7 / 116
狂犬、猟犬、あるいは盛りの付いた
1-2
しおりを挟む
師匠の旅の目的や生い立ちなんて何一つ知らないけど、師匠がこの国の中で誰よりも強いことは俺も知っている。そして見た目も最高にいいことも。
金色の滲む碧の瞳はもちろん宝石以上に綺麗だし、髪も太陽の光みたいに柔らかな金色だ。邪魔なところを適当にナイフでざくざく切り落とそうとするから、必死に頼み込んで俺が整えさせてもらっている。少し伸ばして結んだら邪魔じゃないとここぞとばかりに力説して、毎朝師匠の髪を手入れする時間を作ってもらったのは、今考えても人生最良の選択の一つだったと思う。
肌は滑らかで触るとしっとりと手に馴染むし、睫毛は長くて上を向くとちょっと影ができるくらいだ。鼻筋はすっきりと通っていて、女性のように紅を差しているわけでもないのに、唇はほんのりと赤く色付いている。手足も長い。体は鍛えられて引き締まっていて、ちょっとした仕草さえどこか優美で洗練された動きだ。これで心惹かれない方がおかしい。だから娼館でも大人気らしいし、町を歩けば男女問わず視線を集める。本人は全くそういうのに頓着しないけど。
その強さと圧倒的なカリスマ性を求めて、今度行われるこの国の第三騎士団の野外演習に、師匠も参加してほしいというのが店主の頼みだった。
「何でテメェがんなこと頼んでくんだよ」
俺も疑問だ。
確か師匠に教えられた知識では、第一騎士団が王族の護衛、第二騎士団が王都とか町の警備をする部隊で、第三騎士団が魔物の駆除を主に担当するところ、だったと思う。魔物との戦いは師匠にとっては何の苦労もないことだけど、わざわざ騎士団の演習に参加してほしいという意味がわからない。
それに騎士団から依頼されるならともかく、関係なさそうな商人から頼まれるというのも変だ。
「君と連絡が取れる王都の人間が、僕くらいしかいないからだよ!」
なるほど。
思わず呟いた俺とは別に、師匠は秀麗な顔を歪めた。不快の表明だ。そもそも、師匠は誰かと連絡を取ってどうこう、というのが好きじゃない。俺は好きにする、お前も好きにしろ、だから俺の邪魔をするな、そういう人だ。居場所を誰かに知らせることもないし、自分から誰かに便りを出すこともない。
ここの店主が連絡をつけられるのは、師匠がこの商会でしか取り扱われていない銘柄の煙草を好んでいるからだ。各地の店に伝言を行き渡らせておけば、いつかは必ず師匠に届く、という気の長い話だけど。
「バルトロウ、確かに君は殺しても死なないうわ待って、狂犬ちゃんここ怒るところと違うし本題じゃないから待って!」
師匠を殺すと聞こえたから、店主に向かって剣を抜いた。怒っているわけではないのに怒るなと言われるのは何故だろう。意味がわからないしいいかなと剣を握った手を振ろうとしたら、師匠の声に遮られた。
「馬鹿犬、人間様に噛みつくなって教えただろうが」
「……すみません、師匠」
仕方なく鞘に納めて元の位置に戻ると、店主が大げさにため息をつく。
「本当に、君には忠犬、他人には狂犬だよねこの子……」
「駄犬だろ」
金色の滲む碧の瞳はもちろん宝石以上に綺麗だし、髪も太陽の光みたいに柔らかな金色だ。邪魔なところを適当にナイフでざくざく切り落とそうとするから、必死に頼み込んで俺が整えさせてもらっている。少し伸ばして結んだら邪魔じゃないとここぞとばかりに力説して、毎朝師匠の髪を手入れする時間を作ってもらったのは、今考えても人生最良の選択の一つだったと思う。
肌は滑らかで触るとしっとりと手に馴染むし、睫毛は長くて上を向くとちょっと影ができるくらいだ。鼻筋はすっきりと通っていて、女性のように紅を差しているわけでもないのに、唇はほんのりと赤く色付いている。手足も長い。体は鍛えられて引き締まっていて、ちょっとした仕草さえどこか優美で洗練された動きだ。これで心惹かれない方がおかしい。だから娼館でも大人気らしいし、町を歩けば男女問わず視線を集める。本人は全くそういうのに頓着しないけど。
その強さと圧倒的なカリスマ性を求めて、今度行われるこの国の第三騎士団の野外演習に、師匠も参加してほしいというのが店主の頼みだった。
「何でテメェがんなこと頼んでくんだよ」
俺も疑問だ。
確か師匠に教えられた知識では、第一騎士団が王族の護衛、第二騎士団が王都とか町の警備をする部隊で、第三騎士団が魔物の駆除を主に担当するところ、だったと思う。魔物との戦いは師匠にとっては何の苦労もないことだけど、わざわざ騎士団の演習に参加してほしいという意味がわからない。
それに騎士団から依頼されるならともかく、関係なさそうな商人から頼まれるというのも変だ。
「君と連絡が取れる王都の人間が、僕くらいしかいないからだよ!」
なるほど。
思わず呟いた俺とは別に、師匠は秀麗な顔を歪めた。不快の表明だ。そもそも、師匠は誰かと連絡を取ってどうこう、というのが好きじゃない。俺は好きにする、お前も好きにしろ、だから俺の邪魔をするな、そういう人だ。居場所を誰かに知らせることもないし、自分から誰かに便りを出すこともない。
ここの店主が連絡をつけられるのは、師匠がこの商会でしか取り扱われていない銘柄の煙草を好んでいるからだ。各地の店に伝言を行き渡らせておけば、いつかは必ず師匠に届く、という気の長い話だけど。
「バルトロウ、確かに君は殺しても死なないうわ待って、狂犬ちゃんここ怒るところと違うし本題じゃないから待って!」
師匠を殺すと聞こえたから、店主に向かって剣を抜いた。怒っているわけではないのに怒るなと言われるのは何故だろう。意味がわからないしいいかなと剣を握った手を振ろうとしたら、師匠の声に遮られた。
「馬鹿犬、人間様に噛みつくなって教えただろうが」
「……すみません、師匠」
仕方なく鞘に納めて元の位置に戻ると、店主が大げさにため息をつく。
「本当に、君には忠犬、他人には狂犬だよねこの子……」
「駄犬だろ」
2
お気に入りに追加
126
あなたにおすすめの小説

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
没落貴族の愛され方
シオ
BL
魔法が衰退し、科学技術が躍進を続ける現代に似た世界観です。没落貴族のセナが、勝ち組貴族のラーフに溺愛されつつも、それに気付かない物語です。
※攻めの女性との絡みが一話のみあります。苦手な方はご注意ください。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる