馬鹿犬は高嶺の花を諦めない

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狂犬、猟犬、あるいは盛りの付いた

3-2

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「他人の趣味をどうこう言うもんでもねぇが……」

 窓辺で煙草をふかしながら、師匠は俺を睥睨した。
 正確には、俺の股間をだけど。一応弁明しておくと、別に今は興奮してない。

「ワイバーンぶった切ってるとこ見ておっ勃てるっつーのは、ねぇわ」
「…………今までで一番かっこよかったから……」

 いくら師匠でも、酒の席でその話をする気にはならなかったらしい。
 団長や団員たちがかなり出来上がって面倒くさい感じになったから、用意してもらった騎士団の宿舎の部屋に俺と師匠は引っ込んだ。宛がわれようとする怪しげな世話係を神妙に断って、安心出来ないから部屋の中も点検した結果を報告していたら、いきなり睨まれたのだ。

 自分でも驚いたけど、師匠がワイバーンの首を切り落とした時、俺はめちゃくちゃムラムラした。戦えば昂揚するのは自然なことだし、魔物を倒した後に師匠が娼館に行ったりするのもそういうことなんだけど、魔物を殺してるのを見て盛るって、自分でもどうなんだと思う。まさか勃つとは思わなかった。
 やっべぇ勃ったと地面で固まっている俺を、綺麗に着地した師匠が訝しげに眺め、近付いて膨らんだものに気付き、絶妙な沈黙の時間を過ごす羽目になった。萎えるまで待つか抜くかしてから来いと言ってくれた師匠は、本当に優しいと思う。
 ちなみに三回くらい抜いた。

 しばらくあの瞬間を思い出すだけで火が付きそうだから、せっかく目に焼き付けたのに、全く思い出して堪能できない。つらい。

「……どうやって育ったらそうなんだよ……」
「……師匠に育ててもらったら?」
「脱げ、今すぐ切り落としてやる」

 痛そうだし師匠を抱けなくなるから困る。慌てて距離を取ったら、苛立たしげに煙が吐かれた。

 しかしだ。せっかく意識の外に置いていたのに、当の本人からその話をされたら、それを考えない方が難しい。

「……待て馬鹿犬、何でテント張ってんだ」
「師匠がその話するから、思い出してヤりたくなってきた」

 金色の滲む碧の瞳が、まんまるに見開かれた。呆気に取られる師匠というのはすごく珍しい。今のうちに持ち込んだら、流れでヤらせてくれないだろうか。こういうこともあろうかと、ちゃんと師匠を運べるくらい鍛えていることだし。

 思い立ったが吉日で、急いで師匠を抱え上げてベッドに移動する。師匠が煙草を取り落としたので、ちゃんと拾ってコップに放り込んでおいた。
 途中で我に返った師匠に暴れられたけど、無事ベッドに押さえ込むことに成功した。五回に一回くらいの、勝てる時に当たって良かった。たとえ体術に優れた大人の男でも、要所要所を押さえられれば、簡単には抜け出せないものだ。それも師匠に教わったことではあるけど。

「こんのクソガキ……」

 今回はご褒美をねだってもダメ出しされて終わりだろう。依頼の意図に気づけなかったことで減点、周りの人間を放り出そうとしたことで減点、たぶん他にも何かある。
 でもこれだけ体が熱いのに、師匠を目の前にして自慰に耽るのは虚しい。

 だったら正面からいった方がよっぽどマシだ。

「抱かせてください、気持ち良くします」

 師匠も戦闘でちょっと疲れてて、遅くまで飲んでたという事実を考えれば、六割くらいは見込みがあるはず。

「……引く気ねぇ顔して言うことか?」
「……抱きます、気持ち良くします」
「言い直してんじゃねぇ……」

 拘束の下の力が緩んだ。
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