怪談を読みながら寝落ちたら

津田ぴぴ子

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怪談を読みながら寝落ちたら

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夢の中で、わたしは小さな子供だった。狭い和室に布団を敷いて、わたしとお母さんと妹は一緒に寝ている。
お母さんは、毎夜同じ時間になると魘される。酷く苦しそうに唸るのだが、朝になるとケロッとしていて、何も覚えていないと言う。

そのお母さんの声で目が覚めた。わたしのすぐ横にある大きな窓から差し込んでくる月明かりが、部屋の中をうっすらと照らしている。隣に寝ているお母さんを見ると、やっぱり魘されていた。揺すりながら呼びかけても、うう、とかああ、とか唸るだけで起きる気配が無い。額に浮かんだ脂汗が、だらだらと枕に染みを作る。

困ったなあと辺りを見渡すと、部屋の隅に置かれた鏡台が目に入った。そして、いつも鏡面に掛かっている布が外れていることに気が付く。隙間風か何かで落ちたのだろうか。
何故だかそれがとても嫌で、わたしはその布を戻そうと立ち上がった。それと同時に、お母さんの寝言が大きくなる。何か言っているようだけども、はっきりとは聞き取れない。

妹はよく起きないなあ、まだ小さいのに。
わたしはゆっくりと布団の上に立って、目を擦りながら鏡台の前に立つ。畳に頼りなく落ちた布を拾い上げて、ふと、鏡を見た。妹がすやすやと寝息を立てている横に、お母さんの苦しげな顔が見える。

お母さんを、やたらと頭と手が大きな女が覗き込んでいた。

わたしは思わず振り返る。誰もいない。
また鏡を見た。
その女は変わらずお母さんの枕元に立って、上半身を限界まで前に倒してお母さんの顔を見ている。じっとりと濡れたような長い黒髪が垂れて、お母さんの顔に掛かる。その髪の毛のせいで、女の表情は読み取れない。
わたしは暫くの間動けず布を握り締めて鏡を凝視していたのだが、やがてその女の顔が、ゆっくりとこちらに向き始めているのに気が付いた。
お母さんの寝言が、更に大きくなる。

くるよお、くるよお、くるよお、くるよお、くるよお、くるよお。

はっきりとそう叫んだお母さんの声は、まるでスロー再生された音声を聞いているみたいに不自然で、低かった。
女はもう、ほとんどこっちを向きかけていた。
わたしは目を閉じて、勢い良く鏡面に布を被せた。わたしの耳元で、

あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーあ。

と、甲高い声がした。
そこで、目が覚めたんです。
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