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エミール視点①
しおりを挟む私はエミール・ローガスタ。
王立騎士団第二部隊長及び魔術師長。23歳。
魔術師長というのは単なる役職名に過ぎない。
魔力持ちであったとしても、その力を有効且つ身体に負荷がかからぬよう使いこなすには特殊な技能や知識がいる。
そのため魔術師団は別に存在し、人数も少なく騎士団の中で魔術も使えるというのは稀。
なので重用されたに過ぎない、と私は思っている。
しかしその知識のおかげで騎士団のみでは難しい場所のインフラ整備の成功や、魔術師のみでは気付かない場所の結界の強化の指示などを行い、スピード出世を果たすことができた。
だが……私の心は虚しかった。
今更出世したところで、何の意味があるだろう。
今までしてきた数々の努力……ソレはひとえにキャロライン様に相応しい男となる為……!!
しかし彼女は私が声を掛け、自分の存在を認識してもらうより先に手の届かない女性となってしまっていた。
自分の運命を呪う。
第二王子レヴィウス様の婚約者候補となり、仲睦まじいお二人の姿を見たときは『クソ王族…呪われろ!!』と大変に不敬なことを心で思いながらも、まだ諦めようと思えたものだったが、第三王子ハロルド様の婚約者となられてからは不敬な気持ちばかりが強くなる一方だ。
思春期に恋愛にかまけるのを恐れた自分が憎い……!
私は己の欲望を封じ、騎士として国……そして王家に尽くすべく、秘密裏に欲望及び妄想をノートに書き込んでいた。
無論見られたら大変な不敬に当たることも書いていたので、魔力で私以外のものが手に触れないようにした上で、更に開いていても内容がわからないようにしてあった。
その内容は単なる妄想なので実にくだらない。
曲がり角でぶつかった女性がキャロライン様でそれをきっかけに恋に落ちるとか、ある日暴漢に絡まれている女性を助けるとそれがキャロライン様だとか、私が捨てられた子犬を発見し、懐かれてしまい見捨てられずに困っていると雨が降ってきて、そんな私に傘を差し出し微笑んだ女性がキャロライン様だとか……
そんな我ながら乙女チックな内容もあるが、時にはハロルド王子に手篭めにされそうなキャロル様を助け出し、そのまま……みたいな、色々な意味で酷い内容もあった。
見直すと自分でも恥ずかしさに死にたくなるので、ノートは1冊書き終わるごとに燃やしている。
諦めようとは何度もした。
だが何度か友人や仲間に夜の街に連れ出されたときは、男として非常に残念な結果に終わってしまったし、他の女性と付き合ってみようと試みても、キャロル様のことばかり考えてしまい、好意を向けてくれる女性に対してはその罪悪感しか湧き上がるものはなかった。
それでも私は王家への忠誠と……何よりキャロル様の幸せを思えばこそ、諦めるつもりではいたのだった。
──そう、あの日までは。
城下町で警備をしていた私はあらぬものを目撃する。
幸運にも我が女神、キャロライン様を手に入れる権利を得たにも関わらず……あろうことかハロルド(最早『様』などいらん)は女を侍らせていたのだ。
このクソガキ……!!
こんな男と結婚してキャロル様が幸せになるハズなどない……!!
私はそう思った。
『どうにか奴との婚約が駄目にならないだろうか』
私の妄想ノートは次第にそんな内容ばかりになっていった。……暗いのは認めよう。しかしどうにもならないことばかりで気が狂いそうだった。
自分自身の想いすらどうにもならないというのに、だ。
彼女は婚約しており、その相手は王族であり、ハロルドは女を侍らせている。
……私がキャロル様の為ににできることなんて何一つなかった。
私にできることと言ったらそれを探すための無駄な努力くらいだった。
許される範囲内で彼女の近況を知るとか、彼女のいる夜会に自分も赴くとか……
夜会で私は何度もキャロル様をダンスに誘おうと思ったのだが、なかなかできずにいた。
昔は彼女の美しさに身体が固まったからだが、今は『諦めるべきだ』という気持ちと『自分を見て欲しい』という葛藤の気持ちからの方が大きい。
きっと彼女に触れたら諦められなくなる。
「はぁ……」
スノーグ家の食事会に呼ばれたのは正にそんな時だった。
騎士たちに防具を卸しているスノーグ家は私の遠縁でもあり、慰労のため第二部隊を招いてくれていた。一応は食事会という名目だがちょっとした酒宴だ。
溜息を吐く私に、スノーグ家の三女レイナが話しかけてきた。
「おやおやぁ? 色男が悩ましげに吐息なぞ吐いちゃって……恋のお悩み?」
レイナは18になるがおよそ男爵令嬢とは思えない数々の振る舞いと……三女であることをいいことに嫁にもいかず好き勝手なことばかりしている問題児である。しかし多趣味・多才な彼女は結果として多くの益をスノーグ家にもたらしているため、家人も黙認している。
私とは兄妹のような関係のレイナは、かねてから私の気持ちを知っており、私はハロルドと同い年で下町の幼馴染である彼女から、時に奴やキャロル様の情報を買っていた。
無駄なあがきなのはわかっていたが、それでも私は彼女を諦めきれず……せめてキャロル様が幸せそうなら諦めもつくのだろうに、ハロルドの情報はソレを否定するような碌でもない内容ばかりだった。
「今回の情報はちとお高めだよー、旦那」
18には見えない幼い顔をして、女子にあらざる口調でレイナはそう言った。
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