分本位に貪りたい。毎回始める時にはほぼ臨戦態勢だから、即座に突っ込んでがつがつやりたい。実際、童貞かよと笑われそうだけど、何回やっても師匠への飢えは治まらなかった。
 けどそんなことをすれば例え挿入していようが容赦なく蹴り飛ばされるだろうし、何ならそのまま置いて行かれるかもしれない。ガチガチに勃たせた状態で放り出されるなんて、情けなさすぎて笑い話にもならない。

 自分を収めてくれている下腹を撫でてから、腰を掴んで自身を打ち付ける。師匠のいいところを擦って、奥へ奥へとうねる肉壁を掻き分ける。いつだったか、師匠が女の具合に関して説明してくれたことがあるけど、自分自身が一番の名器だとわかっているだろうか。誰にも知られたくもないことでもある。
 形のいい眉を顰めて、抑え切れずに呻くような声を漏らす姿は、本当に扇情的だ。

「師匠、師匠……!」

 好きなんて言葉じゃ言い表せない。愛してるなんて言葉じゃ物足りない。
 乗せきれない思いを一つの単語に込めて、昇り詰めてもらえるように腰を振る。

「く、ぅ……ッ」

 抱きしめてもくれないけれど、最近足が絡まってくるようになった。ああ、気持ちいいんだなと満足しながら、師匠が達した反動で引き絞るように動く胎内に放埓する。きちんと全部出し切るように腰を揺すって、全力疾走した後のように息を乱している人から遠慮なく引き抜く。ぱくりと開いている後孔が見えて、思わず喉を鳴らした。

 一回じゃ足りないな。

「師匠、ご褒美だからもっとくれるよね」

 答えを聞く前に足を抱えて、抵抗の薄い胎にもう一度埋め込む。何回やっても、いや、やればやるほど、熱く絡みついてくる体にこっちが溺れそうだ。

「気持ち良くなろうよ、師匠」

 これはご褒美だけど、俺だけが気持ち良くなるんじゃなくて、師匠が悦いようにちゃんと俺が奉仕するから。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 さすがに吸う気にはなれないのか、煙草をくわえるだけくわえて師匠がベッドに転がっている。水に果物を絞って砂糖を溶かしたものを持っていくと、起き上がって煙草を吐き捨ててごくごく飲んだ。もちろん体は拭き清めさせてもらったけど、服を着るのが面倒くさいのか、情事の痕を色濃く残した裸でいられるのは居た堪れない。

「馬鹿犬」

 どことなく掠れた声がさらに色っぽくて、股間のことを頭から追いやるのがしんどかった。

「何、師匠」
「呼んでねぇ。ただの罵倒だ」
「何もしてないのに……」

 ぎろりと音がしそうな視線がこちらを睨む。そうか、何もしてないことはないか。ナニをしたしな。でも、師匠が気持ちよくなれるよう誠心誠意頑張ったつもりだ。ガンガン腰は振らせてもらったけど。
 呆れたようにため息をついて、布団を引っ張り上げた師匠が丸くなる。煙草も服も、汚れたものも、全部そのままだ。

「……寝る」

 意訳すると、後片付けは全部任せた、起きるまでにメシと酒を用意しておけ、だ。

「おやすみなさい、師匠」

 師匠が寝る時にだけ許される口付けを髪に落として、床の煙草と服を拾い集める。師匠が起きるまでに、煙草も買ってきておかないと。
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