賢い人が好きだけど

砂臥 環

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一人暮らしカレー問題につけこまれる

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「大河内さん、暇ですよね?」
「暇ですよね? とは如何に! 失礼極まりないな、鶯谷君は。 まぁ暇ですけど、なにか?」

あれから鶯谷君とはちょいちょいご飯を食べに行ったり、飲みに行ったりするようになった。
その頻度、週3。……ちょっと多すぎる。

週1位で鶯谷君が奢ってくれるが、基本はワリカンだ。ファーストフードとか牛丼屋の時もあるが、お財布に優しくない。

あと、カロリーが気になる。
何度も言うが私は三十路を越えた方のアラサーだ。
『ちょっと飯抜きゃすぐ戻る』20代の身体ではないのだ。

「そんな訳でお断り申す!!」
「成る程、大河内さんのご意見はごもっとも。 ならばこうしましょう」




「……ちょれぇぇぇぇい!!」

そして今何故か、私と鶯谷君は卓球をやっている。
卓球なんて何年ぶりだろう。
おもわずノリで誘いに乗り、正にノリノリで某選手風にスマッシュを決める私。
スマッシュっても勢いだけの暴投だけれども「ちょれい」って言えて満足している。


市内のスポーツ施設、15分一人250円の卓球コーナー。
鶯谷君はここを奢ってくれるという魅力的なお誘いを提示した。

この歳になると友人は家庭や仕事で忙しく、なかなか皆アクティブには遊んでくれなくなる。
約束を取り付けても精々飲みに行くか、ランチを楽しむ位なもんだ。

15分はあっという間に過ぎるが、普段運動をしないアラサーには丁度いい程度の時間と言えた。
こういう遊びには全力を尽くすので、これ以上だときっと、明日が辛い。

残り5分で鶯谷君は勝負を持ち掛けてきた。

「10点先取で勝負をしましょう、大河内さん。 俺が勝ったら今夜もご飯、付き合って貰いますよ?」
「なに、そんなんでいいの? 奢れっつーなら受けないけど」
「ワリカンで良いですよ。 ああ、大河内さんが勝ったら俺が奢りますけど」
「マジか」

あれ?なんかおかしいなーと思ったが、即座に鶯谷君は「いきますよ」と言って構えたのでそれどころじゃなくなった。

勝負を受けたからには本気で向かうのが相手に対する礼儀というもの。


そんな理由で私は、年明けに実家で毎年行われる親戚の小学生とのマ◯オカート勝負にも手を抜いたことはない。
当初は無敗を誇っていた私だが、年々勝つ回数が減り、遂に今年は一度も勝てなかった。
子供の成長、恐ろしい。
ムカつくから来年からは違うゲームにしようと思っている。


勝負は接戦だったが結局私が勝った。
勝因は鶯谷君のミスなので釈然としない。

「何が食べたいですか、大河内さん」
「要らん、貯金しろ貯金。 鶯谷君はお金を無駄遣いしすぎだ。 大体外食ばかりは身体によろしくないぞ!」
「大河内さんは料理できるんですか?」
「アラサー女子舐めんな! できるに決まってんだろ? 少なくとも食えるモノは作れるわ!」
「俺は作れません。 …………自分、不器用なんで」
「高倉健かよ」
「教えてくれます?」
「え~…………」

『作ってくれ』と言われたら直ぐ様お断りするつもりの私だったが、『教えてくれ』と言われてしまうと微妙ではある。
なんせ、今しがた自炊を勧めたのは他ならぬ私自身だ。

「う~ん……」
「俺カレー食いたいです。 お家カレー」
「ベタだな」

そういや最近カレーを食ってない。
何故なら家でカレーを作ると3日はカレーになるからだ。
あと何気に手間がかかるし、後片付けも大変だという一人暮らしには不向きな料理なのだ。

何故か『カレーなら簡単でしょ?』みたいな事を料理しないヤツに限って言うが、世の中の女子は皆怒っていると思う。
少なくとも私はそんな輩に「てめぇはレトルト食っとれ!」とカレーの王◯様を投げつけたい。
夢見がちなぼっちゃまには星形にんじんがお似合いだ。

だがカレーの恐ろしいところは急に食べたくなるところ。
既に私の脳内は鶯谷君の不用意な一言により、カレー一色となってしまった。罠か。

最早夕食はカレー以外に考えられぬ。

「ちっ、しょうがないな……」
「大河内さん、舌打ちは下品ですよ」

カレーの材料をスーパーで購入し(当然材料費は鶯谷君持ちだ)、私の家へと向かうことになった。

なにしろ鶯谷君家には調理器具がない。

部屋は人を呼ぶレベルで綺麗にはしていないが、鶯谷君家よりは遥かにマシなので問題はないと思う。




調理は滞りなく行われ、美味しいシーフードカレーが出来た。
ここぞとばかりにちょっといいカレー粉と飴色玉葱ペースト、チャッツネ、ココナッツミルクまで購入したのだ。そら旨いわ。

「凄く美味しいです、大河内さん」
「自分で作ったから余計にじゃない? これからは自炊をしたまへよ、鶯谷君」
「俺が作った……」
「ん? 感動したのかね?」

しかし、鶯谷君は面倒臭いことを言い出した。

「『俺が作った』んですよね? 『大河内さんと』」
「んえ?なにいきなり。 だってそうでしょ? 一緒に作ったよね、さっき」

ウチは鶯谷君家のように広くはない。1Rだ。
コンロが一個しかないくっそ狭いところで、部屋のテーブルを利用しながら調理をしただろうに。
なんだ、いきなり記憶喪失か?
あまりの旨さに?……なアホな。

「じゃ、残りのカレーを食べる権利は俺にもありますね。 カレーは2日目が旨いらしいですよ」

そう言うと、鶯谷君は食べた皿を片付け、床に横になった。

「??」

意味がよくわからなくて鶯谷君を眺めていると、にっこりと笑いかけられる。

「卓球で汗かいちゃったんで、食休みしたらシャワー浴びたいです。タオル貸してください」
「………………」


泊  ま  っ  て  い  く  気  か  よ!!


「なんて図々しいヤツだ!!」
「大丈夫です、気にしませんから。 床で充分ですしお構い無く?」
「誰が構うか!」
「雑魚寝とか超久々~。 学生に戻ったみたいで新鮮です」
「うっせ! アラサーのくせに!!」
「それはお互い様でしょ。 大河内さんだってこないだウチに泊まったんだし、良いじゃないですか」
「よくない!」


結局、鶯谷君はウチに泊まっていった。

勿論なにもない。


だが味を占めたのか、鶯谷君はそれからもなにかと理由をつけてウチに入り浸ってはご飯を食べた。

泊まったのはその日だけで、後はちゃんと帰る。
最初は拒否をしていた私だったが、なにもない上、食費も助かるので段々それに慣れてしまった。

鶯谷君といると結構楽しいし、友人が遊びに来てると思えば大した事ではない気がしてしまったのだった。
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