オーバードライブ・ユア・ソング

津田ぴぴ子

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二十九話

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本格的な冬を迎えて暫く経ち、先日二月を迎えた。綿埃にも似た雪が灰色の雲から落ちてくるのを、陽はブレザーの中に着たカーディガンとマフラー、そして膝掛けに埋もれるようにして、窓際の席からぼんやりと眺めている。
昼休みの教室はいつも通り騒がしく、そこかしこで女子が寒い寒いと言い合っていた。朝から何十回と無く聞いた台詞だが、本当に、それしか言えなくなってしまうほど寒い。尤も校舎自体が古いせいで、最新の暖房設備などは夢のまた夢なのだろうなと言うことは理解している。
だから、苦肉の策としてこうして布達磨になっているのだ。

前川と最上は、四限目が終わるなりそれぞれの部活の集まりへと向かった。この春に卒業する三年生の送別会や、それに伴う出し物などがあるのだそうだ。
最近の放課後は練習もそこそこに、それに関しての話し合いに明け暮れているのだと言う。
「……卒業、かあ」
もごもごとマフラーの中で呟いて、陽は机の上に視線を戻した。左の手のひらを眺めて、指先だけでコードをなぞりながら、あの、アンコールで演奏した曲の中で最も気に入っている旋律を誰にも聞こえないように口遊む。

まだ、鮮明に覚えている。ステージを照らす痛いほどのスポットライト、一番前で飛び跳ねる小さな弟、鳴り止まない拍手、歓声、サイリウムのように揺れる携帯の光。顎先を伝う汗と、名残惜しげに溶け消えた音の残滓。

最後の曲を終えて振り返った時の、三人の表情。

それら全てを閉じ込めるように、左手を握り込んだ。マフラーに顔の大部分を埋めて、泣きそうになるのを必死に堪える。
あれが夢では無かったと言うだけで、もう充分に満ち足りていた。その筈なのに、もっといける、もっとやれると言う感情が湧き上がって止まないのだ。

とは言え、いくら願ったとしても時間の流れと言うのは待ってくれない。文化祭終了後、吹奏楽部や演劇部などの文化部の三年生は続々と部活動を引退した。無論、受験勉強や就職活動に専念するためだ。それは織も惺も例外では無い。
ただ彼らは引退と言う形は取らず、冬休みに入る前までは第二視聴覚室で勉強していた。いつもの癖で足が向いてしまうと笑っていた二人が、ああでもないこうでもないと参考書と睨み合いをしていたのを思い出す。思えばあれは、陽と初を気遣っていたのかも知れないと今更気が付いた。
年を越して少しすると受験シーズンという言葉が聞こえ始め、学校でも三年生は自由登校、と言う形が取られるようになる。そうすると、織と惺は早々に自宅学習に切り替えた。二人とも既に大学には受かっているが、それは第二、第三志望の話であって、第一志望の試験は今月に行われるらしい。
大体家にいるから何かあったら連絡しろとは言われたものの、わざわざ受験勉強を中断させるほどのことなど起こる訳もない。
「……」
当たり前のことだ。いずれはこうなると分かっていた。ただ、がらんとした第二視聴覚室が、埃避けの布で覆われたままの惺のキーボードが妙に寂しそうで、そこに自分を重ねて、勝手に悲しくなっているだけ。
もっと純粋に応援出来たら良いのにと、陽は机の上に突っ伏して呻いた。

ふと、教室のドアががらりと開く音がクラスメイトの会話の間から聞こえる。馴染みのある話し声が近付いてくるので、電話でもしているのかと聞き耳を立てた。
「──だから、うちの先輩受験なんだって言ってるじゃん、そんな暇ないよ。ごめんだけど、バンドでは無理!うん……僕?その日は用事が、……るかちゃんの頼みだから、聞いてあげたいけどさ……」
ごめんね、と言いながらようやっと電話を切った初は、いつもそうするように前川の椅子を陽の方に向けて座る。彼が反対側の手に持っていた購買の買い物袋から次々と出てくるパンに、陽ははっとしてリュックから自らの弁当箱を取り出した。
それを見た初が、溜息を吐きながら眉根を寄せて抗議の視線を寄越す。
「先に食べてて良いって言ったのに」
「いやー、ちょっとぼーっとしてて」
「そんなんで期末大丈夫なんですかねー」
「大丈夫だって!今回はちゃんと勉強してるし、……今の電話、何?」
陽の問い掛けに、初は数秒悩むような素振りを見せる。彼はこちらをちらりと見て溜息を吐き、隠してもしょうがないか、と呟いた。
初は携帯の液晶を数度叩いたかと思うと、そのままそれを陽に手渡す。
「……バレンタインライブ?」
画面に表示されていたのは、豊永にあるというライブハウスの告知用SNSアカウントだった。添付された画像の一番大きな文字を陽がそのまま読み上げると、初は一つだけ頷いてパンの袋を開けながら言う。
「従兄弟のおね、……お兄さんがそこで働いてるんだけど、それに出ないかって電話だった。でも先輩たちは受験だし、僕もその日用事あるから」
「それって、バンドじゃないと駄目なの?」
「駄目ってことはないだろうけど、分かんないよ。聞いてないから」
「ふーん……」
陽は再びマフラーに埋もれつつ、手元の弁当箱を開ける。
バレンタインなどと銘打ってはいるが、告知画像に記載された日付は一週間後の二月十一日。祝日だった。バレンタインと言うには少し早い気がするが、スケジュールの都合などもあるのだろうな、とぼんやり考えながら詰め込まれた卵焼きを口に放り込んで数回咀嚼した時、陽の頭の中にとある考えが降ってくる。
それを心の内で堰き止める理由は、どこにもない。
「初」
「何」
「それさ、俺、出ても良い?」
陽の言葉に初は少しの間硬直して、あのさあ、と呆れたように溜息を吐いた。
「誰と出るの?先輩は駄目だし、僕も──」
「うん、だから俺ひとりで」
「一週間しか無いんだよ?期末もあるし」
「まあ、どうにかなるっしょ。頑張るわ」
そう言って笑った陽は、初の口元に小さなクリームコロッケを差し出す。前に好きだと言っていたのを思い出したのだ。賄賂のつもりは無かったが、そういう風に捉えられてしまっただろうか。

暫くこちらを睨んだあと大人しくそれを口に入れて咀嚼した初は、言うと思ったけどね、とだけ呟いて、パンを齧りつつ携帯を弄り始めた。その光景を見つめる陽に時折ちらちらと視線を寄越しながら、携帯を右の耳に当てる。
従兄弟とやらは、存外すぐに電話を取ったらしい。
「るかちゃん?僕だけど、……あのさ、さっきの話。ライブの、……そう。それ、うちのボーカルが出たいって、──うるさ」
至極鬱陶しそうな初が一度携帯を耳から離す。向こう側からくぐもった声が聞こえるが、何と言っているのかはいまいち聞き取れなかった。
「知ってるでしょ、陽だよ。隣の家の、……それって今日の話?うん……分かった。学校終わったら連絡する」
じゃあね、と言った初はすぐに通話終了のボタンを押して、携帯を机の上に置いた。無意識に食べる手が止まっていたことに気が付いて、陽は食事を再開する。
「色々説明することあるから、今日来て欲しいって」
「お前も来る?」
「当たり前でしょ」
空になったパンの袋を几帳面に結んだ初がそう溜息を吐いた時、古いスピーカーから予鈴が響いた。校舎内の空気を震わせるようなそれを合図にするようにして、そこかしこに散らばっていた生徒たちが慌ただしく動き始める気配がする。陽はと言えば、慌てて弁当箱の中身を掻き込んで、口の中をいっぱいに満たした白米の咀嚼に躍起になっていた。
「ただいまー」
「ただいま」
それぞれ体育館と友人の元から戻ってきた前川と最上の声に、陽は振り返る。おかえり、と言いたかったが、少しでも口を開けると中に詰めたものが溢れてきそうで叶わなかった。頬を限界まで膨らませた陽を見るなり吹き出した前川は、横に立っていた初を見て、また早食い?と首を傾げる。
「そう、先食べてて良いよって言ったんだけど」
「初どっか行ってたの?」
「ちょっと電話」
「へえ」
頬を突いてくる前川の指を払い除けた陽がふと真横を見ると、じっと自分を見ていた最上と目が合った。暫くそうして見つめ合っていたが、彼は何かに合点がいったようにあ、と呟くと、陽を指差して言う。
「ハムスターだ」
「それ!」
「ああ……」
最上の言葉に手を打って同意した前川と静かに頷いた初に、やっと口の中のものを飲み込んだ陽はこう叫び返した。
「小動物じゃない!」





