馬鹿犬は高嶺の花を諦めない

phyr

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狂犬、猟犬、あるいは盛りの付いた

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 演習と聞いてはいたけど、実際に魔物の群れを殲滅して、王都の安全を確保する目的もあるようだ。案内された天幕で師匠に何やら説明している騎士の話を聞きかじったら、そういうことらしかった。その説明に来た騎士は師匠に憧れているようで、英雄と直接お話しできるなんて光栄です、と頬を上気させていた。
 俺を拾ってくれる前だけど、ドラゴンを倒したことがある師匠を、この国では英雄と呼ぶ人が多い。トカゲ一匹倒したくらいで英雄なんざ、軽い称号だなと本人は鼻で笑っていた。ドラゴンなんて、そもそも生きている間に話を聞くことすら滅多にない魔物だし、魔物としても国ごと滅ぶような災害と言っていい危険度らしいから、師匠が英雄と呼ばれるのも当然だ。
 ただ、その時の傷ばかりじゃないだろうけど、師匠の体には傷跡がいくつもあるし、俺がもっと早く生まれて、もっと早く強くなれていて、師匠を助けられれば良かったのにとも思う。師匠の傷跡を嫌だとは思わないけど、師匠が怪我をするのは嫌だ。

 師匠を見つめて顔をきらきらさせた騎士は、説明が終わった後も何故か天幕に残っている。お二人のお世話を仰せつかっております、だそうだ。
 師匠に世話係がつくのは理解出来るけど、俺には必要ない、と思う。自分のことは自分で出来るよう、師匠にいろいろ教えてもらったから。勧められても師匠の傍の椅子には腰掛けられないし、水くらい自分で汲むから気にしなくていいのに。

「会議が終わり次第、団長がいらっしゃいますので」

 第三騎士団の団長は、師匠の知り合いだ。俺に勝てねぇくせに剣しか取り柄がねぇと思ってる馬鹿、と師匠は言っていた。師匠に剣で勝てる人間なんてそうそういないし、当の本人が驕ることなく自身を鍛え続けている。そんなの、今からどう努力したって、誰も追い付けないような気がする。
 そしてその師匠に直接教えてもらっても、俺は未だに師匠の足元にも及ばない。

「呼び立ててすまんな!」

 声も体もでかい人が入ってきた。第三騎士団の団長だ。がしゃがしゃという鎧の音に師匠が顔を顰めるけど、団長の方は遠慮なく天幕の中を進んで、師匠の向かいに腰掛けた。

「君、ここはもういいぞ。持ち場に戻れ」
「っは、はい! 失礼します!」

 世話係騎士を下がらせてもらえたのはありがたい。師匠の世話は出来れば俺がしたいし、俺の世話係に関しては心底いらない。無言で煙草を吸い続けていた師匠も、大きく紫煙を吐き出した。

「……ラクレイン、俺ァガキの面倒見る気はねぇぞ」
「俺はいらないと言っておいたんだがなぁ……ま、陰陽の師弟とお近付きになりたいやつは多いからな。諦めてくれ」

「「陰陽の師弟ィ?」」
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