7 / 9
マリリンの事情
しおりを挟む──少し前のこと。
「……ちと甘すぎるだろうか」
王は玉座の傍らについていた宰相に小さく零した。
「宜しいのでは? 元より殿下に預けた荷が多かったのです。 もっと早目に分けるべきだったのでしょう、判断が遅かったのは我々大人の責任ですから──それに」
宰相は宮廷に集まっていた重鎮らを一瞥し、言った。
「あのお二方の婚姻に文句を言う者は、もう誰もおりませんし」
クロヴィスが見回した臣下達からの(生)温かい目──水を差すようなことを言うならば、そもそも婚約の時点で色々言ってた者にはクロヴィス自ら黙らせたのだ。
まあそうもなるだろ、という。(※当人はスッカリそんなこと忘れた模様)
「で、マリリン。 そなたは何故クロヴィスの稚拙な目論見に加担した?」
ナディーヌの努力は認めるが、やはり未来の王妃としては厳しい。
元々クロヴィスが王太子にならない、と言うなら受け入れるつもりでおり、そうでないならこの先どうするか厳しく問う予定でいた。
いつまで経っても決断どころか相談もしないクロヴィスを、苛苛しつつも見守っていた王である。最近のふたりの妙な行動から『婚約破棄』の想定もしていたが、敢えて放置していたに過ぎない。
だが、マリリンはそれも理解していた。
「はい。 私は立太子すべきは第二王子殿下であると愚行致しました。 ただし、『勇者』ナディーヌ様と『聖女』クロヴィス殿下は婚姻すべきかと。 しかしながらお二人が想いを交わさず、ただお立場などの外因の強さ故結ばれることは、あまりに危険……陛下のお叱りも想定し、殿下に協力することに致しました」
「ふむ……今回の件についてはわかった。 だが、そなたの利があまりにない」
マリリンはにこりと淑やかに笑い、再び口を開く。
「神託後のお子であらせられる為、王太子教育も踏まえた教育をされていると伺っておりますが、なにぶん第二王子殿下はまだ10歳……クロヴィス殿下とナディーヌ様には別のかたちで治世を担うお二人として、確固たる地位と第二王子殿下からの尊敬と信頼が必要かと。 微力ながら私もお支え致したく存じます」
「それは……第二王子との婚約を望む、ということか?」
ないことではないが、マリリンは第二王子の8つ上。
家柄だけでなく王妃となるだけの素養のある娘として婚約者候補に名が挙がっていたのは事実だが、それを自ら望むとなると些か心象は悪い。
此度の件も野心の為に動いたと王が感じるのも仕方なく、問う声も剣呑さが滲む。
だが、マリリンの答えは違っていた。
「いいえ、第二王子殿下の婚約者の教育係をお任せくださいませ。 あのナディーヌ様を無事卒業させた手腕を買っていただきたく」
「なんと……?! そ、それは願ってもないことだが」
やはりマリリンの利が見えず、皆困惑した。
しかしコレは、彼女にとっては充分に旨みのある話なのだ。
何故なら、彼女は麗しく賢しい公爵令嬢。
まだ婚約者不在のマリリンには既に山のような釣書が送られている。両親は今のところ任せてくれてはいるが、一切興味はない娘を心配している為、先行きは不安。
仕事があるとないとでは大きく違うものの、なまじ公爵家のご令嬢であるだけに、容易に職などは見つからないし就けない。
それに王宮には魔導塔がある。
いち早く緊急討伐を嗅ぎつけることができる環境──
なにしろそこには心に決めた男がいるのだ。
20
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
聖女は寿命を削って王子を救ったのに、もう用なしと追い出されて幸せを掴む!
naturalsoft
恋愛
読者の方からの要望で、こんな小説が読みたいと言われて書きました。
サラッと読める短編小説です。
人々に癒しの奇跡を与える事のできる者を聖女と呼んだ。
しかし、聖女の力は諸刃の剣だった。
それは、自分の寿命を削って他者を癒す力だったのだ。
故に、聖女は力を使うのを拒み続けたが、国の王子が難病に掛かった事によって事態は急変するのだった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
だいたい全部、聖女のせい。
荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」
異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。
いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。
すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。
これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】婚約破棄寸前の悪役令嬢は7年前の姿をしている
五色ひわ
恋愛
ドラード王国の第二王女、クラウディア・ドラードは正体不明の相手に襲撃されて子供の姿に変えられてしまった。何とか逃げのびたクラウディアは、年齢を偽って孤児院に隠れて暮らしている。
初めて経験する貧しい暮らしに疲れ果てた頃、目の前に現れたのは婚約破棄寸前の婚約者アルフレートだった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】逆行した聖女
ウミ
恋愛
1度目の生で、取り巻き達の罪まで着せられ処刑された公爵令嬢が、逆行してやり直す。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初めて書いた作品で、色々矛盾があります。どうか寛大な心でお読みいただけるととても嬉しいですm(_ _)m
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
国護りの力を持っていましたが、王子は私を嫌っているみたいです
四季
恋愛
南から逃げてきたアネイシアは、『国護りの力』と呼ばれている特殊な力が宿っていると告げられ、丁重にもてなされることとなる。そして、国王が決めた相手である王子ザルベーと婚約したのだが、国王が亡くなってしまって……。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
孤島送りになった聖女は、新生活を楽しみます
天宮有
恋愛
聖女の私ミレッサは、アールド国を聖女の力で平和にしていた。
それなのに国王は、平和なのは私が人々を生贄に力をつけているからと罪を捏造する。
公爵令嬢リノスを新しい聖女にしたいようで、私は孤島送りとなってしまう。
島から出られない呪いを受けてから、転移魔法で私は孤島に飛ばさていた。
その後――孤島で新しい生活を楽しんでいると、アールド国の惨状を知る。
私の罪が捏造だと判明して国王は苦しんでいるようだけど、戻る気はなかった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる