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③
しおりを挟む長く続く平和の中、政略的要素の強い結婚は好まれなくなったが、女性の社会進出が進んだ訳ではない。特権階級の中で多少の融通が利くようになったに過ぎず、基本的には縁談から始まって婚姻関係に及ぶのが常だ。
いい縁談はやはり若い女性に行きがちだが、ライラはもう22歳……デビュタントが16であり、そのあたりで結婚する娘が多いことを考えると、決して若いとは言えない年齢である。
いい加減、強制的に縁談を押しつけられてもおかしくはない。
押し付ける、とは言ってもまずは『ブラッドロー辺境伯との縁談』からではあるのだが。
「……これも、もしかして侯爵家からの?」
「いや、単に人がいなかっただけだけど」
「そうですか……そうですよね……」
安堵しつつも、ライラは自分の不甲斐なさに肩を落とした。
が、パーシヴァルの言葉にすぐ復活する。
「旦那様も心配していて、『最大限ライラのいいように』とのことなんで」
「ふぇ!?」
「どうする? 先ずはドレスとかアクセサリーでも作る?」
「………………!!」
再びライラは歓喜にうち震える。
落ち着こうとして取ったティーカップの中味は殆どソーサーへと零れた。
「そそそそそうですねっ…………」
うち震えながらも、今度は侍女魂を発揮させ、テキパキと指示を出す。
辺境の地とはいえ、栄えていない訳ではない。国防の要故に人は多く、職人も多い。
また、長く厳しい冬を越えるここの人間の美意識は高く、王都とは価値観が少し異なる。
華美でも流行に乗ってもいない、シンプルで美しく、長持ちするものを好む傾向が強い。
この地ならではのドレスと、この地でしか採れない果物を使った香水、シンプルなドレスに合わせた大ぶりのアクセサリーは雪をイメージしたデザインを。それぞれ厳選した職人から選ぶ。
普段からこういう仕事はライラの担当だ。
名工は熟知している。
領地アピールを考え、民への還元を必然的に行っているライラに感心しながらも、パーシヴァルは『やっぱり残念だ』と思わずにはいられなかった。
──今アピールすべきは、そういうことじゃないのでは。
「もう少しこう、旦那様の色を取り入れるとかさぁ……なんかないの?」
「!!!」
もっともな意見だが、暫し考えた末、己が似合うことを優先させることにした。
美貌のルーファス(※ライラ的に)の横に立つのだ。
恥をかかせるワケにはいかない。
(──はっ! 侍女になってからは、お肌のお手入れに時間をかけてない気がするわ! 昔より!!)
慌てたライラは、パーシヴァルに懇願する。
「パーシヴァル様!! 王都出立まで暫くの間、お暇をください! 心と身体の準備が……」
「ああ……そうだね。 王都までは時間がかかるし」
「!!?」
パーシヴァルとしては『色々準備がある』程度に受け取って、何気なく返しただけだったが……ライラは違う意味に受け取った。
(王都まで……二人旅!!!(※違います))
「──ふぁあぁあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
淑女にあるまじき声を発したライラは、両手を顔で覆いながら、ソファに倒れ込んだ。
(大丈夫かなぁ……)
家令であるパーシヴァルは、当主不在の間に家を守るつもりでいたが……他に代われる人がいないでもない。執事長のセオドアに相談して、ついていくか否かを判断することにした。
あまり過保護に世話を焼いてはいけないな、そう思っていたのだが……『そもそも早めに世話を焼いていれば、こんなことになってないんじゃ?』と、今になって反省した為である。
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