さようなら、という日直の挨拶に合わせて、皆がばらばらと頭を下げる。六限目終了のチャイムまでを寝て過ごした陽は、まだ半分ほど夢の中にいた。顔の前で手を振られてはっと我に返ると、前川が短く起きた、と呟く。彼は陽の真後ろで同じく微睡んでいる最上の肩を揺らして、最上さん、と呼び掛けた。
「部活行くぞ」
「うん……」
前川に欠伸でもって返答した最上が緩慢な動作で立ち上がった時、準備を終えたらしい初と時藤が三人の元までやってきた。すると、時藤が陽の顔を見て、その制服の袖のあたりを引く。
「み、陽くん」
「はあい」
「あの、ここ、教科書の跡ついてるよ……?」
自らの右頬を指して言う時藤に一瞬硬直する陽に、前川がスポーツバッグから取り出した小さな折り畳み式の鏡を差し出した。それを受け取って見てみると、確かに時藤の言う通り、右頬のあたりに複数本の線がくっきりと走っている。これでは授業中寝ていましたと自白しているようなものだ。その跡をぺたぺたと触る陽を、初が冷ややかな目で見下ろしている。
「寝てるなあとは思ったよ」
伸びてきた初の手指が思い切り陽の右頬を抓る。肉を引き千切らんばかりに力を入れてくるそれからどうにか逃れて、陽は赤く染まっているだろうそこを押さえて前川たち三人を見渡した。
「ある?ほっぺた」
「あるある、何だっけ?悠。ハムスターが飯溜めとくとこ」
「頬袋」
「それ!」
「いつまで引き摺るんだよ!」
威嚇のようにそう叫ぶ陽をただ眺めていた初は、通学鞄のファスナーを開けてその中を覗き見た。そして肩を落としながら溜息混じりに言う。
「後でノート貸すから、夜ちゃんと復習してよ」
「マジ!?」
「マジだけど!そもそも寝ないでよね」
初が一層眉間の皺を深めながらそう言ったとき、一連のやりとりを見ていた最上が、何かさあ、と口を開いた。
「初くん、何だかんだで陽に甘いよね」
「……別に、期末で赤点取られたら軽音部が困るからってだけ!」
最上の方を見て一瞬言葉を詰まらせた初がそう言うと、三人は何かを察したようで、微笑ましげな、何とも言えない表情で初と陽を見た。
居た堪れなさが限界を迎えたらしい初が、場の雰囲気を振り切るように陽を呼ぶ。
「陽」
「はいっ!?」
「早くしないと電車乗り遅れるよ」
それにいち早く反応したのは前川だった。珍しい、と呟いて首を傾げる。
「今日は休みなんだな、軽音部」
「どっか行くの?」
最上の問いに陽は初と顔を見合わせた。まだライブの詳細について何も分かっていないが、言ってしまっても問題はないだろう。自分が話すと長くなるかもしれないと考えた陽は、初が説明するようにと視線で訴えた。彼は小さく頷いて、極めて手短に、要点のみを伝える。
「ライブハウスだよ。話し合い、みたいな感じ」
その答えに、前川は目をきらきらと輝かせて声を上げる。
「出んの!?」
「僕は用事あるから出ない、陽だけ」
「だけ?大丈夫なのかよ陽一人で」
前川の心配そうな視線につられてか、最上と時藤も不安げにこちらを見てくる。陽はそれに眉を釣り上げて抗議した。
「小学生じゃないんだから大丈夫だって!」
「で、でも陽くん、知らない人しかいないんだよ?」
「俺コミュ障じゃないもん」
「でも緊張しいじゃん」
「それはそれでどうにか……」
「先輩たちも初もいないんだぜ?」
「……うがー!大丈夫!やるったらやるったらやる!」
勢いよく立ち上がり、数度机を叩く。中に教科書類がぎっちり詰まっているお陰か、それはがたがたとごく僅かに揺れるだけだった。
広げたままだった教科書類を横に引っ掛けていたリュックに捻じ込んで、ギターが入ったギグバッグを背負った。マフラーをぐるぐると巻き、ふん、と短く息を吐いて、初の方に向き直る。行こう、と言った陽に、幼稚園からの幼馴染は追い討ちのような一言を投げた。
「もう一回言うけど、期末もあるんだからね」
深々と溜息を吐いたのは、陽と前川、最上の三人だった。





豊永駅を出て、ビル群を突っ切るように歩く。聳えるそれらの隙間から差し込む夕陽の眩しさに、陽は小さく奇声を上げて目を限界まで細めた。空気はきんと冷えているのに、太陽の光は少しも衰えない。待ち時間が長いことで有名な信号に捕まって、人混みの中で立ち止まる。
そろそろ日が暮れてしまうな、という思考に至った瞬間、母親に連絡していないことを思い出した。
「あ!」
「何?」
「お母さんに連絡してない」
「そんなに遅くはならないと思うけど、……しときなよ。心配するから」
「お前は?」
「もうしてある」
「早……」
携帯に表示された地図を見ていたらしい初が顔を上げる。歩行者信号の横についたメーターを見ているのだろう。この信号に捕まると、大体の歩行者が同じような挙動をする。
「まだ大丈夫そ?」
「全然余裕」
「おっけー」
陽は携帯を両手で持って、母親にいつもより遅くなる旨のメッセージを打った。行き先を素直に伝えるか迷ったが、隠し立てしたところでいずれ話さなければならないから、ライブハウスに行ってくる、と送信する。勿論、初も一緒であることを言い含めて。
時間帯的にすぐに読むのではと予測したが、案の定すぐに吹き出しの傍に既読の文字が表示された。ぽん、という音と共に、母親からのメッセージが表示される。大丈夫なの?という文面から心配を読み取って、陽はううんと唸った。ライブハウスという場所柄もあるのだろう。行ったことがないから、何となく怖い場所、というイメージを持ってしまうのも仕方がないのかもしれない。
何せ、陽自身もそうだからだ。正直に言ってかなり怖い。
しかし一度出ると言ってしまった手前、やっぱりやめますとも言えない。勢いと気合いでどうにかなるだろと己を奮い立たせて、初の従兄弟の職場なのだということを伝えると、母親は少し安心したようで、あんまり遅くならないように、というお決まりの文章を送ってきた。
信号は、もうじき切り替わる。
「その、従兄弟って、どんな人なの?怖い?」
「いや全然怖くな、……あー、どうだろう」
息を呑んだ。どの方向性の「怖い」なのかは全く分からないが「るかちゃん」という名前からは著しくかけ離れた、サングラスをかけていて、オールバックで色黒の、筋肉質な男性の姿が思い浮かぶ。
「……まじで……?」
「多分想像してるようなのじゃないと思うけどね」
くぐもった電子音が、青信号に切り替わったことを伝える。人混みに押し出されるようにして、二人は歩を進めた。
商店街を抜けて、信号をひとつと歩道橋をひとつ渡る。信号待ちを除けば、駅から十五分ほど歩いただろうか。とある小さなビルの前で立ち止まった初は、ここだ、と呟いた。

元々は白かったのであろう外壁は所々が剥がれ、汚れている。硝子戸に大きなアルファベットでBell、と書かれた楽器店は、入り口から店内の全てが見渡せるほど狭かった。レジカウンターの中では、エプロン姿の初老の男性がギターらしきものを磨いているのが見える。その店の真横に地下へと下りる階段があって、恐らくそれがライブハウスへと続いているのだろうな、と思った。
「あ、るかちゃん?」
隣を見る。その手には携帯が握られていて、従兄弟へ電話を掛けているようだ。
「着いたんだけど。うん、前にいる……はーい」
ごく短い会話を終えて通話を切った初は、携帯を制服のポケットに入れて陽の方を見た。
「今出てくる」
「おう」
「緊張してんの?」
「しっ、してないし」
嘘だ。
がちゃん、と階下で扉の開く音がして、ばたばたと階段を上がる足音が響く。怖い人じゃありませんように、と何度も念じていた陽の耳に飛び込んできたのは、いやに掠れた中音域だった。
「はーちゃん!」
はーちゃん、という呼び方に疑問を抱く間もなく、その人物は陽たちの前に駆け寄ってきた。その「るかちゃん」を視認した瞬間、今の今まで念じていたことが、一瞬にして吹き飛んだのを感じる。
僅かに外側に跳ねたくすんだピンク色のセミロングの上に、大きなリボンが乗っている。膝丈のスカートが、ひらひらと風に揺れていた。
今まで出会ってきたどの女子よりも可愛らしい服装に、陽は硬直してしまう。ライブハウスというよりは、ヨーロッパあたりの城にいそうな格好だ。
「今日大人しいね、服」
「一応お店はお休みだけど、ここ仕事場だし?ていうか超寒いね!早く入ろっか!……陽くん?」
「はいっ!?」
「小さい時に会ったけど、覚えてないだろうから初めましてにしよっか。鈴本すずもと留歌るかです。よろしくね」
靴のせいもあるかもしれないが、陽よりも背が高い。覗き込まれて、初めて顔をまじまじと見た。かなり綺麗な顔立ちをしているその人は、行こうよ、と微笑んで陽の背中を優しく押した。顔が熱い。寒さのせいだと必死に自分を納得させて、何度も頷いた。小さい頃に会ったと留歌は言ったが、全く記憶にない。

