馬鹿犬は高嶺の花を諦めない

phyr

文字の大きさ
上 下
27 / 116
飼い犬、捨て犬、愛玩されたいわけじゃない

2-1

しおりを挟む
 次の朝、無事トゥルートを借りて町を出た。師匠に言われた通り朝一で貸し馬屋に走って、残っていたトゥルートを二頭借りられて本当に良かった。あと少し遅かったら、ひたすらビットロに揺さぶられる羽目になっていた。

 軽快に走るトゥルートは、慣れているからか指示しなくても街道を走ってくれる。食事もその辺に生えている草を食べてくれるし、手間が掛からない。ビットロも、その辺の草で済むけど。
 少し前でトゥルートに乗っている師匠を見る。貸し馬屋でどれにしますかと聞かれて、白いやつを選んだ俺は最高の選択をしたと思う。白いトゥルートに乗った師匠はめちゃくちゃ格好いい。トゥルートはランダムな羽の色で生まれてくるから、白も黒も、赤とか青とかもいる。俺が乗っているのは緑だ。もちろん師匠の瞳の色に似てたからこれにした。あと一頭残っていたのは黒かった。

 だくだくと走っている途中で川を見つけて、水を飲ませに立ち寄る。師匠は煙草休憩だ。

「師匠」

 トゥルートたちより上流で水を汲んで、気怠げに煙草を吸っている師匠にコップを渡す。今日は少しだけ、師匠の瞳の金色が強い気がする。そういう時、師匠はあまり体調が良くないはずだから、休憩ごとに何か食べさせた方がいいかもしれない。

「ウォツバルに行くのって何でですか」

 荷物の中を探して見つけた干しフラウラを渡して、師匠がちゃんと口に入れたのを確認する。調子が悪くなると師匠は食べるのも面倒臭がって、最終的に布団に包まって何日も眠り続けることがある。その間はどんなに声を掛けても、俺が触っても師匠は起きない。丸っきり無防備に、食べもせず飲みもせず、すやすやと眠り続けるだけだ。
 本人はそれに慣れているのか何も言わないし、しばらく経ったら起きてくるけど、毎回、師匠がこのまま起きなかったらと思うと死にたくなるから、出来れば悪くなる前に教えてほしい。寝るために訪ねる家はいくつかあって、そこの人たちも協力してくれるけど、師匠が起きてくれないのが不安すぎて、ずっと傍にいることにしてる。師匠が眠りについている間は、気が気じゃなくて俺もあんまり食事が出来ない。師匠を守るために無理やり食べはするけど、腹が減るのには慣れてる。

 師匠が理由を話してくれたことはない。けど、拾われたばかりのうちは、眠りに入る前に師匠の知り合いのところに無理やり預けられて、仕事に連れて行けない、後で迎えに来ると言いくるめられていた。それを思えば、今は寝続ける師匠の世話も許してもらえているし、相当な進歩だ。

 ただ、本当は俺にこのことを教える気はなかったと思う。師匠が長期間起きられなくなるのを俺が知ったのは、どっかの国の人間に襲われて、切羽詰まった状況になったせいだ。その時初めて、師匠が意識をなくして倒れるのを見たし、その時初めて、眠り続ける師匠の傍にいさせてもらった。あの頃はまだ弱いガキだったから、師匠と一緒に一か所に置いておいた方が、守りやすかったんだろう。
 あの時に、師匠を守れるくらい、師匠が何も心配しなくて済むくらい強くなろうと決めた。

「……遊びだ」

 少し考えるような素振りをして、師匠は口角だけ上げて笑った。いつもの悪役顔だ。

「遊び?」
「俺はな」

 俺は、ということは、他の誰かにとっては遊びじゃないんだろう。他の誰か、がわからないけど、師匠が面白がっているならまあいいかと思う。俺にとっても遊びじゃないかもしれないけど、死ぬわけじゃなければ何でもいい。魔物と戦って、何度も死にそうにはなったけど、本当に危ない時は師匠が何とかしてくれる。まだまだ俺が弱いってことにはなるけど。

 師匠が一本吸い終わったのを合図に休憩を終わらせて、草も食べて元気になったトゥルートを走らせる。ウォツバルへの途上にある王都に寄った時も、師匠は一人でどこかに出かけていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式の話

八億児
BL
架空の国と儀式の、真面目騎士×どスケベビッチ王。 古代アイルランドには臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式があったそうで、それはよいものだと思いましたので古代アイルランドとは特に関係なく王の乳首を吸ってもらいました。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

処理中です...