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キャロル視点⑨『ブーゼンベルグ侯爵家の化け猫従者ちゃん』
しおりを挟む私はハロルドに言われたことを早速やってみることにした。
(フッ……もしそれがうまくいかなかったら、またヤツに違う策を考えさせればいい)
婚約破棄の後始末はハロルド自らに取らせる仕様にもなり、とても合理的と言えるだろう。
部屋に戻った私は、とりあえずノワールを呼び出した。
ノワールは化け猫であり、私の影の従者。
もともと曾祖母の飼い猫だったらしい。
だが200年以上生きていると思われるので、もしかしたらもっと前から実家にいたのかもしれない。
詳細は不明だが、妖精が見える人がいたりその加護を受けている土地や家も普通にあるのだから、化け猫が家に居座ろうと大した問題ではない。
我が家にいたのが妖精ではなく化け猫だっただけのことで、ノワールは我がブーゼンベルグ侯爵家の守り神……みたいなモノとして存在しているのである。
もっとも『みたいなモノ』と付くのでもお察し。
餌と居住の保証程度しかしていないので、さして危険なことはしない。
そして猫なので気紛れだ。裏切ることはないが、従わないことは普通にある。
隠密活動を行わせればそこそこ優秀だが、過度に期待をしてはいけない。
『暗黒魔導師ルルノイエ』を見つけた屋根裏部屋で彼と出会い、母から譲り受けた時も
「困った時にでも使いなさい。 餌をあげてりゃそれなりに役に立つから」
くらいの感じで言われた。
そんな感じで母も祖母から貰ったらしい。
詳細が不明なのも、『餌をあげて愛でていれば、困った時に助けてくれる』以外の部分は多分どうでも良かったからだと思う。
もっとも母は困り事どころか、専ら薔薇本を買いに行かせるのに彼を使っていたらしい。
もっと他に使いどころなかったんかい。
「久しぶりにゃ、キャロル」
ノワールは人間の姿に変化して私の前に立ち、こう挨拶した。
私は不快感に眉根を寄せる。
「確かに『にゃ』を語尾につけなさいと命令したけれど、それは猫の姿の時だけだと言ったでしょう……!」
彼は色々な姿に化けられるが、基本は10歳ぐらいの美ショタ姿で現れる。
サバトラの猫姿の時に『……だにゃ』と言われるのは可愛くて大好きだが、ショタ姿でそれをやられるとそのあざとさに激しくイラッとする。控えめに言ってぶん殴りたい。
「もう、細かいんだからなーキャロルは。 で、なに?」
──私はレイナ・スノーグ男爵令嬢の今について、ハロルドの為に調べてやることにした。
知りたいのは現在だが、一応は彼女及びスノーグ家についての諸々と、今回の一件周辺の彼女の動きもどうせだから探っておこうと思う。
もしレイナ嬢が現在ピンチだった場合。
どう助け舟を出すかは、それを知らなければ話にならない。
場合によっては『助けない』という選択もするかもしれないし。
「はーい、了解! 終わったらしっかり労ってよね☆」
そう言って、サバトラ猫の姿になったノワールは、窓から颯爽と飛び出していく。
「さて、と……」
ノワールの帰りを待つ間に、私はエミールが帰ってからのシミュレーションを脳内で行うことにした。
──そして気付いた。
(先に仕掛けるって……どうすりゃいい?)
ハロルドには恥ずかしくて言えなかったせいでうっかりしていたが、いつも私はされる側だった。
(目でも瞑って待てばいいのか? いや、それだと口にされかねない)
別にどちらがする側と決まっているルールではなかったので、私がする側にまわればいいわけだが……
(──私から? ……私から!?)
いや、無理。
いいアイデアだと思われたが、いざやろうと思って考えてみると、案外ハードル高いヤツだ。
(しかも、帰ってきた後のキス・ハグ・手を繋ぐ・寝る前のキス……4つもあるじゃないか……)
想像しただけで爆死しそうになった。
想像で爆死だ。
できんのかコレは。
いや無理無理無理無理。
(『それならばできそうです』などと安易に言ってしまった自分が憎い……)
既に後悔している──もう少しキチンと想像をしてみるべきだった。
しかもやるからには余裕な感じでことを済ませ、尚且つ彼をドキドキさせなければいけない。
主導権を握ることが目的なのだから。
(──いや、まぁ。 そもそも全部やる必要もないのか……)
あまり積極的でもイキナリ怪しい。
今日は何かひとつやって、エミールの反応を窺ってみるのがいいかもしれない。
そんな事を考えながら、私は周囲を片付け始める。
念の為、鈍器になりそうなものは遠ざけておこうと思ったのだ。
我ながら甲斐甲斐しい。
なかなか同棲っぽくなってきたのではないだろうか。
片付けているものが『鈍器になりそうなもの』というのをスルーすればだが。
「ただいまー」
数時間後、ノワールが戻ってきた。
一見美形のアホの子の様なノワールだが、200年以上は生きているだけはある。
その気になればこれくらいのことは朝飯前のようだ。
彼はまずミルクを飲むと『長くなりそうだから』などと吐かし、お代わりとお菓子を要求する。
『どうせ食いたいだけだろ』と思いつつ用意したものの、予想外にも彼の話は本当に長かった。
「──、──」
そしてその内容も、とても予想外なもので。
「──ふーん……そう……」
私は思いもよらぬ事実を突きつけられることとなっていたのである。
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