一連のやり取りを黙って見ていた初が、深々と溜息を吐く。
「陽」
「え?何?」
「言っとくけど、るかちゃんって男だからさ……」
「えっ」
どうやら彼女ではなく彼だったらしい。完全に女だと思っていたから、暫し呆然としてしまった。
両方の壁に様々なバンドのフライヤーが貼り付けられた十数段の階段を下り切って、西洋の家を連想させる焦茶色のドアを開けた留歌が陽たちを招き入れながら言う。
「女の子だと思ってくれたの?」
「だって可愛いから……」
陽の言葉を聞いた留歌は一瞬黙って、神妙な顔をしながら初の方を見た。
「はーちゃん」
「何?」
「この子貰ってもいい?」
「だっ……、そもそも物じゃないし」
「あはは!言うと思った!」
愉快そうにけらけらと笑う留歌に導かれるまま扉を潜って一番最初に目についたのは、陽の胸ほどの高さの木製のカウンターだった。その隣には一本通路があって、奥には扉が二つ。その様子を見るに、恐らくトイレだろう。
その推測を肯定するように、留歌がそちらを指差す。
「あっちがトイレで、そんで、こっちがホールだよ」
カウンターを右に曲がるとすぐに、映画館のそれのような分厚い扉に突き当たった。留歌が取っ手に手を掛けて、よいしょ、と声を上げながら手前に引く。第二視聴覚室のそれとは違う、何かが擦れ合うような、重たい音だった。
「ようこそ、R.Bellへ」
留歌のその言葉に応えるように天井を見上げて、真っ先に目に入ったのはミラーボールだった。天井に埋め込まれた暖色の照明を映して、きらきらと輝いている。友人とカラオケに行った時も見たことがあるが、それよりもかなり大きい。
「でか……」
「言ってくれればいっぱいピカピカ出来るよ」
呆然と呟いた陽を微笑ましげに眺めた留歌は、内緒話のようにそう言った。
辺りを見渡す。好きなバンドのライブ映像で見るような広さはない。どんなに詰め込んでも五十人が限界だろう。左奥にはバーカウンターのようなものが設置されていて、椅子が数脚並んでいる。その反対側、最奥に位置するステージには、アンプ類が所狭しと並んでいた。
「見たら分かると思うけど、あっちがステージ。こっちが卓ね。リハとか、……本番中でも、何かあったらいつでも言って。」
留歌が上を指差しながら言う。入ってすぐ左側は壁かと思っていたが、そこだけ「二階」があるらしい。覗き込むと、人一人がやっと通れそうな階段が目に入った。それを上がった先で音響やら照明やらの操作をしているのだろう。ステージ全域を見るのに、観客と同じ位置ではかなり都合が悪い。
今まで黙って話を聞いていた初が、不意に口を開く。
「るかちゃんさあ」
「なあに?るーちゃんがちゃぁんと仕事してるからびっくりしちゃった?」
「……うん」
「ふふ、そうでしょ?はーちゃんだから言うけど、結構頑張ったんだからね」
言いながら、留歌はバーカウンターの横にある扉の前で立ち止まる。
「ここが控室。詳しい話はここでしよ。ジュースくらいご馳走するよ」
通された控室は、ホールの約半分ほどの広さだった。左奥には応接室にあるような革張りのソファーが二つ、長方形のテーブルを挟み込むように置かれている。丸机やら椅子やらギタースタンドやらがそこかしこに点在しているが、散らかっている、という印象はあまり受けなかった。
「陽くんはオレンジジュースでいい?」
「はい!」
「はーちゃんは?」
「同じのでいいよ」
「了解ー」
留歌は陽と初を壁側のソファに座らせると、入り口とはまた別の扉に入っていった。それはバーカウンターの内側に繋がっているらしく、向こう側からがちゃがちゃと物音が聞こえる。木製のテーブルには、デフォルメされた白熊が一匹描かれたクリアファイルが置かれていた。
床に下ろしたギターの位置を少し弄って、陽は初を突く。
「何」
「緊張してきた」
「知ってる」
「あのステージでやんの?俺。一人で?」
「そうだよ」
「俺が今一番欲しいもの当ててみ?」
「度胸と勇気」
「大正解」
陽が溜息と共に天井を仰いだ瞬間、ぎ、と短く蝶番が軋む音がした。留歌が鼻歌を歌いながら、オレンジジュースが入ったコップを両手に持って歩いてくる。彼が一歩進むたびに、氷がからころと揺れた。
「お待たせー」
「あ、ありがとうございます」
「ありがと」
「どういたしまして、…さてと」
留歌は手元のクリアファイルから一枚の紙とボールペンを取り出すと、陽の前に置いた。
「十一日のバレンタインライブ、出てくれるってことでいいんだよね?」
「はいっ!」
「うーん、元気でよろしい!当日は十四時入り、揃い次第顔合わせしてリハやって、十六時半会場、十七時開演の予定だよ。あとで送っとくから、連絡先だけ教えてくれる?」
「はいっ」
声が裏返りそうになるのをどうにか堪える。六月の定期公演会の時もかなり緊張したが、今回はそれよりも酷いかもしれない。学校ではないということと、一人だということ。それらを思い出す度にやっぱりやめておけば良かったと後悔しそうになるから、なるべく考えないように努めた。
陽の携帯に表示されたQRコードを自らの携帯で読み取った留歌が、はーちゃん、と初を呼ぶ。
「もしかして箱でライブするの初めて?」
「はこって何?」
「ライブハウス」
「あー、うん。そう。ライブ自体学校の定演と文化祭でしかやったことない」
「やっぱりそうなんだ。可愛い……じゃなくて、そんな緊張しないでも大丈夫だよ。見た目はともかくとして、みんな優しいから」
ね、と子供に言い聞かせるように首を傾けた留歌に、陽は大丈夫ですと言いつつ何度も頷く。可愛い、と言われたような気がするが、そこに突っ込んでいる余裕は無かった。
「じゃあ、ここにアーティスト名だけ書いといてくれる?セトリとかは当日書いてもらうから」
「はいっ」
留歌がテーブルに置かれた紙を指差す。ボールペンを手に取り紙面に突き立てようとした時、大きな疑問符が降ってきた。助けを求めるように初を見る。
「何?」
「これさあ、バンドの名前じゃ駄目だよな?」
「……陽の名前でいいんじゃないの」
「そうかも」
「……」
初が小さく溜息を吐いたのが聞こえた。己の手元に突き刺さる視線をひしひしと感じる。個人で活動などしたことがないから、この場合本名を書くしかないのだろう。一人で出るなら、そうするのが妥当だ。この後に及んで寂しいなどとは言っていられない。
ええいままよ、と紙にボールペンを押し付けた、その時だった。
「──ふ、ふふ、ふ」
「?」
空間を揺らした笑い声に、陽は顔を上げる。正面に座っていた留歌が、右手を口元に当てて肩を震わせていた。彼は怪訝そうな顔をした初を指差して、さも愉快そうに言う。
「はーちゃんさあ、顔に心配ですって書いてあるよ」
「は?別に──」
続けようとして、初は押し黙ってしまった。これは図星であることの証左だと、幼稚園からの長い付き合いの中で知っている。
仕方がないとばかりに息を吐きながら、留歌が自らの膝に肘をついた。
「うちに行くんだ?その日」
「……そう」
「あはは!やっぱりね」
詳しい事情を何も知らない陽は、二人を交互に見る他ない。
「気まずーいお誕生日会より楽しいこと優先したっていいじゃん。本当は一緒に出たいんでしょ?」
「それは、……そうだけど、でもさあ」
「おじちゃんが何て言うか不安?」
「……うん」
こくりと頷いた初の頭を、不意に立ち上がった留歌がわしゃわしゃと撫でる。良い子に育ったねえ、と言いながら。

留歌から見たおじちゃんとは、初の父親のことだろう。二月十一日は香西家の誰かしらの誕生日で、それを祝うための集まりがあるらしい。留歌の口振りからして、あまり楽しいものではないようだった。初がそれを否定しないということは、彼にとっても気乗りしない行事なのだろう。
「るーちゃんからおじちゃんに連絡するよ。それでいい?」
「でも」
「大丈夫、どうにかなるって」
しかし親戚の集まりというのなら、留歌も行かなくてはならないのではないか?ということに思い至ったが、既にそれを聞けるような空気ではなくなっていた。彼はソファの上に放られていた携帯を手に取って陽たちに背を向けると、何処かへ電話を掛け始めた。
「あ、もしもしおじちゃん?龍汰です、ご無沙汰してまーす」
「龍汰?」
聞き慣れない名前を繰り返した陽に、初が小声で言う。
「るかちゃんの本名」
「……偽名なの?」
「そ。鈴本留歌っていう名前自体が偽名。本当は香西龍汰って名前なの」
「へえ……」
何やら複雑な気配を察知して、陽は留歌の方を見る。先程までと変わらない明るい口調で、電話の向こうにいるであろう初のの父にことの詳細を話していた。
「──っていうことだからさ、はーちゃんはその日パスで!うちの人にはおめでとうって電話入れとけばいいよお。るーちゃんからも言っとくし?だからさ、お願い」
暫くの沈黙があった。
「え?はーちゃん?いるよ。代わる?うん、はーい」
留歌はそこまで言うとこちらに歩み寄り、初に自らの携帯を差し出した。
何だか一言たりとも喋ってはいけない気がして、陽は黙り込む。携帯を受け取った初が、それを耳元へ持っていくのを目で追った。
「もしもし?お父さん、…はい、……うん、午後から……はい」
電話の向こうの声はもごもごとくぐもっていて、何を言っているか全く聞き取れない。何とはなしに留歌の方を見ると、思い切り目が合った。彼の唇が、だいじょうぶ、と動いたのがわかる。
「違う」
いやにはっきりとした初の声に、思わずそちらを向いた。
「誰のためでもない、僕がやりたいから。る、…龍汰くんは関係ないよ。……うん、電話はする。うん……じゃあ、そういうことだから。ありがとう。じゃあね」
言い終えて、すぐに初は通話終了ボタンを押した。携帯を返された留歌はそれを受け取って、ソファに腰掛ける。
「るーちゃんのせいにしても良かったんだよ?」
「嫌だよ。考えなしに流されてるって思われるのが一番癪に障る、……陽」
「はいっ」
喋り出すタイミングを完全に見失っていた。返事の一音目が僅かに裏返る。それに触れることもなく、初はテーブルの上の紙を拾い上げた。
「これ、僕も出るよ」
「大丈夫なのかよ、家」
「大丈夫。言っとくけど、出るからにはちゃんとやるからね。勉強も」
「うう」
勉強、という言葉を聞いた瞬間、陽の口からえも言われぬ呻き声が漏れる。しかし一人で出ずとも良いのだという安堵感に、陽は内心ほっと胸を撫で下ろしていた。強張っていた顔周りが一気に緩んで、自然と口角が上がる。
改めて、二人で紙をまじまじと見た。
「バンド名書くのも変だよなあ」
「先輩いないし、バンドっていうよりユニットじゃないの」
「ベース……」
一度ギターボーカルとドラムだけで演奏したことがあるが、やはりどこか物足りない結果に終わった。色々と試したが、どうにも薄く聞こえてしまう。ギターでカバーするには、やはり別の楽器であるから限界がある。そこを無理に通すのは、陽の技術的にもほぼ不可能だった。
こういう時には、やはりプロの意見を聞くのが良い。陽は留歌に向き直る。
「鈴本さん」
「るかちゃんでいいよ!」
「じゃあ、…るかちゃん、こういう時ってどうしてるんすか……?」
「うーん、陽くんがギタボで、はーちゃんがドラムなんだよね?大体そういう時はドラムの人がカホンっていう、いい感じの音が出る箱みたいなのを使って、ギターはアコシミュ繋げて、アコースティックな感じにしちゃうのが一番簡単なんだけど──」
