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闘犬、番犬、躾けられてお預け
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王都に戻って聖女たちを神殿まで送り届けた後、俺は何故か法王と会っていた。師匠が面会するから、それにくっついてきただけだけど、それでも自分がそういう人と会うとは思ってなかった。結構な年なんだろうと勝手に思っていたら、師匠よりいくらか年上くらいの、まだ若い人だったからちょっと驚いた。
「聖女たちの護衛、ご苦労だったね」
「まったくだ。ガキの世話ほど面倒なものはねぇ」
やっぱり法王は身内扱いの人らしい。煙草こそ吸わないものの、師匠は普段通りの様子で接している。つまり、テーブルの上に足を乗せている。ちなみに俺は、いつも通り師匠の斜め後ろに立ったままだ。
そのまま荷物を漁って何かを取り出すと、師匠はそれをぽいと法王に投げた。俺は慌てたけど、法王は慣れた様子で受け取って、師匠の足が届かない位置にそれを置いた。瓶の中で、何もないのに火が燃えている。
「……本当に助かるよ、アドルフ」
アドルフ?
「……誰の話だ、ミシェル」
師匠が法王を睨み、法王は肩を竦めた。
「悪かった」
首を傾げる俺を師匠は見ないし、法王は困った顔で師匠を見ている。会話に口を差し挟むわけにもいかないから、仕方なく俺も口を噤んでおく。
もしかしたら、アドルフというのは師匠のことなのかもしれない。でも本人はそれを嫌がっている、というか嫌悪している、くらいだろうか、とにかく悪感情しかなさそうだ。だったらあえて質問して嫌がられるよりは、いつか話してもらえる機会があるまで待ちたい。俺はとにかく師匠の傍にいたいだけだから。
大仰にため息をついて、師匠が俺を振り返った。
「あれはシルヴェリウス、法王だ。渡したのはフェニックスの種火。聖女の巡礼ついで、いや、こっちがメインか? 一緒に依頼されてた」
法王の名前はミシェルなのかと思っていたら、シルヴェリウスらしい。何か知らないがややこしい。とりあえずシルヴェリウスの方だけ覚えておくことにする。
それから、燃えるものもないのに瓶の中で燃え続けているのが、フェニックスの種火だそうだ。師匠が別行動した原因らしい。あれを採取するのが大変だから、師匠があんなに疲れて据え膳、いや、何でもない。
「本来、巡礼はこのフェニックスの種火を手に入れることを目的にしたものだったんだけどね。いつのまにか麓まで行ってありがたやと山を拝むだけに変化してしまって」
法王の話しぶりを聞いて、師匠の知り合いだということに納得してしまった。まあ、純粋であることは誓いの中に入っていなかったはずだ。
そもそも、クトス山が聖地とされるのも、山頂にフェニックスが棲んでいるからなのだそうだ。本来行われていた巡礼では、フェニックスの再生の炎を持ち帰り、王都の神殿にある燭台に灯してその信仰心を示していたらしい。ただ、その種火を手に入れるためには、フェニックスに認められなければいけない。認められるというのが種火を切望する信仰心だったり、あるいは種火を魔物から守れるほどの力だったりで、師匠は力を示したんだそうだ。
だから装備に傷が付いていたし、焦げ臭いにおいがしたみたいだ。俺が行けば足手まといになるほどの戦いだったから、師匠があれだけ疲れて無防備、いや、何でもない。
「それにしても、きちんと育てられてるようで安心したよ。彼は行けるのかい?」
「泉までは問題ねぇが、山頂は無理だな」
「そうか。まあ将来的には期待しているよ、番犬くん」
師匠と法王で何か話が通じたらしいけど、俺にはちょっとわからなかった。法王からの呼び名は番犬らしいのはわかったけど。犬か、やっぱ犬縛りなのか。
「番犬?」
「ついていった兵たちがねぇ、彼の戦う姿は闘犬のように猛々しかったって言ってたんだけど」
ここでの様子を見ていると、まるで君という宝物を守っている番犬みたいじゃないか。
邪気のない笑顔で言い放った法王に、師匠が口を開けて絶句したから、俺の脳内宝物庫が潤った。
「聖女たちの護衛、ご苦労だったね」
「まったくだ。ガキの世話ほど面倒なものはねぇ」
やっぱり法王は身内扱いの人らしい。煙草こそ吸わないものの、師匠は普段通りの様子で接している。つまり、テーブルの上に足を乗せている。ちなみに俺は、いつも通り師匠の斜め後ろに立ったままだ。
そのまま荷物を漁って何かを取り出すと、師匠はそれをぽいと法王に投げた。俺は慌てたけど、法王は慣れた様子で受け取って、師匠の足が届かない位置にそれを置いた。瓶の中で、何もないのに火が燃えている。
「……本当に助かるよ、アドルフ」
アドルフ?
