16 / 20
待ち受ける、難易度高めのハードル
しおりを挟む「それでですね~! 先生がご飯に連れてってくれたんですよ~♪」
翌日、リリアンはご機嫌でニコラスに昨日のことを話していた。
謝られた流れで。
リリアンをさっさと帰すつもりだったベネディクトだが、彼女の腹が鳴ったことにより時刻を確認すると、もう七時過ぎ。
いくら構内とはいえ外は既に暗いし、しかも寮の食事は門限でもある六時迄に申請せねばならないことを彼は知っていた。
研究棟内には夜半までやっている食堂があるので、送るついでにご飯をご馳走してくれたのである。
「滅茶苦茶機嫌悪そうだったって聞いてるけど……嬉しそうだね?」
そうでもなかったのかな~と思って聞いたニコラスだったが、リリアンの返事は笑顔での「はい!」だった。
「でもご飯美味しかったですし、なんと一緒に食べてくれたので『ご飯ミッション』もクリアですよ! それに『博士じゃなくて先生にしろ』って仰ってくれたんです。 ちょっと認めて貰えました♪」
「……ポジティブだなぁ。 私は先生に物凄く怒られたよ……」
「あはは(そりゃそうだよ)」
ポジティブというか、リリアンにとってはこれくらいの拒絶は想定よりずっと下だったので、全く問題ではない。
なんならあの時『クビ!』と言われてもおかしくなかったのに、ご飯まで食べさせてくれたのだからそりゃ浮かれもする。
「寮の門限は大丈夫だったの?」
「はい。 初日だし仕事内容がわからなかったので、一応『アルバイトにより八時までの帰宅』として申請していたんで」
「おお~流石」
(ただ、勉強ができなかったんだよな……)
仕事のスタートは上々。
なんか色々あったが、結果的に。
問題は勉強である。
確かにリリアンの成績は悪くはないが、かといって良いわけでもない。
卒業認定を含め、飛び級試験は四半期に一度。
春のは絶対に無理にせよ、できれば夏の試験にはなんとか受かりたい。
──というのに。
過去問をちょっとやってみたところ、二学年迄の履修分から出題されたモノすら大半がどうにもならなかったのだ。
それもその筈、バイトに勤しむリリアンは、授業でしっかり聞く以外に勉強をしていない。
試験前には範囲からヤマを張る系。当然試験が終わればすぐ忘れる。
『履修の調整はする』と言ってくれただけに、次の学年に上がる迄になんとか今迄の履修分を完璧にしておかねばならないが、既に難易度が高かった。
──リリアンが『リアン』として働き出してから、早くも一ヶ月が過ぎた。
いよいよ上の学年の卒業式が間近となり、同時に下の二学年は休暇前である為、授業は緩い。
皆は遊びに行ったりしているようだが、リリアンはその分少し早目にバイトに行っているので少し羨ましいが、仲間には入らない。
(遊びはお金と時間に余裕ができてから!!)
その日も早く行くべく荷物をさっさと纏め、寮へと戻るべく廊下を小走りで進む。
「リリアンさん」
ハイスクール舎の廊下でリリアンはクラス担当教諭クリフ・ニッシュに呼び止められた。
「はい?」
彼は落ち着いた独身の青年教師で、嫡男ではないが伯爵家子息と家柄もなかなか。
美丈夫という程ではないがそれなりに整った顔立ちでスラリと身長が高く、女生徒からの人気も高い。
ただしこの学園のハイスクール舎では、うら若きご令嬢方が通うだけに『クラス担当教諭≒聖職者』の場合が多く、ご多分に漏れず彼もそうだったりする。
クリフがリリアンに声を掛けた理由は──
「過去問、用意しといたよ」
コレである。
「あ、ありがとうございます!」
先日、図書室で過去の試験問題がないか探していたところ、クリフと出会した。
『用意してあげるよ』と言ってくれたので、リリアンは素直に甘えたのだ。
彼の使用している職員用の部屋についていくと、綺麗に束ねてまとめられた過去問を渡してくれた。
「飛び級、あ卒業認定かな。 受けるんだ?」
「ええ……まあ……受けたいな~と」
リリアンは、なんとなく笑って誤魔化しつつ答える。
(『誰かに頼まれた』とか思ってたのなら、そのままそう思っててほしかった……)
正直なところ今の成績で言うのはかなり恥ずかしいので、誰にも──クラス担当教諭である彼にも特に相談はしていない。
無謀にも程がある、と自分でも思うから。
2
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
世界一美しい妹にせがまれるので婚約破棄される前に諦めます~辺境暮らしも悪くない~
tartan321
恋愛
美しさにかけては恐らく世界一……私の妹は自慢の妹なのです。そして、誰もがそれを認め、私は正直言って邪魔者なのです。でも、私は長女なので、王子様と婚約することになる運命……なのですが、やはり、ここは辞退すべきなのでしょうね。
そもそも、私にとって、王子様との婚約はそれほど意味がありません。私はもう少し静かに、そして、慎ましく生活できればいいのです。
完結いたしました。今後は後日談を書きます。
ですから、一度は婚約が決まっているのですけど……ごたごたが生じて婚約破棄になる前に、私の方から、婚約を取り下げます!!!!!!
竜帝は番に愛を乞う
浅海 景
恋愛
祖母譲りの容姿の両親から疎まれている男爵令嬢のルー。自分とは対照的に溺愛される妹のメリナは周囲からも可愛がられ、狼族の番として見初められたことからますます我儘に振舞うようになった。そんなメリナの我儘を受け止めつつ使用人のように働き、学校では妹を虐げる意地悪な姉として周囲から虐げられる。無力感と諦めを抱きながら淡々と日々を過ごしていたルーは、ある晩突然現れた男性から番であることを告げられる。しかも彼は獣族のみならず世界の王と呼ばれる竜帝アレクシスだった。誰かに愛されるはずがないと信じ込む男爵令嬢と番と出会い愛を知った竜帝の物語。
[連載中]蔑ろにされた王妃様〜25歳の王妃は王と決別し、幸せになる〜
コマメコノカ@異世界恋愛ざまぁ連載
恋愛
王妃として国のトップに君臨している元侯爵令嬢であるユーミア王妃(25)は夫で王であるバルコニー王(25)が、愛人のミセス(21)に入り浸り、王としての仕事を放置し遊んでいることに辟易していた。
そして、ある日ユーミアは、彼と決別することを決意する。
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
求職令嬢は恋愛禁止な竜騎士団に、子竜守メイドとして採用されました。
待鳥園子
恋愛
グレンジャー伯爵令嬢ウェンディは父が友人に裏切られ、社交界デビューを目前にして無一文になってしまった。
父は異国へと一人出稼ぎに行ってしまい、行く宛てのない姉を心配する弟を安心させるために、以前邸で働いていた竜騎士を頼ることに。
彼が働くアレイスター竜騎士団は『恋愛禁止』という厳格な規則があり、そのため若い女性は働いていない。しかし、ウェンディは竜力を持つ貴族の血を引く女性にしかなれないという『子竜守』として特別に採用されることになり……。
子竜守として働くことになった没落貴族令嬢が、不器用だけどとても優しい団長と恋愛禁止な竜騎士団で働くために秘密の契約結婚をすることなってしまう、ほのぼの子竜育てありな可愛い恋物語。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる