勇者と聖女と婚約破棄と。

砂臥 環

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マリリンの事情

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──少し前のこと。

「……ちと甘すぎるだろうか」

王は玉座の傍らについていた宰相に小さく零した。

「宜しいのでは? 元より殿下に預けた荷が多かったのです。 もっと早目に分けるべきだったのでしょう、判断が遅かったのは我々大人の責任ですから──それに」

宰相は宮廷に集まっていた重鎮らを一瞥し、言った。

「あのお二方の婚姻に文句を言う者は、もう・・誰もおりませんし」

クロヴィスが見回した臣下達からの(生)温かい目──水を差すようなことを言うならば、そもそも婚約の時点で色々言ってた者にはクロヴィス自ら黙らせたのだ。
まあそうもなるだろ、という。(※当人はスッカリそんなこと忘れた模様)

「で、マリリン。 そなたは何故クロヴィスの稚拙な目論見に加担した?」

ナディーヌの努力は認めるが、やはり未来の王妃としては厳しい。
元々クロヴィスが王太子にならない、と言うなら受け入れるつもりでおり、そうでないならこの先どうするか厳しく問う予定でいた。

いつまで経っても決断どころか相談もしないクロヴィスを、苛苛しつつも見守っていた王である。最近のふたりの妙な行動から『婚約破棄馬鹿な計画』の想定もしていたが、敢えて放置していたに過ぎない。

だが、マリリンはそれも理解していた。

「はい。 私は立太子すべきは第二王子殿下であると愚行致しました。 ただし、『勇者』ナディーヌ様と『聖女』クロヴィス殿下は婚姻すべきかと。 しかしながらお二人が想いを交わさず、ただお立場などの外因の強さ故結ばれることは、あまりに危険……陛下のお叱りも想定し、殿下に協力することに致しました」
「ふむ……今回の件についてはわかった。 だが、そなたの利があまりにない」

マリリンはにこりと淑やかに笑い、再び口を開く。

「神託後のお子であらせられる為、王太子教育も踏まえた教育をされていると伺っておりますが、なにぶん第二王子殿下はまだ10歳……クロヴィス殿下とナディーヌ様には別のかたちで治世を担うお二人として、確固たる地位と第二王子殿下からの尊敬と信頼が必要かと。 微力ながら私もお支え致したく存じます」
「それは……第二王子との婚約を望む、ということか?」

ないことではないが、マリリンは第二王子の8つ上。
家柄だけでなく王妃となるだけの素養のある娘として婚約者候補に名が挙がっていたのは事実だが、それを自ら望むとなると些か心象は悪い。
此度の件も野心の為に動いたと王が感じるのも仕方なく、問う声も剣呑さが滲む。

だが、マリリンの答えは違っていた。

「いいえ、第二王子殿下の婚約者の教育係をお任せくださいませ。 あのナディーヌ様を無事卒業させた手腕を買っていただきたく」
「なんと……?! そ、それは願ってもないことだが」

やはりマリリンの利が見えず、皆困惑した。
しかしコレは、彼女にとっては充分に旨みのある話なのだ。

何故なら、彼女は麗しく賢しい公爵令嬢。
まだ婚約者不在のマリリンには既に山のような釣書が送られている。両親は今のところ任せてくれてはいるが、一切興味はない娘を心配している為、先行きは不安。
仕事があるとないとでは大きく違うものの、なまじ公爵家のご令嬢であるだけに、容易に職などは見つからないし就けない。

それに王宮ココには魔導塔がある。
いち早く緊急討伐を嗅ぎつけることができる環境──

なにしろそこには心に決めた男がいるのだ。
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