「……誰の話だ、ミシェル」
師匠が法王を睨み、法王は肩を竦めた。
「悪かった」
首を傾げる俺を師匠は見ないし、法王は困った顔で師匠を見ている。会話に口を差し挟むわけにもいかないから、仕方なく俺も口を噤んでおく。
もしかしたら、アドルフというのは師匠のことなのかもしれない。でも本人はそれを嫌がっている、というか嫌悪している、くらいだろうか、とにかく悪感情しかなさそうだ。だったらあえて質問して嫌がられるよりは、いつか話してもらえる機会があるまで待ちたい。俺はとにかく師匠の傍にいたいだけだから。
大仰にため息をついて、師匠が俺を振り返った。
「あれはシルヴェリウス、法王だ。渡したのはフェニックスの種火。聖女の巡礼ついで、いや、こっちがメインか? 一緒に依頼されてた」
法王の名前はミシェルなのかと思っていたら、シルヴェリウスらしい。何か知らないがややこしい。とりあえずシルヴェリウスの方だけ覚えておくことにする。
それから、燃えるものもないのに瓶の中で燃え続けているのが、フェニックスの種火だそうだ。師匠が別行動した原因らしい。あれを採取するのが大変だから、師匠があんなに疲れて据え膳、いや、何でもない。
「本来、巡礼はこのフェニックスの種火を手に入れることを目的にしたものだったんだけどね。いつのまにか麓まで行ってありがたやと山を拝むだけに変化してしまって」
法王の話しぶりを聞いて、師匠の知り合いだということに納得してしまった。まあ、純粋であることは誓いの中に入っていなかったはずだ。
そもそも、クトス山が聖地とされるのも、山頂にフェニックスが棲んでいるからなのだそうだ。本来行われていた巡礼では、フェニックスの再生の炎を持ち帰り、王都の神殿にある燭台に灯してその信仰心を示していたらしい。ただ、その種火を手に入れるためには、フェニックスに認められなければいけない。認められるというのが種火を切望する信仰心だったり、あるいは種火を魔物から守れるほどの力だったりで、師匠は力を示したんだそうだ。
だから装備に傷が付いていたし、焦げ臭いにおいがしたみたいだ。俺が行けば足手まといになるほどの戦いだったから、師匠があれだけ疲れて無防備、いや、何でもない。
「それにしても、きちんと育てられてるようで安心したよ。彼は行けるのかい?」
「泉までは問題ねぇが、山頂は無理だな」
「そうか。まあ将来的には期待しているよ、番犬くん」
師匠と法王で何か話が通じたらしいけど、俺にはちょっとわからなかった。法王からの呼び名は番犬らしいのはわかったけど。犬か、やっぱ犬縛りなのか。
「番犬?」
「ついていった兵たちがねぇ、彼の戦う姿は闘犬のように猛々しかったって言ってたんだけど」
ここでの様子を見ていると、まるで君という宝物を守っている番犬みたいじゃないか。
邪気のない笑顔で言い放った法王に、師匠が口を開けて絶句したから、俺の脳内宝物庫が潤った。
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