一度留歌が言葉を切って、次いでこう言った。
「ね、もし良ければなんだけど、バンドにしない?」
束の間の沈黙があって、最初に口火を切ったのは初だった。
「だから、先輩たちは受験で」
「うん、だから他のベース弾ける子に頼むってこと」
その手があったか、と思う。陽がよく聴いているバンドも、メンバーが欠けるとヘルプを入れたり、新メンバーを探したりしていた。確かにその方法を取れば、いつもと変わらない演奏が出来る。
なるほどと感心した陽に反して、初は眉根を寄せていた。
「今から探すのは遅すぎない?友達にベース弾ける人はいないし」
至極真っ当な意見だ。ライブ本番は一週間後で、決して余裕があるとは言い難い。
しかし留歌には何か良い案があるようで、ふふん、と得意げに鼻を鳴らして、手元の携帯を見る。時間を見ているのだろうか。
「それはねえ、大丈夫。心当たりがあるからね」
「るかちゃんの知り合い?」
「うん、多分そろそろ」
来るんじゃないかな、という留歌の言葉に被せるように、がちゃんという音を立てて、控室の扉が開いた。
反射的にそちらを見て、思わず息を呑む。
「留歌さん、そろそろ酒の発注──」
照明に照らされてきらきらと輝いている白に近い金髪に、鮮やかな青色のインナーカラーが映えていた。横の髪は顎の上あたりで切り揃えられて、襟足は肩ほどまで伸びている。前髪の奥の瞳には光がなく気怠げで、何日もまともに寝ていないのか隈が濃い。オーバーサイズ気味の長袖のスタンドカラーシャツを着ているが、それでも酷く華奢な体つきをしているとわかる。
両耳には複数の、数えるのも億劫になるほどのピアスが開いていた。
「……すいません、お客さんすか」
「全然大丈夫!こっちおいで、けいちゃん」
けいちゃんと呼ばれたその人物は、留歌に言われるがままこちらに歩いてくる。留歌は立ち上がり、自分より少し高い位置にあるその薄っぺらい肩に手を置いた。
「紹介するね、二人とも。この子が星永ほしながけいくん!」
留歌はにっこりと笑って、この子にお願いしよう、と言った。
「──は?」
発言の意図が掴めないとばかり、蛍は隣に立つ留歌を見る。真っ当な反応だ。どういうこと、と小さく動いた色の薄い唇の右側にも、銀色のピアスが光っていた。一体何個身体に穴を開けているのかと無意識に視線を下げると、シャツの袖から伸びる左手が目に入る。
包帯。
左手の甲、その真ん中あたりまでが、包帯で覆われていた。尤も、どこかで怪我をしたとか、猫に引っ掻かれたとか、理由はいくらでも思いつく。が、どうしても嫌な想像の方が頭の隅の方を陣取ってしまう。初対面の相手にあんまりな偏見だと思い直して、どうにかその考えを拭おうと躍起になった。
一方の初は至って冷静なようで、留歌が一頻り概要を説明し終えるのを待っている。
「あのね蛍ちゃん、こっちがるーちゃんの従兄弟のはーちゃん。話したことあるでしょ?それでそこのかわい──隣の子が陽くん。はーちゃんのお友達。二人とも菖蒲ヶ崎で軽音部やってるんだって」
最も基本となる情報だ。また可愛いと言いかけたような気がしなくもないが、やはり否定できるような隙間はない。初がぺこりとその場で頭を下げたのにつられて、陽も軽く会釈する。顔を上げた時、こちらに視線を寄越した蛍と目が合ったが、すぐに逸らされてしまった。
「それでね、十一日にライブあるじゃん。バンドで出て貰えないか打診したんだけど、ベースと鍵盤の先輩が受験で無理なんだ。だから、蛍ちゃんヘルプで入ってくれないかなって」
一通りの話を聞いた蛍は数秒間の間を置いて、深々と溜息を吐いた。
「留歌さん、言ったでしょ?俺バンドはもう」
「うん、知ってる」
「じゃあ──」
「でも、もう一回くらいやってみても良いんじゃないかな?もし今回も「そう」だったら、今度こそ諦めればいいし。それに」
この子たちは、きっと大丈夫だよ。

何が「そう」で、何が「大丈夫」なのか。留歌の言った言葉の意味は、全く分からなかった。蛍の沈黙を肯定と受け取ったらしい留歌が、決まりね、とその肩をぐいぐい押してソファに座らせる。そうしてその隣に腰を下ろして、二人とも、と言った。
「改めて紹介するね。蛍ちゃんはうちでバイトしてくれてて、……何歳だっけ?」
「十七です」
「そうそう十七歳!で、駅前のビルに通信の高校入ってるじゃない?そこに通ってるんだ。今年三年?かな?多分」
その髪色とピアスの数から大学生かその辺りかと考えたが、その予想は大きく外れてしまった。その高校については名前以外何も知らないが、通信制であればそのあたりは緩いのだろう。髪を染めていようが、ピアスを開けていようが構わないのかもしれない。
「留歌さん」
「なあに?」
「歳とか学校とかどうでも良くないですか」
「良くないよ。まずはお互いのこと知らないと何も始まらないって、いつも言ってるでしょ?」
「一回きりでしょ」
「それでも!」
「……」
蛍は一度陽たちを見たものの、またすぐに床の辺りに視線を落としてしまう。彼は暫くの間黙り込んで、そうして、絞り出すようにこう言った。
「……楽器には、半年くらい触ってない」
「──……」
「それでも良ければ、…やるよ」
若干声が震えているように感じたが、気のせいかもしれない、と思い直した。普通に接しても良いものなのか一瞬考えたものの、腫れ物扱いしたところで何かが進むという訳でもない。包帯と隈のことには触れず、普通に話すのがいい。現に留歌はそうしている。
横目で隣を見ると、初もこちらを見ていた。彼は小さく頷いて、蛍の言葉に返事をするよう促してくる。それに応える代わりに、陽は正面に向き直った。
「全然大丈夫っす!」
そう言った時、テーブルの上に置かれていた留歌の携帯がけたたましく鳴り響く。サイレンのようなそれに、陽は思わずびくりと身を竦ませた。独特な着信音だなと思ったが、どうやらそれはアラームであるらしい。留歌は液晶を叩いて音を消すと、それをそのままこちらに向ける。
「残念、時間切れだね」
もうそんな時間なのかと、陽も自らの携帯を取り出した。確かに時刻は十八時半を回っており、そろそろ帰宅しなければ母親からの連絡が飛んでくるかもしれない。
やばい、と呟いて電車の時間を確認しようとした陽を、留歌の言葉が遮った。
「送ってくよ。はーちゃんちの隣だもんね?」
「いいんすか?」
「いいの?」
ほぼ同時に反応した陽と初に、留歌は顔の前でひらひらと手を振って答える。
「全然いいよぉ、気にしないで。車持ってくるから、三人でお話しとかして待っててくれる?」
仲良くね、と念押しのように言ってから、彼は控室を出て行った。ごく軽い音を立てて扉が閉まると、室内はしんと静まり返る。

本番はきっかり一週間後であるので、残された時間は今日と当日を抜いて五日間だ。これを五日間もあると捉えるのか、五日間しかないと捉えるのかは人と状況による。どちらかと言えば陽は後者だった。軽音部の部長になったのだから、その辺りもしっかりしなければ、と己に言い聞かせる。初に任せきりではいけない。
まず練習時間を確保するためにお互いの予定を擦り合わせなければならない。本番までの間に土日を挟むため、そこも練習に充てることができるのは幸運だった。決めることは山ほどある。練習時間、曲、バンドの名前──。
「あのっ!」
留歌が戻ってくるまでの間に、せめて明日の待ち合わせ時間と練習場所くらいは決めておきたい。その話をしよう、関係ない話はしない、と念じながら、陽は口を開く。
蛍が顔を上げた時、その両耳のピアスがきらりと光った。
練習の話をする。
関係ない話はしない。
絶対にしない。
「それ、ピアスって何個あいてんすか……?」
穴を開けられた風船のように、初がソファの背凭れに倒れ込んだのが分かった。好奇心と相対して清々しいまでの敗北を喫した陽は、真っ直ぐに蛍の耳朶にくっついた小さい猫を見つめている。
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