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クラーケンとの戦闘

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転移されたのは港近くの神殿──

「だぁあああぁぁぁりゃぁぁぁぁ!!」

マリリンが心に決めた男……戦闘狂筋肉馬鹿バスチアンは、突如海から現れ浅瀬で猛威をふるうクラーケンに、今一太刀浴びせたところだった。

「滾るぜェ!」
「バスチアン、ここは港が近過ぎる! 魔導士達が集まるまではじっくり攻めるよ!!」
「チッ、まだるっこしいな……!」

ある意味それ自体が防壁でもあるダンジョン内では頼れるバスチアンの剣技だが、大剣に魔力を含む渾身の力を込める為に殺傷能力が高すぎて周囲の被害も凄い。

森ならまだしも、港はまずい。
特に、被害額的な意味で。

ダンジョンを出てからの魔導士ディディエは主に防壁生成係であったが、『余生を楽しむ』と言って不在がち。なにぶんお年であるのでダンジョン攻略に付き合ってくれただけ有難く、それを責められる者はいない。

「もう始まってますわ! 殿下、お早く!!」
「わかってる!!」

ふたりは急いで戦闘場所へと向かうと、マリリンが詠唱を行う。

「我が身を包みし精霊の加護をもって、魔の者の力渦巻く空間を拒絶せん!魔力よ、防壁となり、不浄の手を阻むがよい!」

展開された魔術は強固な防壁結界。
本来ならば魔導士がそれなりに揃い、力を合わせてかける類のモノだ。

「マリリン……! いつの間にそんな力を?!」
「ふっ。 自慢したいところですが、長くは持ちません……ッ」

勤勉で努力家で魔力量も多いマリリンだが、彼女は選ばれし者ではないのだ。
なにしろそれなりに広域な上、『クラーケンVS勇者と剣士』である。

「ッ任せろ!」

クロヴィスは無詠唱で飛翔すると、クラーケンの触手を捌きながら闘うふたりの元へと急ぐ。




「しつッこいなぁもう! ヌメヌメしてるし!!」
「クソッ! あとで下足焼きにしてやる!」

悪態を吐きながら戦う二人だが、クラーケンの巨大な触手に手間取っていた。
浅瀬とはいえ海。やはり二人も飛翔魔術を展開しながらの戦い、しかも触手のヌメりが攻撃の威力と命中率を著しく下げている。

「──はっ?!」

突如背面の触手から放たれた雷撃。
ナディーヌは咄嗟に身体を翻し、剣でそれを受ける。

──バチバチバチッ!!!

「うわっ?!」
「ナディーヌ!」

雷撃は相殺したものの体勢と魔力均衡を崩したナディーヌは、飛翔状態を維持できなくなり、衝撃から水面へと落とされた。

「ッぷはっ……バスチアン!長いの・・・に気を付けて! ああもう、ドレスって邪魔!」

水面下で襲いかかる触手を捌き再び舞い上がったナディーヌは、ずぶ濡れで重くなったドレスの裾を絞りながらバスチアンに警鐘を鳴らす。

胴体から太く繋がった他の触手とは違い、少し距離を取り海底から出現した、とりわけ長く他より細い二本の触手──『触腕』と言われる部分。
餌を捕獲するのに一番活躍する部位である。
どうやらクラーケンは、ここから雷撃を放つようだ。

「──お?! やっとか!」

苦戦というよりは『苛立つ戦い』を強いられていた中、ようやく展開された防壁魔術。

「行くぜ!」

凄まじい闘気を放ったバスチアンは魔力を大剣に込める。
クラーケンもまだ失っていない触手で海面を激しく波立たせながら、バチバチと音を鳴らした二本の触腕を大きく振りかざした。

おそらくこの一刀では決着は着かない。
トドメを刺すべく、すかさず後方へ回るナディーヌの身体が急に上へと引き上げられる。

「──殿下?!」
「……在りし日において、我は宇宙の営みを見据え、星々の輝きを感じる者となりし。光輝くる精霊たちよ、我が肉体を介し彼の者に聖なる力を!」

クロヴィスがナディーヌの大剣に聖力付与を行うと、彼女の身体と剣を美しい光が覆う。

しかしそれはすぐに、バスチアンの剣とクラーケンの触腕のぶつかりあう閃光によって消された。
ビリビリと激しく空気が震え、魔術防壁に沿って不自然に荒ぶる波。
爆発のような光と水飛沫の輝きとは別の、儚げな光が剥がれ落ちるように柔らかく消えていく。衝撃で結界が瓦解したのだ。

「ああぁぁぁあぁぁぁあ!!!!」

ナディーヌは急速に落下するように、クラーケンの身体目掛けて刃を立てた。

それは一瞬だけ。
クロヴィスと視線を合わせた後のこと。
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